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2016年8月15日 (月)

あしたの花嫁(2) 

ピコン、ピコン…
電子音が耳に入ってきた。
俺はベッドに寝かされているようだ。
俺は「結婚式」の夢を見ていたようだ。
多分、ここは集中治療室なのだろう。
あんな事故だったのだ。命は救われたとしても、俺の肉体は相当なダメージを受けているに違いない。
事実、俺は今首から下に関しては何の感覚も得られてはいないのだ。
「おっ、気が付いたか?」
聞き覚えのある声だった。
「正樹君、私の声が聞こえるかな?」
やはり、彼は美穂の父=佐江戸博士のようだ。
が、返事をしようにも声を出す事ができない…
「無理に声を出そうとしなくても良いよ。モニタに表示される君の思考パターンから確認ができるようになっている。」
つまり、何か考えればそれだけで伝わるという事か?
「理解が早いね。流石は美穂が選んだ男だ。」
そ、そうだ。美穂は俺の状態を判ってるのか?
「美穂も毎日見舞に来ているよ。実を言えば、ここは私達の家の一画にある私の個人的な研究室なのだよ。」

博士が話している所に誰かがやってきたようだ。
「パパ♪正樹さんの意識が戻ったって本当?」
美穂か?
否、彼女が美穂以外の誰だと言うのだ!!
「ほら、お前の事を考えているよ♪」
多分、彼女にモニタを見せているのだろう。
「正樹さん。聞こえる?」
ああ。良く聞こえるよ。でも、約束を守れなくて御免。
「正樹君はお前との結婚式を夢にも見ていたようだ。」
折角のウェディングドレスなのに…俺がこんな状態じゃ結婚式どころではないよね。
「ドレスは大丈夫よ。素敵なのを選んでおいたから♪」
でも、俺がこんな状態じゃ…
「式まではまだ一ヶ月あるわ。準備はあたしに任せておいて♪」
こんな状態であと一ヶ月って…
「ねえパパ、以前作ったボディを彼に使って良いでしょ?今から〈正樹さん〉を作っていては間に合わないもの。」
どういう事?
「遠隔操作のロボットボディを使うの♪遠隔操作とは言っても、実際にその場にいるように感じる事ができるのよ。」
「それを使えば正樹君と結婚ができるには違いないが…正樹君はどうだろうか?見た目は君自身と掛け離れた姿になってしまうが…」
美穂と式があげられるなら、俺はどんな姿でも文句は言わないよ。
俺の頭の中には昔のSF映画に出てきたロボット達の姿が次々と浮かんできた。
「彼も問題ないようだから、その線で詰めていくわね♪」
「お前もそれで良いのか?」
「あたしが言いだした事だもの。問題ないわ♪」
と美穂は部屋から出ていったようだ。
「私も準備に入るから、しばらく独りにしてしまうが、我慢してくれ。」
そう言って博士も部屋を出ていってしまった。

 

 

突然「カチッ」と音がして意識が遠くなった。
「正樹君、大丈夫かな?」
博士の声に
「ええ、問題ありま…」
と、俺は「声」を出していた。
「声が…」
「接続は問題ないようだね♪目は開けるかな?」
多分、そこは俺のいた集中治療室とは別の部屋なのだろう。
そして足元に重力を感じた。
今の俺は立っているようだ。
向かい側に佐江戸博士の姿を認めた。
(博士の背が高くなった?)
真っ直ぐに見ていると、博士の胸しか見えない。
少し見上げないと博士の顔を見れないのだ。
「君本来の体格ではないから、かなりの違和感があると思う。だが、あと一ヶ月ある。そのボディに馴れるには十分だろう♪」
ボディ…遠隔操作のロボットボディを使うと言っていた。
俺の本体はまだ集中治療室にあり、遠隔操作でこのボディを動かしている…という事なのだろう。
「遠隔操作と言ってましたが、自分の体のように動かすことができるんですね♪」
そう言って再び違和感に教われる。
自分の口から出た声が自分の声とは違うのは理解できるが…その声は聞き覚えがあるような…
(?)
後ろを見ると、今までこのボディが納められていた筐体があった。
そして、その隣にあと二つ。同じ筐体が並んでおり、その中にはロボットボディ(?)が納まったままになっていた。
そのボディは揃って「美穂」そっくりである。
当然の帰着として、三つ並んでいた内の一つだけが異なる姿とは考えられない…

「か、鏡はありますか?」
と聞くと
「そこにあるよ♪」
と指差された。
(え!?)
いや…その事に気づいていて然るべきなのだが、俺の思考回路がまともではなかったと許してもらいたい。
鏡には「全裸の美穂」が写っていた。

