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2020年3月18日 (水)

ご褒美

黒い雲が空を覆い始めていた。
俺は足を速めて街道を進んでいた。
 
「街道」とは言っても、人通りは全くない。前後遥かを見渡しても人影は何も見えない。
俺の後ろに迫る黒雲に呑み込まれた場所からは何人も出てくることはない。
また、その事を知りこの先に住む人びとはとうに逃げ出している。
ましてや黒雲に向かってゆく者など居る筈もない。
 
「だから転移魔法は危険だって言ったでしょ?」
そう俺の耳元でまくし立てるのは妖精のニニだ。
魔法使いでもない俺のような一般人が魔法を魔法を使うには妖精を媒介にするしかない。
が、直接使役する魔法ではないので、ちょくちょく間違いが起きてしまう。
今回も黒雲からは充分に離れた場所に転移する筈が徒歩で10分程の所に放り出されたということだ。
「お前、わざとやってるだろう?」
とニニを問いただした所でまともな回答を得られる筈もなかった。
 
 
 
何故俺がこんな危険な場所にやってきたかというと…
「お金に困ったからでしょ?」
とニニが割り込んでくる。
ちょっと博打でスッてしまい、仕方なくギルドに掲示された中でも高めの案件に手を出したのだった。
仕事の内容は「今」最大級の懸案事項である黒雲に関わるもので、黒雲の進路を予測するためのアイテムを街道沿いに敷設していく事だった。
更に、黒雲に近い場所程見返りがあった。
ニニは転移魔法が使えるので、かなり接近しても問題はないと踏んでいた。
とはいえ、アイテムの敷設にもそれなりの時間を要する。
黒雲に取り込まれる前に離脱できるだけの余裕は必要なのだ。
 
「そろそろ敷設を始めないと時間が来ちゃうわよ。時間までにお仕事を終えないと何ももらえないんでしょ?」
ニニのアドバイスは時として正鵠をいる場合がある。
俺は黒雲との距離を確認すると、アイテムの敷設を始めたのだった。
 
 
 
アイテムは決められた時刻ぎりぎりで組み上がった。
アイテムは自動的に起動し、黒雲の情報をギルド本部に送り始めた。
「どうする?アイテムを回収して帰れば、かなりの上乗せがあるんでしょ?」
俺はニニの言葉に気持ちが揺らいだ。
もう一度、黒雲との間合いを確かめる。
ギリギリではあるが出来ないタイミングではない。
「ニニ、転移魔法はいつでも発動できるようにしておいてくれ。」
と俺が言うと、
「さっきからそんなに時間は経ってないのよ。同じ魔法は連続して使えないくらい知ってるでしょ?」
その言葉で俺の頭の中は真っ白になった。
上乗せどころの話しではない。
アイテムを残して早々にこの場を離れなければ俺自身の身が危ないのだ。
 
 
 
とはいえ、走っていったところで永遠に走り続けられる訳ではない。
早足でも良い、とにかく黒雲との距離を置き時間を稼ぐことだ。
「ニニ、何か適当な魔法は出ないか?」
「それが最適なものかなんてあたしには判断出来ないよ♪」
「このままだと、俺と一緒に黒雲に呑み込まれてしまうぞ。」
「大丈夫。あたしは最後には飛んで逃げることができるからね♪」
「飛ぶ?」
それは天恵だったのだろうか?
俺はニニに聞いた。
「俺も飛んで逃げられないか?」
「見れば判るでしょ、あたしの羽の力では明らかに重量オーバーね。」
「お前に運んで貰わなくても良い。お前と同じように俺を飛べるように出来ないか?」
「出来ないことはないけど、それをやると大変な事になるわよ♪」
「あの黒雲から逃げ切れればどうなってもいい!!」
「じゃあやるわね♪」
(?!)…
 
 
 
 
 
「おい、ニニ。起きろ!!」
聞いたことのある男の声がした。
あた…俺はどうやら意識を失っていたようだ。
「ねぇ、黒雲はどうなったの?」
俺は声を掛けてきた男に聞いた。
「まだ余裕はある。がぐずぐずしていられないな。」
男の顔が間近にあった。
少し距離を置いて…
 
って?俺って飛んでないか?
そして俺の前にいるのは「俺」??
 
