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2016年8月15日 (月)

あしたの花嫁(3) 

「ちょっと変則的になるけど、正樹にもウェディングドレスを着てもらうから♪」
結婚式の当日に俺はそう宣言された。
確かにこの体ではタキシードなど似合う筈もない。
「実際、どっちにするか迷ってたのよね♪これなら〈あたし〉が両方着られることになるわ。」
と二つ並んだウェディングドレスの一方を俺に差し出した。
「ほら♪ぐずぐずしないで服を脱ぎなさいよ。係りの人が待ってるでしょ。」
と美穂はとっとと服を脱いでいった。
(彼女と同じ場所で着替えても良いものか?)
と考えている間にも、彼女は全裸になり、用意されていた純白の下着を身に着けてゆく。
「お手伝いしましょうか?」
と聞かれ
「大丈夫です。」
と美穂に続いて全裸になると、美穂と同じ純白の下着を身に着けた。
只でさえ女性の衣服に疎い俺である。
次々と出て来るものの名前など知る由もないが、ある程度は何に使うものかは想像ができた。
それに、美穂が俺より先に支度を進めてゆくので、彼女の通りにして行けば間違いはないようだ。

美穂と並んで髪の毛が結いあげられ、飾りが嵌め込まれる。
清楚で上品ではあるが、目や唇などのメリハリを付けた化粧が施される。
それなりの時間を掛けて豪奢なウェディングドレスに包まれた二人の花嫁が出来上がった。

式が始まるまでの時間を使い、二人の写真が撮られた。
写真屋など、詳細な事情を知らされていないスタッフは、花婿がいない事に怪訝に思っているようだ。
そんなスタッフに美穂は
「あたしたち双子で、昔から一緒に結婚式しようねって約束してたんです♪」
と言い、
「彼等は仕事でぎりぎりになるからって、別撮りしてます♪」
と応じ、納得させてしまっていた。

 

写真を終わると美穂は扉の向こう側に、俺は祭壇の手前で迎える位置に着いた。
司祭が
「式を始める前に…」
と参列者に語り掛けた。
「本日の新郎の正樹君は事故で身動きが取れない状態でした。しかし、新婦のお父上、佐江戸博士の尽力により仮の身体ですがこのように皆様の前に立つことができました。」
と俺が紹介された。
「まさか…」
と、このウェディングドレスの女が「俺」だとは思ってもいなかったのだろう。
いっ時、式場内がどよめいた。
「本来のお式とは若干逸脱する事があると思いますが、そのような事情ですのでご了承ください。」
と司祭が控え、式場のざわつきが鎮まるとパイプオルガンが前奏を奏で始めた。

(正樹、聞こえる?)
突然頭の中に美穂の声がした。
(言葉にしなくても大丈夫よ♪今日はイロイロと楽しみましょうね。)
楽しむ…って?

ふと視線を上げると、そこには木製の扉があった。
「おっ、正樹君かな?」
隣で博士の声がした。
「済まないが美穂の我儘に付き合ってくれ。」
その言葉の直後に扉が開かれた。

(さあ、花嫁さんの入場よ♪)
俺の前には祭壇に向かって白いバージンロードが敷かれていた。
(ロボットボディは三体あったでしょ?今、あたしもボディを使って様々な角度から結婚式を楽しみたいなって♪)
じゃあ、今君が祭壇の前に?
(いえ、変装して親族席から「あたし」の入場を見ているわ♪少し表情が固いわよ♪)
親族席を見ると、厚化粧の女性が手を振っていた。
たぶん、彼女が美穂なのだろう。では祭壇の前で立っている「俺」は?
(ある程度は自律して動く事はできるわ。特に決められた行動を繰り返すのは簡単ね♪)

「美穂をよろしくな♪」
と博士の腕が解かれ、目の前に進み出てきた「俺」に委ねる。
美穂は?と親族席を見ると少しぼーっとした表情になっていた。
(今のあたしはこっちよ♪)
と腕が引かれた。
崩し掛けたバランスを彼女が支えてくれた。
(これじゃあ、花婿と花嫁が反対ね♪)
不意に視点が変わる。
俺に寄り添うように立つ美穂…二人並ぶと参列者はどちらが本来の「花嫁」か判らなくなるんじゃないか?
(二人とも「花嫁」で良いんじゃないの♪)

 

司祭が俺たちに問いかけた。
彼にもどちらが本物ね美穂だか解らないに違いない。
「佐江戸美穂。あなたは生涯、ここにいる右京正樹を夫とし……を誓いますか?」
と俺に言ってきた。
(ほら♪今は貴女が美穂なのよ!!)
と隣から小突かれた。
「はい…誓います…」
と答えると、今度は美穂に向かい…
「右京正樹。あなたは…」と始めた。
その言葉が終わると
「はいっ!!誓います!!」
と美穂が堂々と答えていた。
(しばらくは貴女が美穂であたしが正樹ね♪)
と決められ、指輪も俺が美穂の指輪を嵌め、美穂が正樹の指輪を嵌めた。
そして互いに向き合う。
俺の方が少し膝を屈めるように言われる。
美穂は自らのベールを外すと、俺の顔の前にあるベールを開いた。
(さあ、誓いのキスよ♪)
俺は美穂からのキスを受ける側にいた。
男なのに女のように抱き締められている。
が、俺の心の奥には(サイコーに幸せ♪)と喜んでいる自分がいた。
美穂の唇が離れてゆくと同時に、再び視点が入れ替わった。
(しばらくは「あたし」をエスコートしといてね♪)
親族席の女が生気を取り戻していた。

 
「美穂」は満面に笑みを浮かべて、俺のエスコートに付いてくる。
参列者に混ざって、美穂がフラワーシャワーの準備をしていた。
「おめでとう♪」
の声の中、二人で階段を降りてゆく。
美穂の撒いた花びらが俺たちの前を舞っていた。
(次は難易度が高いかな?)
何?
(「美穂」が投げたプーケをあたしが貰うの♪勿論、投げるのは貴女の役目よ♪)
何か目一杯楽しんでるね。
(当然でしょ♪)
いつの間にか俺ね手にはブーケが持たされていた。
参列者に背を向ける…
(5時の方向ね)
一瞬、彼女の目で俺の後ろ姿を見た。
「せーのぉ!!」
俺が放り投げた途端、突風が吹き抜けた。
勿論、ブーケも流される。
その先でボーッと立っていた博士の手に、スッポリとブーケが収まっていた。
「えっ?」
と女の子達の視線に、ようやく事態を理解した博士は隣に立っていた小学生の女の子にホイと渡してしまった。
「ありがとう、おじさん♪」
と無邪気な笑顔に女の子達も毒気を抜かれてしまったようだ。

(まっ、良いか♪)
と変装したボディを博士に預け、美穂は「花嫁」のボディに戻ってきた。
「次はパパが花嫁になるって言うのも面白かったわね♪」
と俺達は教会を後にした。
「このボディで飲み食いしても面白くないから、披露宴はなしにしといたの。一旦屋敷に戻りましょう♪」
ウェディングドレスのまま、俺達は用意されていたリムジンに乗り、佐江戸の屋敷に戻っていった。

 

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