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2018年8月14日 (火)

異世界

異世界への入口はどこにでもあった。
しかし、その存在を知る者は殆どいない。
なぜなら、その存在を知った者はその場で異世界に取り込まれてしまうからだ。
 
そう…その路地を曲がったところに♪
 
 
 
あっ…
薄暗がりの路地を曲がったところで僕は躓いてしまった。
なんとか転ぶのだけは堪えたが、次の瞬間…
僕は異世界に居ることに気付いた。
 
そこが「異世界」だということは疑いようもない。
街中を歩いていた筈が、僕のまわりには見知らぬ木々が鬱蒼と繁っていた。
夜中の筈が、燦々と太陽の光が照りつけている。
その太陽が二つに見えたのは目の錯覚ではなかった。
 
そして僕自身の姿…
RPGのキャラクター然とした服になっている。
腰には剣が提げられていた。
冒険者…否…正確には女冒険者だ。
胸当てはその下にあるもので押し上げられていた。
胸元を覗き込むとくっきりとした谷間が確認できた。
お腹の周りには着衣はなく、かわいらしい臍の穴が覗いていた。
太腿を剥出しにする半ズボンの股間には、当然のように親しみのあった膨らみは存在しない…
ショートブーツにつながる脚はカモシカのように細く、白く弾力のありそうな肌には脛毛などはない。
 
カサリ
と草葉の擦れる音がした。
見ると、そこに見たこともない小動物がいた。
「?」
その小動物は僕を見返していた。
「小動物やない。ワシにはルータンという名前があるんや!!」
そいつが喋った?
「ワシは勇者の案内人や。そこいらの魔法少女のペットとは格がちがうんやで!!」
どうやらこいつは僕の頭の中が読めるらしい…
「だから、ワシはルータンだと言っているだろう?」
「ん?ああ…で、そのルータン君は一体僕に何のようがあるんだい?」
「なんや、僕っ娘かいな。」
「心が読めるなら僕が本当は男だってことも知ってるんだろう?」
「当然やがな♪だからその姿で僕、僕言うのに違和感があると指摘してるんや。」
「あたし…って言うのか?僕には無理だよ。」
とは言うものの「あたし」って言った時、それは今の僕の声に合ってたのは確かだ。
「要はあんたが自分のことを女だと認めることができれば自然と言えるようになるわな♪」
 
ルータンはいつの間にか僕の肩の上に昇っていた。
「で、ワシは勇者の案内人と言ったやろ?これからあんたが一人前の勇者になれるよう指導してやろうってことやな♪」
「僕が…勇者?」
「だからそんな格好をしてるんやろ?ワシがここに呼び出されたのもあんたが勇者の卵だからに他ならんのや!!」
「別に僕は好きでこんな格好をしてるんじゃないよ。気が付いたらこの姿でここにいたんだ。」
「なら、あんたは勇者になりたくないんゆうんやな?」
「そもそも僕は元の世界に戻りたいんだ。」
「そか…勇者になりたくないんか…」
ルータンは少し考え込んでいるようだ。
「ルータン?」
と僕が声を掛けると、
「仕方なかか…」
と力なく呟いていた。
「本来であれば勇者となって魔王を倒したのち、王様より与えられる望みを叶える魔法の水晶の力で元の世界に戻すんやが…」
「今戻れるなら、即にでも戻りたいな。」
「ワシに出来んは元の世界に戻すだけやからな。」
「お願いします!!」
 
僕がそう言うと、ルータンは呪文のようなものを唱え始めた。
と同時にクラクラと眩暈がし始めた。
 
 
 
プアッ!!と警笛の音…
自動車の走り去ってゆくエンジン音…
「ケイコ、大丈夫?」
と女の子の声…
 
目蓋を開いた。
そこはもう異世界ではなかった。
普段通りの街の景色がそこに広がっていた。
が…僕は元の「僕」ではなかった。
「どうしたのよ?ぼーっとして♪」
と女の子が僕の顔を覗き込んできた。
僕は本来の啓吾という男子ではなく、啓子という女の子になっていた。
僕は生まれた時から女の子だったことになっていた。
 
僕はもう一度異世界に行き、本来の自分を取り戻したかったが、異世界への入口はなかなか見つからなかった。
 
「僕」が放り込まれたあの場所にも何回も足を運んだけど、今もって僕…あたしは異世界に行けていない。
そう…時は冷酷にも、あたしを「女の子」であることに馴染ませてしまう。
もう「男」だった時の自分を思い出せない…
「どう?諦めはついた?」
と彼が声を掛けてきた。
あたしはついに首を縦に振った。
それは、長い間保留していた彼のプロポーズへの返事でもあった。
 
異世界への入口はどこにでもあった。
しかし、その存在を知る者は殆どいない。
なぜなら、その存在を知った者はその場で異世界に取り込まれてしまうからだ…

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