「ニニ、もう転移魔法は使えるだろ?急いでここから離れるんだ。」
「ええ、わかったわ♪」
って、俺は何を言ってるんだ?
戸惑う俺の意識とは別に、俺の口は転移魔法の呪文を唱えていた。
 
 
 
転移魔法は成功し、黒雲からは充分な距離は取れていた。
「どういう事なの?」
あたしは「俺」に聞いた。
「お前がニニのように飛びたいと言ったからニニにしてやっただけだよ♪」
「じゃあ、どうすれば戻れるのよ?」
「妖精は自らの意志では魔法は使えないって事は知っているな?」
「あ…あたり前じゃない…」
「つまり、今の俺とニニの関係からすれば、俺がニニになりたいと思わない限り元に戻ることはない。」
「じゃあ、早くそう思ってよ!!」
「まあ、そう慌てるな♪俺はもう少しこの力強い肉体を楽しみたい。ニニも自由に空を飛ぶ事を楽しんだらどうだい?」
「もう少しってどれくらいなのよ?」
「そうだな、取り敢えずは明日まではこのままで良いんじゃないか?」
「あたしは即にでも戻りたいのにっ!!」
あたし…俺はプイと羽ばたき舞い上がっていた。
 
風に吹かれて冷静になると、先程までの自分の言動に赤面してしまう。
何故か自分の事を「あたし」と言い、自分が「ニニ」と呼ばれることに違和感を感じていなかった。
口調もまた「ニニ」そのものであり、はては「プイ」と飛び上がっていたのだ。
(言動が肉体に引きずられている?)
それは「俺」にも言えるようだ。
どう見ても「俺」は俺以外の何者でもないように見える。
もし、このままの肉体で時間が経ってしまうとどうなってしまうのだろう…
考えたくはなかった…と言うより、ニニの肉体に引きずられ、それ以上難しいことを考え続けることが出来なかった。
 
(♪)
花の薫りにつられていた。
飛んでゆくと色鮮やかな花畑があった。
あたしは羽で風を起こして花々の薫りを舞い上げると、全身にその薫りをまとい付けていた。
 
「ニニっ」
と呼ばれ彼の元に戻った。
「良い匂いがするな。」
と言われ
「てへっ♪」
と笑い、いつものポケットに潜り込んだ。
やっぱりココが一番落ち着くわよね♪
とあたしはポケットの中でうとうとし始めていた…
 
 
 
「ニニ、ギルドまで転移魔法だ。」
彼の指示に応じてあたしは呪文を唱えた。
あたし達妖精は自分で自由に魔法を使うことは出来ないし、マスターが命令を下したら物理的に出来ないのでない限り、その命令に従うことになっている。
呪文が完結すると、あたし達はギルドの玄関前に居た。
 
「オーケー、良くやった♪」
褒められた。
嬉しさに包まれながらも、何処かに違和感があった。
これまでも何度も転移魔法を使っていたが、今日みたいな精度で飛べたことはなかった気がした。
違う…、この前の転移からだ…
何が違っていたのだろう…
(でも、あたし達妖精はそう長い間難しいことなど考えてはいられない…)
 
彼がギルドで今回の報酬を手にしてきた。
かなり上機嫌で、
「お前にも何か買ってやろう♪」
と、いつもならその殆どを博打につぎ込んでしまうのに、何故かそんな事を言ってくれた。
彼はあたしを連れて服屋に入った。
上流階級向けのドレスが並んでいる。
一品物を仕立てるのがメインのようだが中・下級商家のご婦人向けに廉価版の既製服も置いていた。
「コレなんかどうだい?」
と何点か選んできた。
あたしへのご褒美の筈なのに、普通の人間の女の子の着る服ばかりってどういうこと?
「奥の部屋を借りるよ♪」
と、そのまま部屋に入っていった。
「じゃあニニ、人間の大きさになってご覧♪」
「っえ?」
あたしは意表を突かれ、一瞬何を言われたかがわからなかったが、条件反射的に呪文を唱えていた。
 
彼の選んでくれたドレスはどれもあたしにぴったり、しかも、あたしの可愛らしさを充分に引き立ててくれる。
その中でも一番気に入った薄緑色のドレスを買ってくれた。
「このまま着て行こう♪」
とドレスに合わせたいくつのアクセサリーと靴とバックも買ってくれた。
背中の羽根は広げられないので飛ぶことはできない…
けれど、こうやって彼の隣で並んで歩くのは、それはそれで嬉しい♪
指を絡めて手を繋ぐ…まるで恋人同士?
彼もまた、あたしを見せびらかすように街の中を歩いていった。
 
「ここが良いかな?」
足を止めたのはいつもより数段上のランクのホテルだった。
いつもならポケットに入ったまま通りすぎるフロントに、彼と並んで立っていた。
宿帳にはあたしの名前も書かれていた。
「さあ、行こうか♪」
と、自分の足で部屋に向かって階段を昇っていった。
彼が扉を開けると、広い部屋が広がっていた。
ベッドも広い。
あたしがいつもの姿に 戻れば本当に広すぎるくらいだ。
「今日はこのまま一緒に寝よう♪」
 
