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2016年8月15日 (月)

あしたの花嫁(1)

「何でこんな日に出張なんか入れて来るのかなっ!!」
俺は脳裏に浮かんだクソ上司の顔に三発のパンチと踵落としを喰らわせてやった。

(むなしい…)

タクシーは降りしきる豪雨の山道を下り、国道とは名ばかりのほとんど整備されてない舗装道路に辿りついた。
先程よりは多少スピードは上がったが、まだ山の中である事に変わりはなく、視界も悪いので上げられたスピードも高が知れていた。

「あっ!!」

運転手が声を上げる。
俺の体が宙に浮いた。
急ブレーキだと気付いた後から、ブレーキの軋み音が聞こえてきた。
俺は自分の体勢を把握できていなかった。
前方に投げ出されたが、そこは透明な仕切りに遮られた。
そして、慣性の力が俺の全体重を仕切りに押し付けられた頭に掛けてきていた。
当然、まともに息ができている筈もない。
フロントガラスの向こう側で景色がぐるぐる回っている。
(死ぬのか…)
俺は覚悟を決めるしかなかった。
(美穂…約束守れずに御免…)

 

美穂とは、明日彼女のドレス選びに付き合う事になっていた。
ドレス…そのウェディングドレスは俺との結婚式のためのものだ。
そう…二ヶ月後には結婚式が控えている。それさえも無効にしてしまう事になる。
(嗚呼、美穂の花嫁姿を見ておきたかったなぁ…)

俺の意識は、深い闇に包まれていった…

 

 

 

パイプオルガンの調べに瞼を開けた。
(?)
そこが教会である事は即に判った。
大きな木製の扉が開くと、白い布が祭壇まで敷かれている。
その先に司祭と、白いウェディングドレスの美穂がいた。
俺は手を引かれ足を前に進める。
歩き難いのは着ている服の所為か?
「皆さんに笑顔を見せてあげて♪」
耳元で囁かれた。
(笑顔っ…て?)
俺は参列者が皆、俺の方を見ているのに気付いた。
(くたびれた男の俺よりも、ウェディングドレスに包まれた花嫁の美穂の方を見てた方が良いんじゃないか?)
そうは思ったが、普通教会での結婚式は、新郎が祭壇で待っていて後から新婦が入場してくるものだと思い出す。
(何か変?)
俺が新夫…新婦であれば問題はない。
そして、この歩き難い服…どうみても、これはウェディングドレスだ。
ご丁寧にも顔の前にはベールが掛けられている。
「俺」が「花嫁」?
驚愕の事実が突き付けられた。
俺の目の先では、美穂がにこやかな笑みを浮かべていた。

 

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