« 義兄は僕の… | トップページ | みのり »

2016年11月23日 (水)

帰還

俺はスロットルを握り直した。
この先には雲霞の如く押し寄せるモンスターが待ち受けているのだ。
僚機も夫々のポジションに向かっていた。

 

作戦0時に戦艦から主砲が放たれた。
かなりのモンスターが焼失した筈であるが、まだ多数のモンスター達が残っている。
それを個別に対処してゆくのが俺達の役目だった。
戦艦の射線に空いた空間に跳躍して一気に距離を稼いだ。
後方は若いのに任せておく。
長射程のミサイルを打ち放ち、回避してくるモンスターをバルカン砲で撃ち取ってゆく。
これまでに何度も効果のあった戦術であり、訓練も重ねてきた。

が、今回はミサイルを無視して隊列を維持したまま突っ込んできた。
(ミサイルを起爆させるべきか?)
一瞬の迷いが運命を分かつ…

ミサイルはモンスターの隊列の後方で炸裂した。
奴等に殆ど被害はない。
奴等が一斉に襲い掛かってきた。
バルカン砲のような近接戦兵器では、多数の敵を一殲できる能力はない。
一体を倒している間に背後に取り付かれてはもうどうしようもない。
間合いを取ろうにも、この空間はどこもモンスターに埋め尽くされているのだ。
機体の動きを封じられ、俺はコクピットから引きずり出されると、一体のモンスターの腹の中に押し込められた。

 

 

耐Gスーツが溶かされてゆく。
モンスターの腹壁から消化液のようなものが降り注ぎ、俺を溶かしに掛かっていた。
否。溶かしていたのは衣服類だけであった。
皮膚も体毛、髪の毛も消化液に溶けることはなかった。
全てを溶かしきった後、俺はごろりとモンスターから吐き落とされた。

(床?)
たぶん、そこはモンスター達の母艦なのであろう。
壁際には活動を停止しているモンスター達が並んでいた。
俺を吐き出したモンスターは俺を無視するかのように置き去りにして、母艦の奥へと向かっていた。
即にもここから脱出する手もあったが、全裸で母艦の外に出るのはリスクが高そうだった。
俺は俺の存在が無視されているのを利点と感じ、俺を吐き出した奴の後を追うことにした。

扉を潜り抜けてゆくと、次第に喧騒が鎮まってゆく。
奴はいくつかの角を曲がり、ある部屋に入った。
そこには様々な機械が配置されていたので、容易に身を隠すことができた。
奴は中央にあるカプセルの中に入った。
自動的に蓋が閉じ、機械が起動する。
奴の入ったカプセルの周囲にそこから繋がる五つの小さめのカプセルがあった。
小さい方には、最初は何も入っていなかったが何かが造られているようだ。
大きな方のカプセルが止まり、蓋が開いた。
が、中身は空である。モンスターは消えてしまっていた。

続いて五つのカプセルが開く。
その中には「人間」がいた。
…それは「俺」と全く同じ姿をした五人だった。
カプセルは造りあげた「俺」を外に出すとまた新たな「俺」を造り始めた。

ドアの開く音がした。
別のモンスターがやってきて五体の「俺」を回収してゆく。
その後、カプセルが新たな「俺」を外に出し、次を造り始める。
俺は次に回収にきたモンスターの後をついてゆくことにした。

 
魂のない「俺」の肉体はピクリとも動くことはなかった。
床の上に整然と並べられていた。
その数が30体になったとき、別の扉から同数のモンスターが現れた。
一体づつ「俺」の隣に並んでゆく。
30体のモンスター達が位置につくと「俺」を持ち上げ、その中に入り込んでいった。
自ら立った「俺」の脇にモンスターの脱け殻が転がっていた。
また別のモンスターが現れ、脱け殻を破棄し「俺」のための衣服を用意してきた。
「俺」達はその服を着ると、入ってきた扉からいずこかに去っていった。
そして、その部屋には新たな「俺」が五体づつ運ばれてきた。

