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2016年9月24日 (土)

海賊の掟

海賊船幻影号の主コンピュータは俺の旧友であった科学者伊・那の頭脳を取り込んだ生体コンピュータである。
その中には伊の意識が顕在化しており、自然言語でのインタフェイスを可能としていた。
更に伊は意思の疎通を円滑にすべく、艦橋内に立体映像を投影し、彼の疑似人格を具現化した。
「イナちゃんで~す♪聞きたい事があったら何でも聞いてね?」
と現れた伊那の姿は、彼本来のものとは全く異なっていた。
「何?あたし、どこか変?」
と10代の女の子がくるりと回るとスカートが広がり、パンツのお尻にプリントされた愛らしい熊の姿が露になった。
「お前は…乗組員逹の目の毒だっていうのが判らないのか?」
「このセーラー服って結構評判良いのよ♪でもね…皆さんが期待してるのは…」
「い、言わんでも良いっ!!」
「そうよね♪船長はあたしがスクール水着で艦橋に現れるなんて絶対に許さないわよね♪」
辺りから「おお…」とどよめきが上がった。
皆、こいつの水着姿を想像していたに違いない。
「航海士!!前面モニタに航路図を出せっ!!」
俺は気を引き締める為、航海士に指示を与えた。

 

 
海賊船幻影号は「海賊船」ではあるが、海賊行為は殆どした事がない。
艤装が軍の巡洋艦と同等の火力・防御力を持っている民間船であり、特定の企業の自警団に属している訳でもない為「海賊船」に分類されているだけだ。
その船速と堅さで整備の行き届かない辺境航路での荷物運びや航路整備の仕事を大手企業や政府から下請けして報酬を得ているのだ。
「現時点では予定航路上に本船に危険となるような障害物は見当たりません。」
航海士からの報告を聞いた。
「まあ、港から出たばかりだ。当分は楽な道程が続く筈だ。今のうちに交代で休息を取っておけ。」
俺がそう言うと
「イエッサー!!」
の声が艦橋に響き渡った。

「あたしが必要な人はいつでも呼んでね。イナちゃんは即に駆けつけま~す♪」
の声に
「おお♪」
と声が上がった。
「おい、伊!!」
「イナちゃんだよ♪いいかげんに覚えてよね♪」
「何がイナちゃんだ!!お前には男としての矜持は無いのか?」
「そんなの、肉体と一緒に消えちゃたわよ♪今のあたしには性別なんて意味ないしぃ。だったら、皆が悦んでくれるイメージを実現させてあげた方が良いでしょ?」
「それは単純に最適解を求めただけなのか?お前の中のアニマが暴走してるんじゃないのか?」
「もし、そうだったら?」
「お前をもう親友とは呼べなくなる。」
「じゃあ恋人にクラスチェンジね♪」
「バカな事言ってるんじゃない!!」

もう何度も繰り返された伊との問答だ。
結局いつも答えは出ることはなかった。

乗組員逹に呼ばれた伊…イナちゃんが、彼らの船室で何をしているかはプライバシーの問題もあり、聞く事はできない。
俺には恐ろしくて想像もできなかった。
「でも知りたいんでしょ?」
と俺の傍らに伊=イナちゃんが現れる。
「なんたって、この船には男しかいないものね♪」
「そうだ。女が居ると風紀が乱れる。」
「海賊船に女は要らないってのがあんたのポリシーだったものね♪」
「何故そこで過去形にする?」
「アレスの薔薇に刺されちゃったんでしょ?」
「…発症するのは十万人に一人だ…」
「でも、発症しちゃったんでしょ?あたしはこの船の主コンピュータなのよ。この船の中で隠し事はできないわ♪」

と、俺は追い詰められた。
俺はこの船に女は要らないと言い続けていた。
なのに…
「そうだよ!!発症したよ!!発症して、俺は女になってしまったよ!!」
「だから、あたしはとっくに知っていたわ。あんたが悩み抜いていることもね。」
「じゃあ、俺にどうしろと?」
「カミングアウトするなら、この船に女性を乗せることね♪そうでなければ、あたしのシてる事に口出さないこと!!」
「だ…だから、お前のしてる事って?」
「単なる最適解よ♪」
「?」
「彼らの性欲の吐け口を作る事で、女性化したあんたの肉体の存在を気付かなくしてるの♪」
「…お、俺の為なのか?」
「あたしには親友のあんたが一番大切なのよ。こんな肉体になってしまったんで直接あんたを悦ばすことはできないけど、あんたを守ることぐらいはね♪」
「…ありがとう、伊那…」
「だーかーらー、イナちゃんだってばぁ♪」

 
俺はふぅと一息吐くと、キャプテンシートに身を沈めた。
「イナちゃん」と宜しくやって上機嫌の当直要員逹は、計器の監視に集中している…
(全て伊に任せるよ…)
誰も見ていないのを確認すると、俺は誰にも聞こえない声で呟いた。

船内着の胸のボタンを外して胸元を緩める…
袷から左手を忍び込ませる…
俺は、大きく膨らんだ乳房をゆったりと揉み始めた。

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