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2018年11月 4日 (日)

親友

「ハクっ♪」
と声を掛けてきたのは親友の大樹だった。
彼以外に俺のことをハクと呼ぶ奴はいない。
俺の名前、志村博史の「博」を読み替えて愛称にしていたのだ。
尤も「今」の俺の名前は浩美だから、どこからこの愛称が生まれたかを説明するのには時間が掛かる。

そう、今の俺は博史ではなく浩美…つまり女になっているのだ。
スカートを穿いて髪を伸ばし、今日はお化粧だってしている♪
勿論、表面的なもの…単なる女装ではない。
三年前の事故で俺の肉体は正真正銘の「女」になってしまったのだ。
 
 
高校三年の夏休みに原付の免許を取り、ツーリングに出掛けた。
山道を走っていた時、当然の豪雨に遭遇した。
たまたまそこにあった小屋の前にバイクを停め、軒下で雨宿りをさせてもらっていた。
滝のような雨が降るなか、雨音を圧して、ゴゴゴッと遠くで地鳴りの音がした。
土砂崩れ?
心配はしたが、地鳴りの音は近づくことはなく、再び雨音だけになった。

ホッとした直後、今度はドンッ!!という爆発音…
そして猛烈な風が巻き起こり、あっという間にバイクは吹き飛ばされ、小屋にしがみついていた俺も、小屋ごと宙を舞っていた。

気が付いたのは病院のベッドの上だった。
意外とどこにも痛みはなかった…というのも、あれから一ヶ月が過ぎていたのだ。
聞くところでは、俺は幸いにもかすり傷程度で済んだらしい。
ただ、傷とは別の重大な問題があった。
あの山の中にはとある化学工場があり、その一部が土砂崩れで破壊されたばかりでなく、備蓄されていた薬品と雨水が反応して爆発したのだ。
その際に、特殊なガスが合成され、俺はしばらくの間そのガスに晒されてしまった。
その結果、俺の肉体は完全に女性化してしまったということらしい。

検査とリハビリのため更に三ヶ月入院させられた。
学校は春からもう一度三年生をやり直すことになった。
少しでも好奇の目に晒されないようにと学校も変わることになったが…
俺は高校最期の一年を女子校の女生徒として通うことになったのだ。
春までに女の子として最低限の知識を教え込まれたが、その後の一年で女の子に磨きがかけられた。

その間も暇があれば気分転換に大樹とは今まで通りに遊んでいた。
余談だが、女になって初めての正月に大樹と初詣に行くことになった時、両親から「どうしても!!」と振袖を着させられることになった。
その後も、この先「女」としてやっていかなければならないので、大樹と遊ぶ時も女の格好をしていた。
夏にプールに行った時も当然、女の水着になるのだが、こっちはスクール水着のつもりが、その前の週に学校の友達と一緒に買ったセパレートの水着姿を大樹に見せることになってしまった。

俺は大樹と同じ大学に進学した。
大樹もそうだったが、俺も大学進学を機に一人暮らしを始めた。
「女のたしなみ」だと言われ、家事一般を叩き込まれていたので、自炊そのものに不便はなかった。
大樹はこの一年、外食とカップ麺で過ごしていたようで、大樹の部屋で遊ぶ時には俺が二人分の食事を作っている。
「ハク♪どうせなら毎日作ってくれないか?」
などとふざけた事を言う。

俺は今「女」だ。
だが、大樹とは男同士の気分でずっと付き合ってきた。
これからもそのつもり…なのだが…
 
 
 
今日は大樹と遊びに出るのだが、何故か俺は朝早く目覚めてしまっていた。
いつもより念入りに化粧をした。
いつもより念入りに髪を梳かしていた。
ブラとショーツは今日の為に選び抜いたものを着ている。
そう…俺は今日「女」になるのだ!!
 
 
いつもの待ち合わせの場所に佇んでいると、
「ハクっ♪」
と大樹が声を掛けてきた。
(?)と大樹の視線が俺の顔に止まる。
「どうかした?」
と聞くと
「なんかいつもと雰囲気が違うような…って、気のせいだよ♪」
俺は心の中で(気のせいなんかじゃ無いよっ!!)と叫んでいたが、
「じゃあ行こうか♪」
と大樹の腕を取った。
これもいつもとは違う行動だが、大樹は受け入れてくれたようだ。

映画を観て、食事をして、ゲームをして、カラオケに行って…
夕食の後で陽の落ちた公園を散歩する。
木々の向う側にチラチラと電飾が瞬いている…
「なあ、あそこに行ってみないか?」
と俺が言うと、大樹が固まるのがわかった。
「俺もそろそろ覚悟を決めたいんだ。」
「…お、俺なんかでいいのか?」
「大樹とならな♪ 行こっ!!」

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