俺は自分がまだ裸のままである事を思いだした。
「俺」が着ていった服であれば俺も着れるのは間違いない。
俺は衣服をもってきたモンスターを探し、その供給源から一着を拝借した。

服が手に入った事により、ここからの脱出もまた選択肢に浮上してきた。
「俺」の件はまた、持ち帰るべき情報としても不足はない。
(であれば躊躇うことなどない♪)
俺はここからの脱出に向け行動を開始した。

 
とはいえ、現在位置とて不明な状況である。
単に脱出した所で、無事に本隊に辿り着かなければ意味はない。
何か使えるものがないかとうろついていると、格納庫らしき場所に辿り着いた。
そこには見覚えのある機体が並んでいた。
(何故この機体がここに?)
といぶかしく思う間にも、モンスターの一団がやってくる気配がした。
現れたのは10体の「俺」だった。
この機体を操作するには人間体であることは都合が良いのは自明である。
「俺」が10機の機体に乗り込むと、次々と発進していった。
(どこに向かうのだろう?)
仲間が俺と誤認して奴らを基地に連れ帰ってしまった場合、何が起きるか?
様々なシチュエーションが俺の頭を過る…

それ以前に、俺は行動を起こしていた。
格納庫に現れたのは「俺」が10体だけで他にモンスターは現れなかった。
現時点で俺の行動を阻止する奴はいない。
俺は飛び出すと11機目の機体に飛び乗った。
幸いにも、操縦系統もそっくりコピーされている。
エンジンを起動させると、俺は10機の後を追った。

 

バルカン砲はトリガを引けば放たれるようになっていた。
残弾数が気になるが、放てるだけでも儲けものだ。
後方は気にせず、先行する10機に意識を集中した。

10機の尻は見えている。
俺の意識の集中具合が機体にも伝染したか、通常よりも反応が良いように感じる。
相手が「俺」であればミサイルなどで堕ちることはないし、確実に一体づつ仕留めたかった。

最後尾の一機に詰め寄った。
照準の中央に捉え、トリガを引いた…

 
一機、二機と機体が四散し、中の「俺」も砕け散った。
(まだ半分か…)
と、残弾数を確認した。
(??)
弾が減っていない?
どこか故障か?と機体を再確認する。
(ミサイルが一本無くなっている?)
その間にも俺は次の機体に襲い掛かっていた。
(7機目か…)
相手も次第に反応が良くなってきている。
前半よりも弾の消費が激しい。
しかし、機体の運動性はこちらの方が上である。
俺の経験に加え、機体との相性が良い。
自分自身の手足を動かすように…阿吽の呼吸も遅く感じる程に動いてくれる。
(あと二機…)
残弾数は?

(どくりっ!!)

俺の心臓が激しく鼓動した。
次の瞬間…
残弾数が復活している。そしてもう一本のミサイルが消えていた。
そう、この機体はモンスターによる贋作なのだ。
その素材からして本来のものとは別ものなのだ!!
ミサイルを分解してバルカン砲の弾を供給していた事になる。
俺は燃料計を見た。
これもまた底を尽きかけている…

(どくりっ!!)

再び心臓が鳴った。
そして燃料が増えていた。
機体のどこかが失われたに違いない。
しかし、その事に気を取られている暇はなかった。
俺は9機目に襲い掛かっていた。
猛禽が獲物に襲い掛かるように、この眼で獲物を捉え、鈎爪を広げ威嚇する。
獲物がどこに逃げようとするかは全て見通せていた。
バルカン砲で退路を絶つ。
獲物の真上に被さり、加速し、刺し貫く!!
9機目が四散した。
(残り一機♪)
レーダーなどなくともそいつの気配で位置は判る。
かなり水を開けられたが、届かない距離ではない。
機体の一部を燃料と弾に変え、これを消費し続けているので、機体は大分軽くなっている。
奴の行動を予測する。
少し距離をロスするが、奴の死角に回り込める♪
機体に指示を与える必要はなかった。
俺が行こうとする方向に勝手に向かってゆく。
機体は俺の肉体と同義であった。

