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2017年2月14日 (火)

映画(シネマ)のように

突然、雨が降ってきた。
傘などさす暇もなく、一気に降ってくる。
鞄を頭の上に乗せ、雨宿りできる所に走っていった。


まあ、当然の事だけど、服は下着まで水浸しになっていた。
去年までの僕なら、何の躊躇いもなくワイシャツもTシャツも脱いで水を絞っていただろう。
でも、今年の僕はそんな事できない。
それ以上に濡れたシャツが下着を…肩紐の存在を透かしているのが、とてつもなく恥ずかしい。
そう僕は今、肩紐のある下着…キャミソールとブラジャーを着ているのだ。

否!!
僕は男のくせに女の下着を着ている変態なんかではない。
僕の胸にはちゃんと乳房があり、それを納めるためのブラジャーは必須アイテムなのだ。
僕はもう「男」ではないのだ。
「女子」として女子用の制服を着て通っているのだ。
体育の時間も女子と一緒に受けているし、プールに入る時も女子のスクール水着を着ていたし、更衣室でも他の女子と一緒に着替えているんだ。
女の子になった僕が、女の下着を着ているんだ。どこに問題がある?
 
問題があるとすれば、男だった僕が女になってしまったという事だろう。
勿論、去年の僕はちゃんと「男」だった。
おしっこも立ってしてたし、淫らな事を考えれば、ちゃんとテントも張っていたんだ。
別に性転換の手術を受けた訳でも、小説にあるような奇病に罹かった訳でもない。
ましてや宇宙人や悪の組織に改造されたなんて事でもない。
それは、ちょっとした悪戯の結果だったんだ。

 

 

「佐藤♪明日からの連休、空いてるか?」
「何か用か?」
振り返らずとも声の主が親友の鈴木一郎であることは判っていた。
「お前、見たいって言ってた映画があっただろ?姉ちゃんがチケットが手に入ったからって♪」
「タダで見れるって事か?だが、連休使ってまでってどういう事だ?」
「ああ…ちょっとな♪」
僕が問い質す視線を向けると…
「そのな…上映館が指定されててな。その日には帰って来れない場所なんだ。もちろん宿泊も込みのチケットだ♪」
「まあ、タダなら問題ないか…それに、見たかったやつだしな。」
「良かった。明日の朝イチで俺ん家に来てくれないか?」
「駅で待ち合わせじゃ不味いのか?」
「姉ちゃんが何か言っておく事があるそうだ。」
「判った。」
と、僕達は泊まりがけで映画に行く事になった。

何で上映館が決まっているかは、ちょっと調べるだけで判った。
場所はその映画の舞台となった町だ。
いわゆる「聖地巡礼」がセットになったプランなのだろう。
しかし、鈴木の姉さんが言っておきたい事って何なんだろう?
結局、その答えは調べても見つからなかった。

 
「で、光ちゃんにはあたしの代わりとして行ってもらう事になるの♪」
翌日、鈴木の家に行くと鈴木の姉さんが待ち構えていた。
「今から貴女が〈鈴木花子〉だからね♪」
と、僕の服を脱がしにかかった。
「光ちゃんならあたしの服がそのまま着れるでしょ♪」
「って、何でお姉さんの服に着替えなきゃならないんですか?」
「言ってなかったっけ?今度のチケットってアベック限定なのよ。映画のストーリーは知ってるでしょ?」
確かにカケオチしたアベックがすったもんだのあげく、その町の氏神様の計らいで皆に祝福されて結婚するような話だ。
まあ、ストーリーはともかく、僕は主演女優のファンなのでこの作品を見逃す訳にはいかなかったんだ。
「だから、光ちゃんは一郎の恋人になってもらわなくちゃ♪昨今、ボーダーレスとか言われてるけど、弟の恋人はやはり可愛い女の子じゃなくちゃね。」
「そんなあ~…」
しかし、どんなに抵抗しても鈴木の姉さんに敵う訳はなく…僕は下着から一式、彼女の服を着せられ、更にはお化粧までされてしまった。
付け毛をして長くなった髪で鏡を覗き込むと、そこにいる筈の僕ではなく、可愛い女の子がそこにいた。
「いってらっしゃ~い♪」
と見送られて、僕は鈴木とともに駅に向かった。

(知り合いには…特にクラスメイトには絶対に会いませんように!!)
必死の祈りが通じたか、何とか誰にも会わずに目的地に向かう電車に乗り込めた。
電車は以外と空いていた。僕らはボックスシートに並んで座った。
「恋人同士っていう設定だろ?お前は窓側で良いから、並んで座ろう♪」
と窓側に押しやられた。
まあ、この方が他の乗客から見られない分、僕の女装がバレる確率は低くなっただろう。

