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2016年9月24日 (土)

転生者(7)

気が付いたのはベッドの上だった。
「怖がらせて御免と言ってたわよ。」
あたし…俺は服を着たままベッドに横たえられていたようだ。
「彼が運んでくれたのか?」
「軽々とね♪まるでお姫様を抱いた王子様みたいだったわ♪」
「な、何ですか?その表現は!!」
「それから…」
彼女は俺の抗議を無視していた。
「彼がね〈お詫びに、東京に着いたら食事でもどうですか?〉って♪」
「それって…」
「デートに決まってるじゃない♪こちらに来てから結婚した転生者もかなりいるらしいわよ♪」

(デート…結婚…)
俺の頭の中がぐるぐるまわってゆく。
俺が…男と結婚?
あの人素敵♪結婚できたら良いな…あたし
結婚したら、白昼夢みたいに俺があの男とSEXするのか?
あの人の赤ちゃんを産んで、幸せな家庭を作りたいな♪
俺が赤ん坊に乳をやるのか?
それ以前に、俺が妊娠し、出産?

俺の思考は凍結した…

…彼との急接近にうきうきしているあたしがいた。
「ねえ、彼ってどんなタイプの娘が好みなのかな?デートの時の服を選ぶの手伝ってね♪」
「…」
彼女が唖然とした顔であたしを見ていた。
「どうしたの?」
「な、何か…普通の女の子だな…って。」
「あたしって、何か変だった?」
「転生者でしょ。それに性別まで…」
「性別?」
あたしは女の子よね?
…でも…
この世界に転生してきたあたしは…
(〈あたし〉じゃない!!)
転生する前の「俺」は心身ともに男だったのだっ!!
転生した先が女の肉体であっただけで、俺が「男」である事に変わりはない!!
「っあ、その顔。やっぱり元に戻っちゃうんだね。」
「く、くだらない事は言わないで欲しい。ただでさえ精神が不安定なの。ちょっとのきっかけで自分を失ってしまうみたい。」
「良いんじゃないの?最終的には第三の人格に統合されるとか言われてるから♪」
「他人事だと思って、気易く言わないで欲しいわね。第三の人格?まだ何かあると言うの?」
「いえ、多分あなたはあなたのままだと思うわ。あなたの中の二つの人格が混ざりあった…というか、〈二つ〉という垣根が意識できなくなった状態ね♪」
「良く解らないわ…」
「今は理解しようとしない方が良いかも。とにかく、今の自分に正直になる事ね。」
(正直に…)
俺は今、何を〈偽っている〉のだろうか?
俺の「男」の意識が女の格好をするのに抵抗を持っている。
確かにこの肉体では「男装」する方が「偽っている」という事になる。

女の肉体を美しく飾る事も悪くはない。ただ、その女の肉体が俺自身であることが不本意なのだが…
正直に言えば、鏡の中の女に化粧を施し、美しくなってゆくのを嬉しく思っている。
この肉体に似合う服を選んでいて、時間が経つのを忘れてしまう事もある。
そして…自分が飾りあげたこの姿を彼に見せたとき、「綺麗だね♪」と言われたらどんなに幸せな気分になることだろうか?

(自分に正直になれば良い…)
何か、スッと肩に掛かっていた重いモノが外れたようだ。
例え女の肉体で、女の服を着、女のように化粧をしても、俺は「俺」なのだ。
そう…少しばかり、この姿に相応しい喋り方をしたところで、この姿に相応しい仕草をしたところで…俺は「俺」なのだ。
彼に抱き止められ、幸せな気分になったのも、他の何者でもない「俺」だったのだ。
(否定すべきではない。正直になるだけだ。)
それが「デート」と言えるものかは解らない。が、折角彼が誘ってくれたのだ。
その食事への誘いを断る必要はない…否、俺は誘われた事を歓んでいるのだ。
素直になって彼の誘いを受けよう。
彼と並んで相応しい姿に着飾らせてあげよう。
彼のエスコートに、素直に従おう…そう、食事が終わってからも…

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