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2020年6月13日 (土)

生簀の中

その生簀で飼われていたのは人魚だった。
それも、本物の人魚である。
ジュゴンなどの海棲哺乳類の類いではない。
下半身は黄金色に輝く鱗に覆われた魚類の下半身。
上半身はヒトそのもの…それも美しい女性の姿をしている。
勿論、人間とは異なる生物であるので人魚に人権などはない。
また、学会で認められた種ではないので、保護対象生物の扱いもない。
捕獲しようが殺そうが、なんの咎めもないのだ。


彼は生簀から一体の人魚を引き上げた。
ピチピチと尾ヒレを跳ねて抵抗するが、錐のようなもので首筋を突くと人魚はおとなしくなっていた。
「蘇生するまで30分…」
男は独り言のように呟く。
ベッドのようなまな板の上に寝かせると、手にした包丁を下腹部に突き刺した。
真っ赤な体液が迸る。
構わずに尾の先に向けて切り裂いた。
腰から下は普通の大型魚類と同じである。
適当に切り取って寿司ネタ状に並べて置く。
重要なのは下腹部の内臓だ。
他の臓器を傷付けないように、子宮と卵巣だけを切離す。
新鮮なうちに液体窒素の容器に入れる。
人魚の方は切り口を閉じておけば自然に塞がり、蘇生する。
不死の生命力の成せるものなのだろう。
生簀に戻して1ヶ月もすれば、子宮も卵巣も再生されている。

人魚の肉を食うと不死になる
その様な話は様々な地方で語り継がれていた。
その真偽は「人魚」そのものの存在からして不確かなものであった。
しかし、この生簀には人魚が飼われており、その肉が刺身のネタ様に切り取られている。
実際、その肉は市中に流されていた。
特に美味いという訳ではなかった。
ましてや「食せば不死」などいう事もないので、その肉の出所を調べようとする者など出てくることはなかった。

ただ、液体窒素で凍らされた子宮と卵巣だけは趣きが違った。
これこそが「不死」の噂の元であった。
しかし、未だ確実に不死となる術が見つかってはいなかった。
殆どの事例は「変化なし」あっても「食あたり」程度である。
中には劇的な変化を迎える者もあった。
ただ、百に一例程度で人間の姿を留められる者がいた。
とはいえ、本来のものとは異なる姿となることは避けようもなかった。


この男もまたそんな犠牲者の一人だった。
家族で訪れた旅先の食堂で出された刺身の中に人魚の肉が混ざっていた。
そして不幸にもその中に子宮の一部が混入していたのだ。
彼の両親は食した直後にどろどろの肉塊と化していた。
彼自身は幸にもヒトの姿を保っていたが、その身体は一気に大きくなり、彼の父親と変わらない位に…
そして、その見た目は父親よりも10歳以上も老け込んだ様相となっていた。
それ以上に彼の兄の変化は劇的だった。

肉体の成長はあったが彼程の大きさまでにはならず、母親と同じ位で止まった。
が、その直後に両足が融合してゆく。
その表面に鱗が浮き上がってきた。
それだけではない。
胸が膨らみ、母親のものより大きく張りのある乳房となっていた。
その先端には鮮やかなピンク色の乳首が飛び出ている…
髪の毛も長くなり、顔も愛らしい女の子の造りに変わっていた。

「兄ちゃん?」
彼が確認すると、人魚と化した兄は大きく頷いた。
「とにかく、ここから離れよう。」
「父さん達は?」
「僕らには何もできない。それよりもお前は父さんの服を着ろ。裸のままはまずい。」
「…」
「それしかないんだ。僕には母さんの服を取ってくれ。」
兄は慣れない女の服に戸惑いながらもなんとか身に着けた。
「今のお前なら僕を抱えることができるだろう?車まで連れていってくれ。」
兄は弟に車を動かせた。
地図を確認し指示を出す。
勿論、行き先は海岸だった。

男は度々、その海岸に訪れていた。
自分が「不死」であることは早い段階で気付いていた。
何も食わないでも死ぬことはなかった。
耐えきれず自殺しようとしても死ねなかった。
そして兄が変化した「人魚」について調べ、自分が人魚の肉を食べたことで不死となったと理解した。
そして兄のことが気になった。
自分はまだ「ヒト」の姿を保っている。
が、兄はヒトでさえない。
世間に姿を晒すことはできないと一人海に姿を隠したのだ。
兄のことを知るのは自分しかいないのだ。

二度目に海岸に戻った時、彼は自分の名を呼ぶ微かな声を聞いた。
声は海の中から聞こえた。
「兄ちゃん?」
男はずぶずぶと海に入ってゆく。
ザバッと目の前に飛び出てきた…
頭…
長い髪に縁取られた、母にも似た…
「兄ちゃん!!」
力強く抱き締めた。
「く、苦しいよ。もう少し手加減してくれない?」
「ご…ごめん…」
久々の再会に様々な感情が入り乱れる。
波の飛沫が彼らの涙を隠してくれた。
「僕はこんな姿だ。誰かに見付かるとまずい。日が暮れたら、そこの岩場に来てくれないか?」
兄であった人魚はそう言うと波間に姿を消していった。


男はその海岸に来ると、毎回日が沈むのを待って岩場に向かう。
誰にも見られていないのを確認して兄を呼ぶ。
波間に兄だった者が現れると、抱き上げて岩の間の砂地に運ぶ。
「兄ちゃん…」
今度は優しく抱き締める。
それは恋人を抱くような加減で…
否、男は人魚が恋人であるかのように、唇同士を触れ合わせる。
「溜まってるんじゃない?」
唇が離れると人魚はそう言って男の股間に手を伸ばした。
ズボンのチャックを下ろして、中のものを咥える。
「あ、あぁ…」
男は呻くと濃厚な精液を彼女の口の中に放った。
彼にとり、人魚はもう「兄」ではなかった。
一人の「女」として愛してしまっていた。
「良いよ♪」
と人魚が仰向けに転がる。
男は下半身を脱ぎ去り、その上に股がった。
自らの逸物を彼女の膣に挿入する。
「んあ、ああ~ん♪」
彼女が悶える。
男は何度も、あるだけの精液を彼女に注ぎ込むのだった。


「この娘をお願いね♪」
別れ際に彼女は人魚の稚魚を男に渡した。
それは、彼女が産んだ男との間にできた命だった。
人魚はある程度成長しないと不死とはならない。
男はこれまでの経験で人魚の生態が少しではあるが解ってきた。
「じゃあまた。」
男は住み処に戻ると、隠していた生簀に稚魚を放った。
そこには成長途中の人魚の女の子がいる。
まだ不死ではないので何も食べなければ餓死してしまう。
瞬く間に稚魚は人魚の子の腹の中に消えていった。
この子はあと何匹の妹達を食べれば成人するだろうか?
たとえ成人したとしても、他の生簀の人魚達と同様に定期的に身を切られながら永遠の時を過ごすことになるのだ。

「いつ迄こんな事を続けるのだろう?」
男は自問する
が、答えは決まっていた。
「多分、死ぬ迄だろうな…」
男は生簀を一瞥すると、ベッドに潜り込んだ。

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