目的地に近づくにつれ、トンネルが多くなる。
トンネルの中では窓ガラスに車内の様子が写しだされる。
気が付くと、鈴木の視線は窓の外ではなく「僕」を見ていた。
「な、何だよ。僕ばかり見て?」
「姉ちゃんに言われたろ?ボクって言う女の子はいない訳じゃないけど…」
「ワ、ワカッテルヨ…ワヨ…。ア…アタシ…デショ?」
「駄目。無理に裏声を使うと違和感丸出しだよ。」
「でも、地声だとこうよ…」
「その方が自然だよ。光は男でもあまり声は低くないから、気を付けて高めにしてればそれなりに聞こえるよ♪」
「違うでしょ?あたしは花子。鈴木花子。あんたは山田高夫でしょ。」
「悪い悪い。しかし、その声なら問題ないよ♪」
「でも、疲れるわ。できるだけ喋らないようにするから、よろしくね♪」
と、喋りは鈴木に任せる事にした。
ただでさえ慣れない(当たり前だ!!)女装の上に…
「胸もないと不自然だから」と胸に貼り付けられた偽乳房が意外と重く、バランスがとり辛いわ、肩が凝るやらで喋りにまで気を使うのは疲れるのだ。

 
「実際。お前は可愛いし、そんな格好なんかされると惚れ直しちゃうな♪」
「惚れ…て…」
「俺達は恋人同士だろう?だからこんな事しても問題ないよな♪」
と、突然 鈴木の顔が迫り

チュッ♪

音をたてて僕の唇に吸い付いてきた。
(わっ!!バカ、止めろ!!)
と僕の頭の中では鈴木を押し退けようと必死になっていたが…
僕の肉体は固まってしまっていた。
頭の中がぼーっとしてくる。

(もしかして、これって僕のファースト・キッス?)

頭の中が混乱している間にも、トンネルを抜けると鈴木は離れていた。
車内アナウンスが僕達の降りる駅の名を告げていた。
鈴木が網棚から荷物を降ろす。
「これ。姉ちゃんがたすき掛けにしてろって。」
とポシェットを寄こした。
中にはハンカチやティッシュ、口紅やコンパクトなどが入っていた。
「後の荷物は俺が持つから♪」
「当然でしょ♪」
電車がホームに入り、僕達は席を立った。

 

 

ホテルのフロントには同じ目的と思われるカップルがちらほらといた。
僕達は山田高夫・花子でチェックインし、部屋に荷物を置くと映画の上映会場に向かった。
予告編で見た景色があたりに広がっている。
僕は映画のヒロインになった感じで道を歩いていった。
会場は坂を上った高台の公民館という事だ。
坂を上る途中で陽が沈んでゆく。
「キレイ…」
僕は足を止め、茜色に染まる世界をみてそう呟いていた。
「ああ…」
と鈴木が僕の脇に立ち、その腕を僕の肩に回してきた。
少し涼しくなってきたので、その温もりは嬉しかった。
「会場まであと少しだ。陽が落ちきるまでには入ってしまおう♪」

 
映画が終わると迎えのマイクロバスに分乗してホテルに戻った。
そこから先は明確なスケジュールは決められていないので、各自好きなように夕食をしたりした。
僕も他の女子達と同じように、ホテルのレストランに鈴木と向かい合って座り、映画の感想なんかを話していた。
慣れてきた所為か、高めの声も楽に出るようになったので、男言葉にならないようにだけ気をつけていればよかった。
(喋る時に自分の事を「あたし」って言うのも無意識にできるみたい♪)

 
部屋に戻り、ベランダから夜空を眺めてると、彼が寄り添ってくる。
厭じゃないし、彼の温もりは心地よかった。
「ぁっ…」
背後から抱き締めてくれる彼の腕が僕の乳房に押し付けられていた。
(偽乳房の筈なのに、触れられてるのが判るの?)
「どうかした?」
「ううん。何でもない。」
気のせいだと無視してみたが、一度気にしてしまうとあちこちと気になってしまう。
背後から密着する彼の肉体…腰の辺りに違和感がある…
丁度、彼の股間が押し付けられていて…
硬く勃起したモノの存在を感じた。
僕…あたしに感じてるの?
ピクリと乳房の先端で乳首が硬くなった気がした。

(あたしも感じてる?)
ジワリと股間が潤んだような感じがした。
「光…良いかい?」
首筋を舐めあげられ…
「あ、ああん♪」
あたしは変な声をあげてしまった。
「お、俺…もう我慢できないっ!!」
ぎゅっと抱き締められる。
「だ、ダメよ。あたしは…」
しかし、抵抗しようにも、手足に力が入らなかった。
崩れ落ちそうになるところを必死で彼の首にしがみつく。
ふっ…と、足の下から床が消えた。
あたしは彼に抱かれていた。