他の筐体内の「美穂」も単なるロボットボディであるから、未稼働状態の体に服を着せていなくとも問題はないが…

慌てて両手で股間を隠した。
博士に見られていたことを思いだして赤面する。
「私は気にしていないよ。そのボディはメンテナンスの為隅から隅まで把握しているからね。」
「お、俺としてはいくら博士の前でも、裸でいるのは…」
「そうそう♪美穂が服を用意しておいたと言っていた。そこの衝立の裏に置いてある筈だよ。」
俺はカニ歩きで衝立の裏側に回り込んだ。
そこには衣服らしき布が畳まれて積まれていた。
…ある程度予想はしていたが…
その頂きに置かれていたのは女性用の下着…ショーツだった。
その下にあるのはブラジャーに違いない。
他に選択肢がないのは解っている…俺はショーツを手に取り、自分の身に着ていった。

美穂が用意してくれていたのは美穂自身の私服だった。
俺も何度か美穂が着ていたのを見ている。
このボディが美穂をモデルにしているので、美穂の服が合うのは当然だ。
が、彼女はズボン系も何点か持っていた筈だ。
ごく一部の特殊な事例を除き、男性がスカートを穿くことはないのだ。
それも、こんなに丈の短いスカートでは、何かの拍子にスカートの中…パンツが丸見えになってしまう。
ただでさえ恥ずかしいのに、そのような事態は受け入れ難い…
「美穂を始め、世の女性はそのような服をちゃんと着こなしているのだよ。先ずは姿勢だ。立つ・座る・歩く。女性としてこれらの動作が行えるようにするんだ。」
「俺は男なんですよ。」
「君はどんなボディでも良いと言ったんだ。とにかく、この一ヶ月でそのボディで自然な行動ができるようにならなければ、君達の結婚式は開く事はできないんだよ。」
勿論、今から男のボディを作ってもらっても、一ヶ月後の結婚式に間に合う筈もない。
美穂と結婚式を挙げる為には、このボディを受け入れなければならないのだ。

 

二週目の後半からは化粧の練習も始まった。
使う化粧品は美穂と同じものを使う。
一度美穂が来て手順を教えてくれた。
「結婚式の当日は美容師を手配してるから、お化粧もお任せで良いけれど、式までの毎日は自分でお化粧しないとね♪」
式まで一週間を切ると、外出の訓練もするようになった。
「こんにちわ♪」
と近所の人に笑顔で挨拶する。
「もうすぐお式ね。今が一番幸せな時期よね♪」
「はい。ありがとうございます。」
当たり障りなく応じ、ボロが出ないうちに離れておく。
なんとか俺が「美穂」本人でない事は隠し通していられたようだ。

近くのスーパーで食材を買ってきた。
「夕食を作るのが次の課題だ。」
と言われ渡されたレシピ本の通りに足りない食材を確認すると
「近くにスーパーがあるから、そこで買って来ると良い。」
と女物の財布と、財布を入れるポシェットが渡されたのだ。

買ってきた食材を台所に並べると
「これを着けた方が良い。」
とエプロンを渡された。
食材を切って、炒めて、味付けをして…
俺自身は料理などほとんどした事がないのだが、体が覚えているのかテキパキと調理を進めていた。
 

俺自身はロボットボディのため、食事を採る必要はないのだが、テーブルの上には二人分の料理が並んでいた。
どうしようかと悩んでいては料理が冷めてしまう。
「博士、できましたよ♪」と声を掛けた。
「そうか?」
と博士が食堂に現れた。そして、その後ろにもう一人…
「美穂…」
久しぶりの再会であった。
「頑張ってるようね♪」
と俺に声を掛け、博士の向かい側に座り、俺の作った料理を食べ始めた。
俺は彼らのの脇に立ち、空いた皿を下げ、お茶を用意したりしていた。
「正樹も大分馴れてきたようね♪料理も良くできていたわ。」
「ありがとうございます。」
俺は無意識のうちに頭を下げていた。
(な、何で俺が美穂に頭を下げなければならないんだ?)
と不満げに思う一方、美穂に誉められたことで幸せな気持ちになっている自分に戸惑っていた。
「美穂から見ても問題はないのだな?」
「ええパパ。十分に仕上がってるわね♪問題ないわ。」
「と、いう事だ正樹君♪」
突然話が俺に振られて、それまでの思考が強制的に中断された。
「間に合って良かったね。君達の結婚式は予定通りに催そう♪」
その言葉に目頭が熱くなり、視界がボヤけ始めた。
「正樹、大丈夫?」
と美穂が近づいてきた。
本来であれば美穂を見下ろせる身長の俺だが、今は美穂の姿をしたロボットボディだった。
何故か美穂の方が背が高く見えた。
「良かったね♪」
と頭を撫でられた途端、俺は美穂の胸に顔を埋め、女みたいに泣き崩れてしまっていた…

 

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