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2017年10月21日 (土)

テロ

「うあーーーっ!!」
叫んではいたが、それは音として耳に届いては来なかった。

俺はひたすら墜ち続けていた。
そこが何処なのかなど、記憶になかった。
底までどれくらいあるのか、知る由もなかった。
俺は暗闇の中を、ひたすら墜ち続けていた。

「おい、起きろ!!」
声が聞こえ、覚醒した。
夢を見ていたようだ。
俺は声を掛けてきた盟友を見上げた。
「変な声を上げるな。それにそろそろ時間だ。」
どうやら夢の中で発した叫びは現実でも発せられていたようだ。

「時間」とは俺たちが行動を開始する時間だ。
他の仲間達と綿密な計画の上で決められている。
所謂テロ行為である。
腐敗した現体制を覆すには、正攻法ではどうにもならないという結論に達したのだ。
とはいえ、下っ端の俺たちに廻ってくるのは、政庁やマスメディアなどの主要拠点ではない。
陽動工作である。
華々しい演出が期待され、奴等の目をこちらに引き付けている間に本隊が拠点を攻略するのだ。

「準備は良いか?」
「ああ…」
俺は声を掛けてきた盟友に気の無い返事をする。
怪しまれないようにするというのは解るのだが…
(何で俺が幼稚園児で奴が母親役なんだ!!)
別に俺が母親役をやりたい訳ではない。
俺が女の子の園服を着て奴を「ママ♪」と呼ばなければならないのが腹立たしい。
と小さくなった身体で奴を見上げた。
スタイルの良い女体にピシッとしたスーツを纏い、髪を結い上げ、化粧も決めている。
「ちょっと化粧が濃すぎないか?」
「良いのよ、このくらいで。それより、チーちゃんも言葉遣いに気をつけなさいね。」
つまり、これから先は女児を演じろということ…
「は~い。」
と返事をして、俺たちは近くの目的地に向かった。

「もっと速く歩けないの?」
想定はできた筈だった。
女児の足では成人男性と同じスピードは出せないのだ。
克てて、俺たちは元々速めに歩く。
それを基準にスケジュールを立ててしまっていたのだ。
かといって、遅れを取り戻す為に真剣に走っては変身した意味もない。
それに、奴もタイトスカートに踵の高い靴を履いている。
まともに走れるとは思えない。
「無理に決まっでてるでしょ。」
女児らしく拗ねたように立ち止まる。
「あのね、チーちゃん。あたしたちにはやらなくてはならないことがあるのよ。解ってるでしょ?」
奴も母親らしく、俺の前にしゃがんだ。
「間に合わなくちゃ意味ないんでしょ?」
俺が言った直後、街中に時刻を告げる鐘の音が響いてきた。
「間に合わせる!!」
奴は素に戻り、俺の鞄を奪い、靴を脱ぎ、スカートが捲れ上がるのも無視して走り出した。
走りながら起爆装置を取り付けているようだ。
周囲の状況は目に入っていないのだろう。
皆が自ら避けてくれるのを幸いに、一気に駆け抜けていった。

そして、目的地が目と鼻の先まできた。
パン、パン!!
銃声が響いた。
奴の向かった方から女の悲鳴がした。
ピッピッと警官が人々を誘導し始めた。
この場に止まっている訳にもいかない。
俺は隠れ家に戻っていった。
が…
(この先、俺はどうすれば良いのだろうか?)

まずは元の姿に戻ることだ。
こんな子供の姿では思うように行動できない。
確か冷蔵庫に変身した時の薬を入れておいた…
(あった♪)
俺はそこに入っていた瓶を手に取り、蓋を開け、一気に飲み込んだ。

全身が波打つように震える。
(来た♪)
それはこの肉体に変身した時と同じだった。
違うのは今の俺が子供だということと…
(ヤバイ!!)
前回は全裸になってから薬を飲んだのだ。
肉体の変化に服が対応できないからと奴は言っていた。
全身に傷みが走り、ミシミシ、ビリビリと音がする。
女児の衣服に押し込められた成人の肉体が、その服を散り散りの布片に切り裂いていた。
まあ、二度と着ることはないので問題はない。
と、元に戻った身体を…
(?!)
な…なんだ?これは!!

俺の肉体は大人には戻ったが、それは本来の「俺」の姿ではなかった。
強いて言えば、あの女児がそのまま大人になった?
よく見ると瓶には数字が書いてあった。
今、俺が飲んだのには18。
最初のに飲んだのには6。
盟友のには30。
冷蔵庫に残っているのにはそれぞれ54、78とあった。
多分、この女の年令なのだろう。
どの瓶を飲んでも同じ遺伝子情報なのだろう。
つまりここでは元に戻れないということだ。
俺は盟友が用意していた女の服を着て隠れ家を後にした。

街中には警官が彷徨いていた。
射殺された女テロリストと一緒にいた女児を探しているようだ。
当然ではあるが、俺とすれ違っても警官が反応することはない。
俺は地下鉄に乗った。
車内ではテレビが各地で同時発生したテロについて報道していた。
テロはそのどれもが未然に防がれていた。
時間を置かずに本部も突き止められるに違いない。
(これでは本部に戻る訳にもいかないな…)
茫然自失となった。
ドアの窓に女の子の顔が写っている。
これが「俺」なのだ…
(当分はこのままか?それとも一生か?)

駅に止まる度に人が乗ってくる。
満員になり身動きが取れなくなった。
(?)
背後から俺の尻に触れていた何者かの手が、意識的に動いていた。
(何で俺なんかの尻を?)
と思ったが、今の俺が女の子であることに思い至った。
痴漢だ。
が、騒いだところでどうなるというのか?
逆に、警察に介入されると不味いのではないか?
別に本物の女の子ではないので、屈辱を感じることもない。
が、放置している間にも、手の動きはエスカレートしていった。
スカートの中に入り込み、直接俺の肌に触れてきた。
前方に回り込み、ショーツの上から股間に触れてくる。
(ァッ…)
股間の割れ目に指が食い込んできたと思うと、感電したように快感が身体の中を貫いていった。
(俺が女として感じている?)
指先の与えてくる刺激が、快感となって俺を苛んでゆく。
ジワッと股間が濡れ始める。
ガクガクと膝が笑い、立っているのが辛くなる。
(?)
俺の腰に腕が巻かれ、支えてくれた。
更に腕は俺を、俺の背後の人物と密着させる。
腰の辺りに何か硬いモノが当たる。
それが男のペニスであることは容易に想像がついた。

徐々に俺の身体が持ち上げられた。
既に自分の足では立っていられなかった俺は、されるがままになっていた。
ショーツの隙間から指が差し込まれる。
男には存在しない股間に穿たれた肉孔に入り込んでくる。
「んぁ、ぁあっ…」
襲ってくる快感に、俺は媚声をあげていた…

俺は本部にも、どこかの支部にも向かうことはなかった。
体制の腐敗など、もうどうでもよくなっていた。
金のありそうな男に声を掛ければ、ふかふかのベッドが約束される。
快感と小遣いも手に入る。
警察に捕まらないようにするのだけは変わらないが、こんな人生もアリかと思う。

な、何だこの女は?
泥棒猫って俺のことか?
何包丁なんか取り出して…

お…俺は死ぬのか?
床の上に広がっている赤いのは、俺の血か?
ああ…意識が遠くなってゆく…
俺は、薄れる意識の中で54と書かれた瓶を手にして…

警官がその部屋に踏み入れた時には、広がった血の海だけが残っているだけだった。

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