そのままベッドに運ばれた。
服が脱がされる。
「綺麗だよ♪」
「ダメ…灯りを消して…」
薄暗い星灯りのなか、彼も服を脱いでいった。
肉体が重なる…
彼があたしを貫いていった。

 

朝。目が覚める。
二人とも全裸でベッドの上にいた。
僕は夕べ「何」が起きたのかを思い出してみた。
それは僕の「ハジメテ」だった…って、僕は鈴木の姉さんの代わりに女の格好をしているだけで、中身は「男」なのだ。
胸は造りモノだし、股間には男のシンボルだって…

しかし、今僕にはその存在感を感じられていなかった。
逆に偽乳は生来の僕のもののようにそこにあった。
僕はトイレに向かった。
便座に座り、股間を覗き込んだ。
そこには女の子の溝が刻まれていた…

「光?どうした、大丈夫か?」
「鈴木…僕は〈男〉だよな?」
と彼に確認を求めた。
「えっ?何を言ってるんだ。姉ちゃんの代わりをしてるだけで、お前は…」
と、彼も言葉を詰まらせた。
「あ、あれは〈夢〉じゃなかったってことか?…すまんっ!!」
「謝られてもどうにもならないよ…」
「お前がすっかり女らしくなっちまったんで…最初はふざけてただけだったんだが…本気になっちまって…」
「本気だろうが何だろうが…って、おふざけで犯られたんじゃなお悪いわ!!」
「すまん。責任は取るっ!!」
「それは女の子に使う台詞だろ?僕は男だ。」
「だが、犯ったと言う事実は変えようもない。」
「なら、僕を男に戻してくれっ!!」
「そ…それは…」
僕も無茶な事を言っているとは判っていた。
僕が女になった原因も解らない彼にはどうする事もできないのだ。
「か…神様にお願いするしかないか…」

そう。映画でも氏神様がなんとかしてくれた。
僕達はいま、その神様のいる町にいるのだ。
僕達は朝食も採らずにその神社に向かった。
映画に倣い、各自一万円を賽銭箱に捩じ込むようにして納めると、必死で祈った。
(どうか僕を元に戻してください!!)

 

 

…結果
僕は「女」のままだった。
但し、神様は何かをしたに違いなかった。

「光♪」
と降り続く雨の中、大きな傘を指した鈴木がそこにいた。
「ほら。拭けよ♪」
とスポーツタオルが渡された。
肩に掛ければ下着のラインも見えなくなる。
「俺ん家で乾かせば良い。」
たぶん、それだけでは済まない事は明白だった。

 
あの日…僕が女の格好のまま戻って来ても、誰も何も言わなかった。
僕の部屋には女子の制服がぶら下がっていた…制服だけではない。私服も下着も全て女の子のものに変わっていた。
部屋の中には、僕が「男」だったという痕跡はどこにも残っていなかったのだ。

連休明けに学校に行くと、僕達は既に公認のカップルという事になっていた。
僕は生まれた時から女の子で、一郎とは幼馴染みからそのまま恋人になったということだ。

 
「おじゃまします♪」
と一郎の家に上がる。
「ただいまで良いのよ♪」
とお姉さんが声を掛けてきた。
「親達いないから、多少大きな声が出ても問題ないから♪」
(って、何をけしかけてるんですか!!)
「お風呂は沸いてるわよ。」
僕は勝手知ったるで風呂場に向かい、脱衣場所で服を脱いだ。
お湯に浸かり、冷えきった身体を暖めた。
(この先…)
僕は遠くない未来を見てみた。
僕はこのまま、一郎と結婚し、嫁として一生を終えるのだろうか?
一郎との間に子供ができれば、子供の世話と家事に追われる毎日…
でも、一郎が優しく僕を…あたしを抱いてくれれば、疲れなんか吹き飛んでしまうに違いない…

「光、溺れてないか?」
ドアの向こうから一郎が声を掛けてきた。
「大丈夫。いま上がるわ♪」
と、湯船から出て身体を拭く。
頭にタオルを巻いたり、バスタオルを胸元で留たりと、「女」の仕草も無意識に済ましている。
「服は姉ちゃんが乾かしてくれてるから、そのまま部屋に行こうぜ♪」
と、一郎の部屋に入るなり、バスタオルを剥ぎ取られた。
「本当に、いつの間にこんな淫らな肉体になったんだろうね?」
「いつ」は明確なのだが、一郎でさえその事を記憶していない。
だから、あたしはこう答える…

「あなたに愛された時からよ♪」

 

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