奴の死角から無音で近付いてゆく。
バルカン砲の照準から奴が離れる事はなかった。
あとは必殺の距離まで近づくだけだ。
もはやトリガーを引くまでもない。
俺が睨みつけただけで最後の一機は粉々に砕け散った…

 

 

 

あとは単純に本隊に帰還するだけだった。
攻撃する相手がいなくなったので、バルカン砲は弾ごと解体して燃料に変えた。
計器などなくとも、俺はこの機体の隅々まで把握している。
航行に不要なものは次々と燃料に変えていった。
見知った地形が見えてきた。

しばらくして、近くに味方の気配を感じた。
俺は彼らが近付いてくるのをそのまま待っていた。
と、突然彼らがバルカン砲を撃ち込んできた。
かなり逸れた射線である。警告射撃だろう。

俺は通信機も燃料に変えてしまっていた事を思い出した。
このままでは彼らにこちらの状況を伝える手段がない。
彼らはもう一度撃ってきた。
機体を掠めるような射線である。
今できる選択は…逃げることだけだった。

目眩ましに宙返りを掛け、そのまま一気に手近の大地を目指した。
もう燃料は気にする事はない。
飛ぶことさえ考えなくても良い。
不要な部位を切り離し、彼らを撹乱する。

彼らは撃ってはこなくなった。
最期のひと吹かしでブレーキを掛け、大地に転がり落ちた。
そのまま木々の間に身を隠す。
彼らの機体は二度三度と近くを通過するが、そのまま基地に帰っていったようだ。

 

俺は立ち上がった。
そして違和感に襲われる。
俺は機体の中に居た筈である。外に出た覚えも放り出された覚えもない。
俺は機体との一体感をもったまま立ち上がったのだ。
つまり、立ち上がったのは俺自身ではなく、俺の乘った「機体」だった。
それがまだ「機体」と呼べるかは怪しい。
現時点で不要なものは全て放出していた。
しかし、新たに必要なものは造られていた。
そう、機体に足が生えて「立って」いるのだ。

(このままこの機体に乗っていてはいけない!!)
ようやく、その危険性に気が付いた。が、時既に遅かった…

俺の肉体は完全に機体と融合してしまっていた。
既にコクピットそのものが失われていた。
いつの間にか俺の肉体とともに燃料と化していたのだろう。
今はこの機体が俺の肉体だった。
機体の残骸から手足を生やした姿はモンスターよりもおぞましいに違いない。

 
(手足を生やせたのであれば、この機体=肉体を人間らしい形に変えられるのでは?)
とは思ったが、自分自身を再現することは不可能に近いようだ。
背中などほとんど見ていないし、記憶にも定かではない。
この肉体であれば、カメラを生やして背中を写すこともできるが…
あやふやな記憶で肉体と衣服を再現してみたが、やはり違和感を隠せなかった。

記憶だけで再現できない所は「実物」を見ればよい♪
本隊に向かうまでの間には「人間」に出会う。彼らをサンプルとして補正すれば良い。
俺は本隊の方角に向かい歩き始めた。
この身体は疲れる事を知らなかった。
燃料さえ補給すれば昼夜の別なく歩き続ける。
更に燃料の補給として肉体の一部を変換せずとも「食事」をする事で食べたものを燃料に変換できる事が解った。
そして食べるものは何でも良いのだ。人間が食べるものばかりではない。土や鉄であっても今の俺には「食料」となるのだ。
道に転がった石ころをいくつか携帯して食料とすることにした。

道とはいってもしばらくは獣道である。
やがて付近の村人の狩りの道となる。
それでもまだ「人」に出会う事はなかった。
村人が生活に使用するようなしっかりした道となった。
一方に水の流れる音が聞こえる。川があるのだろう。
反対側には集落があるのだろう。
今はまだこの姿を大勢の人間に見せる訳にはいかない。
俺は川に向かった。