一緒に…って、ベッドの上には枕が二つ並んで置かれている。
布団は一枚しかない…
 
「んあぁ…ああん♪」
あたしは「ハジメテ」を彼に捧げた。
経験したことのない快感があたしを揺さぶる…
快感に淫声をあげてしまう。
隣の部屋にも届くのも気にする余裕がない。
(だからいつもより立派なホテルだったの?)
彼の指が、舌が、あたしを狂わせる。
彼の男性自身があたしを満たしてゆく。
幾度となく快感の高みに放り上げられる。
あたしのナカに彼の魂が注ぎ込まれ…
あたしは快感の中で意識を失っていた。
 
 
 
 
「おーい、大丈夫か?」
耳元にニニの声がした。
何がどうなっていた?
あたしがニニで、彼…俺に抱かれ、何度もイかされていた?
「大丈夫?」
あたし…俺の目の前でニニが羽ばたいていた。
「ニニ?」
そう発した声は「俺」の声だった。
「何がどうなってたのよ?」
「あなたがあたしのように飛びたいっていったから、あたしとあなたを入れ替えたの。」
「入れ替わっていた?あたし達が?」
あたし…俺の中にはまだニニであった時の影響が残っているようで、ついつい自身のことを「あたし」と言ってしまう。
 
「ごめんね。あたしもはしゃぎ過ぎちゃったみたい。」
「まあ、良いさ。黒雲からは逃げられたんだから♪…しかし…やり過ぎには違いないな。」
「…けど、あなたも満更じゃなかったんでしょ?」
不意にあたし…俺の頬が紅潮した。
「そ、そんな事言わないでよっ!!」
俺は両手で顔を覆っていた。
「シたくなったら何時でも替わってあげるわよ♪」
と、ニニがニヤついて言った。
 
 
「そ、それはともかく…」
俺は息を整えてニニに言った。
「確認したい事がある。俺が使った転移魔法がニニが使うより数段精度が高いようだ。ニニ、何か心当たりはないか?」
「妖精がそんな難しいこと考えられる訳ないでしょ♪」
「つまり、中身が俺だったことで、出現地点をより具体的にイメージできたということか…」
これは他にも応用ができる筈だ。
が、いくつか難点もある。
先ずは俺とニニが入れ替わらなくてはならない。
次に魔法の発動には「俺」からの指示が必要なことだ。
「俺」になったニニが正しく指示できるものなのかが不安として残る。
そして、どのタイミングで俺が「俺」に戻れるかだ。
 
「ねえ、お腹空いてない?」
と、ニニに考えを中断された。
確かに食事の時間をかなり過ぎてしまっていた。
「そうだな。」
と、立ち上がる。
「あたしもアレ着てみたい。」
ニニが昨日買ってもらったドレスを指していた。
「そうか?」
「だから♪身体を大きくして良い?」
俺が了解すると、ニニは昨夜の俺と同じ人間の姿になった。
いそいそとドレスを身にまとう。
「どお?」
とスカートをヒラヒラさせ俺に見せ付けた。
「もしかして、お前がコレを着たいために俺に買ってくれたなか?」
「てへっ♪」
ニニは笑って誤魔化していた。
 
 
 
 
 
 
「ニニ、替われっ!!」
俺が声を掛けるとニニの魔法が発動する。
あたしはニニとなり、攻撃魔法の照準を捉える。
あとは彼の指示があればいつでも撃てる。
「やっちゃって!!」
彼の指示とともにあたしの指先からの閃光が魔獣に向かって駆ってゆく♪
「「やったね♪」」
二人の声が重なる。
仕留めたのは結構大物だったようだ。
「ご褒美に新しいドレス、買って良いよね♪」
彼がウキウキとあたしに聞いてくる。
「これ以上荷物を増やしてどうするのよ?」
「良いじゃん♪あなたも着てみたいでしょ?」
俺としては止めさせたいのだが、肉体に引っ張られてしまう…
 
 
「あたし…綺麗?」
今日買ったのはドレスだけではなかった。
セクシーな下着もだ♪
そしてベッドの上…
ドレスを脱いだあたしは彼にそう聞いていた。
勿論、その答えは決まっている。
唇が合わせられ…セクシーな下着も剥ぎ取られる…
「当然でしょ♪あなたはあたしなのだから。」
あたしは彼の腕の中で再び快感に満たされていった♪
 

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