« 転生者(7) | トップページ | 転生者(5) »

2016年9月24日 (土)

転生者(6)

気が付くと、俺は肉体のコントロールを取り戻していた。
「夢」ではあったに違いないが、俺の股間は愛液に濡れていた。
新しい下着を取り出し、股間の汚れを拭ってから穿き替えた。
当然、もう一度ファッション誌に向き直る気分ではない。

無意識に行動していると、この肉体の「女」の記憶が表面化して内に在る「俺」を拘束してしまうのではないかと考えた。

鏡に自分の顔を写してみる。
それは「俺」とは全く異なる「女」の顔である。
当然、髭など生えていない。掌を頬に当てても、剃り跡は感じられない。
すべすべとした肌…
陽に焼かれた跡も綺麗に消えていた。

俺はいつの間にかブラシを手に取り、髪を撫でつけていた。

慌てて手を広げブラシを床に落とす事で肉体の主導する行動を阻止した。
(今は俺の意思で肉体を動かせている)
俺は床からブラシを取り上げ、鏡の脇の棚に置いた。
棚には歯ブラシや積まれたタオルの他にいくつかの瓶が並んでいた。
整髪料かと思ったが、即に肉体の記憶に否定される。
瓶は化粧水や乳液…所謂女の化粧用品が並んでいるのだ。
(そういえば今朝から何もお手入れしてなかったんじゃない?)
と肉体の記憶に引きずられそうになり、慌てて気を引き締めた。

 
(どうすれば俺は「俺」を保っていられるのだろうか?)
考えても答えがでるものではないと知りつつも考えてしまう。
が、
その考えは突然中断された。

「キィーーーーーン!!」
突然の耳鳴り。
目の前が一気に暗くなる。
ドサリと音がしたのが、自分の倒れた音だとは認識できていなかった。
痛みより、押し寄せてくる強迫感に圧倒されていた。
「大丈夫?」
と声を掛けられ、ようやく自分が立っていない事に気付いた。
「何か感じたんじゃない?」
「…な、何か…」
「転生者は危機に敏感だと言われてるの。感じたなら教えて。どっちから感じたの?」
俺が指を伸ばし、強迫感の強い方向を指すと
「提督。2時の方向です。」
彼女がインカムに告げると、程なく艦が進路を変える加速度を感じた。
「立てる?行きましょう♪」
と俺は彼女に抱えられるようにして艦橋に入った。

艦橋は緊迫していた。
窓に見えた「モニタ」には様々な情報が表示され、刻々と変化を続けている。
「第二射来ます。」
「潜航して回避!!」
その直後、身体が浮くような感覚…
艦が下に向かったのだ。
モニタの中に二本線が上に向かって描かれた。
「回避しました。」
「舵を戻せ。左舷より斜行。敵潜は確認できたか?」

その時、俺は上から伸し掛かられる感じを受けた。
俺が上を見たのを見た提督が叫ぶ。
「最大船速!!この場から離れるんだっ!!」
「キャア!!」
急加速によろけた俺は、女の子のように叫んでいた。
よろけた先はクッション…ではなく、あの若い参謀の胸の上だった。
倒れないように逞しい腕に包まれていた。
「衝撃にそなえよ!!」
数百発の雷が一度に落ちてきたような音と振動に艦が震えた。
あたしは両手で耳を塞ぎ、ぎゅっと瞼を閉じた。

「船体に異常なし」
「軽傷も含め負傷者はありません」
艦橋には艦内の各所から報告が入ってくる。
艦橋は落ち着きを取り戻し始めていた。
浮かない顔の提督があたしを見ていた。
「と…特に変な感じはしていません。」
あたしは彼に支えられたまま、答えていた。
「あれは何だったんですか?」
「それは僕から説明しよう。提督はまだしばらくは忙しいからね♪」
と、彼があたしの質問に応えてくれた。
「物理的な攻撃については、想像ででしかないが、空中機雷と同様な物が海中に設置されていたと思われる。」
「海中機雷?」
「ネーミングはセンスの問題だが、ある一定以上の速度で移動するものを捉え、魚雷を起動させるようだ。」
彼は艦橋の隅のシートにあたしを誘導した。
「しかし、魚雷であれば探知も可能だが、敵は回避される事を想定し第二打を仕掛けていた。」
「あの大爆発?」
「そう。魚雷を回避した先に相当量の爆薬を仕掛けていたのだろう。君の示唆がなければ、我々は海の藻屑となっていただろう。」
「じゃあ、あたしの感じたアレは何だったの?」
「転生者の多くに現れる特殊能力だよ。まだ解明はされていないが、危機を予知する能力と言われている。」
「予知?」
「転生…それ自体に時間移動が含まれている。だから転生者は直近の未来を感じられるのではないかと言われている。」
「未来を見れるの?」
「いや。未来からの声を聞いているようなものだろう。最悪の事象にあげられた悲鳴が聞こえたんだろう。」
「じゃあ、悲鳴をあげた人は…」
「未来はいくつにも分岐している。実際にその危機に遭遇する分岐にいれば…」
あたしは目の前が暗くなるのを感じていた…

« 転生者(7) | トップページ | 転生者(5) »

コメント

コメントを書く

(ウェブ上には掲載しません)

トラックバック


この記事へのトラックバック一覧です: 転生者(6):

« 転生者(7) | トップページ | 転生者(5) »

無料ブログはココログ