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2016年9月24日 (土)

転生者(9)

ホテルの部屋には女性向きのトランクが届けられていた。
開けてみると、艦内で着ていた服や使い掛けの化粧品が入っていた。
「っあ♪」
思わず声が出たのは、詰め込まれていた服の中にあのワンピースが入っていたからだ。
実際、艦内で着た訳ではないので、入っているとは思わなかったのだ。
それは、彼女と選んだ明日の「デート」に着て行こうとしていたワンピースだった♪

それを広げた時、ひらりと一枚の紙切れが舞い落ちた。
そこには彼女の字で…
「健闘を祈る♪」
と書かれていた。
折角、彼女が気を利かせて入れてくれたのよね。
明日は是非とも、これを着て行かなくちゃね♪
あたしはハンガーにワンピースを掛け、ベッドから見える所に吊るしておいた。

 
久しぶりの「陸の上」での目覚めは快適だった。
殆ど揺れてはいなかったが、白瀬はずっと海中を移動していたのだ。
それに、本物の朝日も気持ちが良かった。
窓を開け、朝の空気を吸い込む♪
港側なのでお城は見えないけど、銀座の街並みの向こう側に東京港が広がっていた。
既に様々な船が行き交っていた。
元の世界では、銀座とホテルの間には鉄道や高速道路が走っているのだが、この世界では皆地下にあり、代わりに運河が巡らされていた。
道路にもちらほらと人影があった。
(こちらを見上げてる人もいる?)
あたしは「はっ!!」とした。あたしはまだ寝間着を着たままだった。
それに、あたしは「女」なのだ。
こういう行為は「はしたない」と責められてしかるべきなのだ。
慌てて窓から離れた。
(どこまで見られたのかな?)
あたしは洗面台の鏡を覗き込んだ。
幸いにも、髪の毛はあまり寝乱れていなかった。

早速、スツールに座り直し、髪の毛を整えて軽くお化粧を施した。
着替えは…今からあのワンピを着ててもしょうがない。
フリルの花柄スカートにシンプルなブラウスとカーディガンにした。
軽い朝御飯を済ませ、少しホテル内をぶらついてみた。
ホテルの中には美術館のように絵画が飾られ、彫刻が置かれていた。
「絵画に興味がおありですか?」
声を掛けてきたのは彼だった。
「ぁ、おはようございます。」
「今日も良い天気のようですね。ところで、絵画がお好きでしたらとっておきをご紹介しますよ♪」
「とっておき?」
「その部屋全体が絵画なんです。」
「壁画…ですか?」
「まあ、見てみてください♪」

案内された部屋は薄暗く、辛うじて壁面に何かが描かれている感じがした。
ドアが閉められる。
「明かりを灯します。」
とほんのりと柔らかな光が灯った。
「えっ!!」
あたしは発する言葉を失っていた。

それは墨絵のように、黒の単色で描かれていたが、遥かな奥行きを感じさせられた。
遠くに山々を望み、木々が生い茂り、川が流れ、鳥達が舞っていた。
まるで、羽ばたいている動きが見えるよう…
川のせせらぎが聞こえるよう…
風が通り過ぎてゆくよう…
「方角に合わせて四季を表現しています。」
紅葉に色付いた木々を裾野に、山は厳しい冬を感じさせた。
川は春の暖かさを…そして緑の野原は草の海のように波打っていた。
「天井にも…」
四方から雲が沸き立つ。
巧妙に仕掛けられた照明が天頂も照らしていた。
雲間に何かが存在していた。
「龍?」
「見る者により、その姿が変わると言われています。…が、僕にも龍に見えています♪」
昇っているのか、舞い降りてきているのか…龍は天頂を舞っていた。

〈お前は何者か?〉
龍が問いかけてきた。
(あたし…俺は「転生者」らしい。実際、この世界は俺のいた世界とは違うようだ。)
〈もう一度聞く。今のお前は何者だ?〉
(今…であれば、このホテルの宿泊客。海で救助され、昨日白瀬で東京に着いた…)
俺は足元がふらついていたようだ。
逞しい腕が俺を…あたしを抱き止めてくれている。
(あたしは女?そう、ただの「女」…)

「大丈夫?」
彼が聞いてくれる。
「ごめんなさい。いつも助けてもらってばかりで…」
「いや。この部屋はちょっと刺激が強すぎたかな?」
「そんな事ありません。素敵な部屋です。あたしの体調がまだ戻っていなかったかも…」
「じゃあお部屋まであ送りしますよ♪」

「きゃっ…」
あたしは小さく叫んでいた。
あたしは彼に抱きかかえられていた♪
多分、白瀬の艦橋からもこうして運ばれたのだろう。
あたしは少しでも彼の負担を少なくしようと、彼の首に腕を廻した。
「重たくないですか?」
「女性はそんな事、気にする必要はないんですよ♪」

あたしの部屋まではそう遠くはなかった。
ドアが開かれ、即にもベッドに下ろされた。
「ありがとう。何かお礼をしたいんだけど…」
「いえ、お礼なんて…では、今夜の食事、精一杯美しく装ってきてください。貴女が美しければ、僕も鼻を高くしていられます♪」
と彼は爽やかにあたしの部屋を辞していった。

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