まだ早朝である。
人が居るとは思わなかった。
気配は川の支流を少し遡った場所にあった。
そこに、泉で身を清めている若い女の姿…
「きゃっ!!」
俺のたてた物音に、彼女は小さく叫んで裸体を隠した。
「別に怪しい者じゃない…」
(この姿は十分に怪しいのだが♪)
俺は彼女を落ち着かせようと声を掛けた…が
「ギガガウォン、グガガガガ…」
俺は喋り方を忘れてしまっていた。
もとより、この口も喉も俺本来のものではないのだ。
そして、俺の姿を見た彼女は恐怖に顔をひきつらせ、そのまま崩れるように泉の中に落ちていった。

泉…水の中では息ができない。
息ができなければ人間は死んでしまう。
そんな簡単な事が連想できるようになるまで、しばらく時間が掛かった。
彼女の頭は完全に水の中に没していた。
(引き揚げなければ…)
ようやく俺は泉の中に入っていった。
彼女を持ち上げ岸に向かう。
(息をしていない?)
俺はチューブを造ると彼女の口から挿入し、肺に入った水を吸い出した。
次に空気を送り込む。
心臓は動いているので血液がちゃんと酸素を運んでゆくのを確認した。
横隔膜に刺激を与え、自ら呼吸できるまで待った。
(しかし、彼女が目覚めてもう一度俺の姿を見た時、どんな反応をするだろうか?)
想像がつかなかった。
俺は彼女の脳に探査針を差し込んだ。
彼女の記憶を確認する。
そして、俺が現れてから気絶するまでの記憶を消去した。
(あとは俺がこの場所を離れるまで目覚めないようにすれば良い…)

俺は彼女を横たえて立ち上がった。
泉の水面に俺の姿が写る。
(流石にコレは女の子には刺激が強すぎるな♪一刻も早くサンプルを…)
そんな事を考えた俺の目に、彼女の裸体が写った。
(彼女もサンプルには違いない…)
このままの姿で男のサンプルを見つけるか、一旦彼女の姿を借りるか…
(女となる事に何の不具合があるのか?)
今なら、彼女の隅々までサンプリングできる。このような機会はそうあるものではない。
それに、俺と出会った記憶を消すために彼女の記憶を取り込んでいる。「女」としてどう行動すれば良いかも判っている…

 

 

俺…あたしは本隊に向かっていた。
これまでにも何人もの男と出会った。
「女」の前では平気で裸体を晒す彼らをサンプルと使うこともできたけど、あたしは「男」に戻ろうとは思わなくなっていた。

その晩、あたしを抱いたのは軍属の男だった。
一息吐いている間、彼は一枚の紙を見ていた。
そこには何人かの男の顔写真が印刷されていた。
そのひとつは「俺」だった…
「何、それ?」
と訊いてみる。
「最近奴らの手口が巧妙になってな。人間のフリをして紛れ込んで来るんだ。これは現在判っている人間の顔をしたモンスターだ。」
「な、何か怖いわ…」
「大丈夫だよ。奴らはいつも同じ顔でやってくる。双生児以外で同じ顔を見かけたら怪しいと思ってれば良い。」
「他に見分ける方法はないの?」
「奴らは息をしない。真夜中をぶっ通しで歩いても疲れることはない。そして奴らはほとんど飲み食いしないんだ。」
「水も飲まないの?」
「霞を食ってでも生きていられるようだ。まさにモンスターそのものだな♪」
あたしはもう一度「俺」の顔写真を見た。
(もう持ち帰る情報に意味はない。隊に戻る必要どころか「俺」として戻ればモンスターとして扱われるだけだ…)

 
朝…
あたしはこれまでとは別の道に踏み出していった。

« 義兄は僕の… | トップページ | みのり »

コメント

コメントを書く

(ウェブ上には掲載しません)

トラックバック


この記事へのトラックバック一覧です: 帰還:

« 義兄は僕の… | トップページ | みのり »

無料ブログはココログ