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2016年8月15日 (月)

最強を目指して…(1)

そこは「俺」の世界だった。
俺こそが最強で無敵の覇者であった。
戯れでピンチな状況を作ったとしても、最後には逆転してしまう定めだった。
俺を負かす奴は、この世界に一人として、一匹として存在する事はなかった。

 

「つまらん!!」
声に出したが、余計に虚しくなってしまった。
勢いのまま、「勇者」として全ての「魔王」を討ち尽くしてしまった。
気が付くと戦う相手がいなくなっていた。
それならば…と、俺自身が「魔王」となり「勇者」と対峙した。
が、次第に挑戦してくる「勇者」もいなくなってしまった。
様々な偽情報をリークして「勇者」を誘き寄せてはみたが、そんな情報に乗ってくる「勇者」はどれもが二流以下でしかなかった。

戦いのない時間は、美女をはべらせ、酒池肉林の宴としたが、これもいい加減飽きてきた。
「刺激が欲しい!!」
と叫んでも「魔王」の肉体には銃弾・ミサイルを打ち込んでも、素肌に蚊が止まった程の刺激も与える事はできない。
肉体がだめなら精神的な刺激を試してみたが、舞いも謡いも見飽きた、聞き飽きた。
勿論、SEXにも飽きてしまっている。
「何とかならんのか?」
とサポートAIに問いかけた。

いつもであれば
「現在のランクがマックスです。これ以上はありません。」
と返ってくるのだが…
「イレギュラーな事象が確認されています。それを適用すれば…」
「何でも良い。即に適用しろ!!」
「しかし、詳細の説…」
「〈即に〉と言っただろ?」
「っあ、はい!!」

 

 
そして、俺は目の前の動かない「俺」を見ていた。
「この魔王は眠りに就きました。アナタが再びクラスを回復し魔王との戦いを望む時、魔王は目覚めます。」
「つまり、俺が俺自身と戦う事になるのか?」
そう言った自分の「声」に違和感を感じた。
それは、録音された自分の声に違和感を感じるのとは全く別次元のものである。
その声は、まるで女の声のように甲高かった。
「AI!!」
「はい?」
「どういう事だ?」
「と申されるのは?」
「何で俺が〈女〉になってるんだ?ルールではリアルの性別を使用し、顔には面影を残すように決められていただろう?」
「そこが今回のイレギュラーの所以です。アバタの容姿は随時変更が可能ですが、2体のアバタを保有する事はできません。」
「しかし、この〈魔王〉も俺なのだろう?」
「はい、アバタを残したまま、別の性別でログインした場合、2体目のアバタが作成可能となるのです。その肉体、お気に召しませんか?」
「気に入る…とかの以前にまだ頭が混乱している。女になるとは思ってもいなかったんでな…」
「一応AIから忠告しておきます。その可愛い姿で男言葉を使われますと怪しまれます。少なくともご自身の事はわたし…譲歩してもボクまでです。」
「俺…あたし…か?結構キツいものがあるぞ。で、プロファイルは…」
あたし…否、俺は絶句するしかなかった。
レベルを始め、所持品その他諸々が、新参者の設定値になっていたのだ。
「これまで俺が築き上げてきたものが無に帰してしまっている…」
「それは仕方ありませんね。こればかりは魔王の肉体から切り出せるものではないので…」
剣の一本でも貰っていきたかったが、今のレベルでは所有することもできなかったのだ。
「貴女にはこれまで培ってきた経験…ノウハウがあります。有効に活用して、一日も早くこの場所に来られる日をお待ちしております。」

 

 

荒野に放り出された俺は、途方に暮れ…ている暇はなかった。
手頃な獲物かと思ってか、鬼蜥蜴が近付いてくるのが見えた。
俺は鬼蜥蜴の習性を思いだし、風下にならないよう移動を始めた。
移動速度をランダムに変える事で、鬼蜥蜴は俺…あたしの位置を見失っていた。
横から襲い掛かり、首を押さえ込む。
踵で鬼蜥蜴の四肢を踏み潰して動けないようにしてから、手を放す。
「せーの♪」
あたしは高く飛び上がると、両足の踵で鬼蜥蜴の頭を踏み潰した。
WINという文字と褒賞金の額が空中に表示された。
こんな端金などしばらく見たことがなかったが、今では1クレジットでも大金なのだ。
その後、もう一匹鬼蜥蜴を仕留め、スライムを十数体やっつけて、近くの村に転がり込んだ。

 
一晩寝て体力を回復する。
朝起きると手持ちのお金を数え、武器屋に向かった。
防具はともかく、武器を持たずに素手だけでポイントを稼ぐのは効率が悪過ぎる。少なくとも剣は必須だ!!

 
「…って、コレは玩具か?」
「お嬢ちゃんの扱えるのだとね♪魔法の杖ならバリエーションは豊富なんだが…」
店主がチラリと見た先に並んでいたのは、武器屋の奥に設えられた店主の個人スペースなのだろう。
魔法少女の変身アイテムや武器らしきアイテムが並んでいた。
「え、遠慮しておく…」
と、華美な装飾の施された細剣を手にした。
だが、予想に反して舞踊用の竹光ではないずっしりとした刀身の重みを感じた。
抜けば、研ぎ込まれた刀身が現れる。
「こんな成りだが、そうそう刃こぼれすることはないね♪」
自慢げに店主が言い放った。
「試し切りはできるか?」
と聞くと、裏庭を教えてきた。

 
確かに今の体力では、これより大きな剣は扱えないのがわかる。
それ以上に、この剣はあたしの身体と一体となってくれた。
武器屋を後にし、そのまま荒野に出た。
鬼蜥蜴も簡単に頭から真っ二つになる。
スライムも邪魔するやつだけ斬り払うだけにし、もっと上級の獲物を探しだし、斬り倒していった。

陽が傾き、一日を終える頃にはそれなりに褒賞金が貯まっていた。
明日はこれで防具を揃えようか…と村に戻っていった。

 

「また、あんたか…」
武器屋の隣に服屋があった。
てっきり別の店だと思っていたら、現れた店主は昨日の武器屋の店主だった。
「ドレスでも仕立てるかい?」
という店主も、あたしの殺気を込めた視線に考えを改めた。
「防具…ですよね?嬢ちゃんのサイズだと…」
再び奥の部屋に目を向けた。
そこにはひらひらの魔法少女風のコスチュームが並んでいる。
「マジックアイテムで如何に防御力がしっかりしていると言っても、アレは無しだぞ。」
と念を押しておく。
「とは言え、女性用の防具はデザイン重視なので…嬢ちゃんに合うのはコレしかないな♪」
流石にスカートではないが、大腿を露出させるショートパンツだ。
この上に、胸当て兼用と思われるブラジャーに丈の短いジャケットの組み合わせだ。
当然だが、臍はまる見え。腹周りは完全に無防備状態だ。
「一応、防御魔法が掛かっているが、衝撃を和らげるくらいで、過信はしない方が良いよ♪」
と忠告されるが、それを補う方法なりアイテムなりないのか?
そもそも、コレ以外の選択肢(魔法少女のコスを除く)がない事自体、作為を感じる。
「…で、この値段かよ!!」
提示された額は、昨日稼いだ有り金の殆どを注ぎ込む事になる。
マント位は買い足しできるかと思っていたが、あてが外れてしまった。
(その分はこの後稼ぎ出せば良いのだ♪)
と気を取り直し、今日も店を後にした。

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