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2020年8月23日 (日)

時間切れ


雨の中、僕は傘も差せずに歩いていた。
服は濡れ、下着も透けて見えているに違いない。
その下着が本来男が着けるべき種類のものではない事も解ってしまうのだろう。
僕は女装したまま、雨の降る街に置き去りにされていた。



薬の効果が12時間というのは解っていた。
だから奴がここを通る時間ぎりぎりまで待って薬を嚥下したのだ。
僕は夕闇が迫る薄暗い物陰に隠れていた。
既に服も着替え化粧もしている。
あとは薬が僕の肉体を女に変え終るのを待つだけだった。
作戦は…女の姿で奴と接触する…女であれば奴も気を緩める筈…隙を突いて…
僕は手にしたナイフを再度握りしめた。

しかし、僕は聞いていなかった。
女体への変化に激烈な痛みを伴うという事を…

ドクリと心臓が鼓動する。
薬が全身に染み渡ってたと思われるその時、痛みに意識が飛ばさた!!
朦朧とした頭で、変身が終わっていることは確認できた。
が、痛みの残る肉体は身動き一つできなかった。
立ち上がる事ができない。
奴に接触するどころか、声を掛けることも出来ない。
ぎりぎりまで待っていたのが仇となってしまったのか…

「奴」が目の前を通り抜けてゆく。

痛みに耐えながら、僕の視界から奴が消え去るのを見ていた。
奴が離れてゆくのとともに、僕の気力も失われてゆく。
僕は何の為にこの高価な薬を手に入れたというのだろうか…
僕はそのまま意識を失っていた。




喧騒が満ちていた。
(どこ?)
僕はソファーの上に寝かされていたようだ。
親切にも毛布が掛けられていた。
「気が付いたかい?お嬢ちゃん♪」
声のする方を見ると、髭面の男がいた。
「ここはどこ?」
「俺達の溜まり場さ。まだしばらくは休んでいた方が良い♪」
確かに男の言う通りのようだ。
上半身を起こすだけでもふらふらするようだ。
僕はおとなしく毛布にくるまった。
「何をしようとしていたかは敢えて聞かないが、側にあった物騒なナイフは預からせてもらってるよ。」
今となっては、それがあったとしても、もうどうにもならないのだ。
それは奴に近付ける千歳一遇のチャンスだったのだ。
悔しさに僕の目からは涙が溢れていた…


ギイッと扉が開く音がして、数人の男達が入ってきたようだ。
「おや?なんだい、その娘は?」
目ざとく僕を見つけた男がいた。
「表で拾った。」
と髭男。
「また悪い癖でも出たか?」
「そんなんじゃない。」
「後で俺達も良いか?」
「だから…」
新しく入ってきた男達は髭男の言う事など殆ど聞いていないようだった。
バーカウンターに陣取り、勝手に酒瓶を開け始めていた。

「動けるようなら、今のうちに出ていった方が良い。」
髭男が僕に耳打ちした。
「但し、ナイフだけは返す訳にはいかない。」
「どうしても?」
髭男は何も言わない。
交渉の余地なしというところか…
「なら…」
僕は決心した。
「なら、アタシを抱いて♪」
その言葉に髭男は僕をソファーから抱え上げると隣の部屋に向かった。

部屋の中にあったベッドの上に転がされる。
「良いかい、お嬢ちゃん。男に向かって軽々しく抱いてなんて言うもんじゃない。」
しかし、今の僕には他の選択肢などなかった。
「いいの…」
僕はブラウスのボタンを外していった。
「わかった…お前の覚悟はわかったから…とは言えあんたを抱く訳にはいかない…」
髭男は暫く考えた後
「じゃあ、あんたの口でやってくれ。」
「口?」
一瞬、僕は何を言われたのかわからなかった。
が、髭男が僕の前に立、ズボンの中からソレを引き出した時には僕にも理解が及んでいた。
硬く屹立したそれに顔を近付ける。
牡の匂いが立ち込めていた。
(やるしかないんだ!!)
僕は自分を奮い立たせ、ソレを口に咥えていた。



僕が髭男の精液をしっかりと飲み込んだのを見届けると、あのナイフを取り出して僕に渡してくれた。
「こっちが裏口だ。」
僕を店の外に出すとそのまま裏口を閉めようとする。
「待って…」
僕は髭男にすがった。
僕の下腹部の疼きはもう我慢できるものではなかった。
髭男の精液を飲み込んだことで牡の肉体のスイッチが入ってしまったのだろう。
僕の股間に愛液が滴っているのがわかる。
「お願い♪もっとシて…」
僕のおねだりも…
「変な薬でも飲んでたのか?そんなもんで大事なものを捨てるんじゃない。」
髭男は突き放すように、僕を裏口から追い出した。
外は静まりかえっていた。
飲み屋の灯りも消え、遠く点在する街路灯が僅かな明かりを落としている…
今が何時かなどを気にするよりも、一刻も早く肉体の疼きを鎮めたかった。
(誰でも良い…)
僕を抱いてくれる男はいないか?
闇の中には何の気配もなかった。

もう、限界だ…
僕は道端に座り込んでいた。
壁にもたれ、脚を開いた。
疼きはその股間の奥にある…
そこを自分で慰めるしかない。
ショーツの中に手を入れ、指先を送り込む。
「ぁああん♪」
快感が沸き上がる。
一本が二本となった…
髭男の逸物を思い出す。
この指より太く逞しかった。
それが僕の股間に挿入されるのを想像する。
「ああん…ああ…いい…♪」
更に胸を揉み、乳首も刺激して昇り詰めてゆく…



雨が降っていた。
雨水が僕を濡らし、火照った肉体と心を鎮めていった。
…僕は何をしているのだろう…
僕が(一方的に)惚れていた女が奴に寝取られた。
女はそのまま海外に売り飛ばされたと聞いた。
怒りなのか正義感なのか、僕は奴を許せなかった。
僕の全てを犠牲にしても奴を屠ろうとした。
奴の行動を分析した。

そして、この計画に辿り着いたのだった。

既に薬の効果は消えてしまっている。
僕の肉体は元の、男の肉体に戻っていた。
服は女の服のまま…
僕は立ち上がった。
傘もなく、濡れたまま、僕は街を歩き始めた。
女物の下着も濡れ透けて見えるのに、誰も見向きもしなかった。
僕はそのまま、アスファルトに弾ける滴の中に消えていった…

 

 

 

 

 

 

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