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2016年8月15日 (月)

女の子の木

机の上に置かれた小さな鉢…
この中には「女の子の木」が植えられていた。

 
「女の子の木」とは言っても大それたものではない。
腕や頭がそれらしく育った枝ぶりの盆栽もどきに、人形用のワンピースを着せ、長い髪の毛を模したカツラのようなものを被せたものだ。
フリーマーケットをぶらついていた時に見つけたもので、その時は「意表を突かれた」と思って思わず買ってしまったが…
毎日の水やりをサボると、途端に機嫌を損ね、しょんぼりしてしまう。
雨の日が続いても機嫌が悪くなる。
が、お日様の光を浴びて、適切な水分が確保できてると、元気な笑顔を見せてくれる…
勿論、カツラを貼り付けられた「頭」に相当する短太の枝には目鼻などはない。
当然ながら、コロコロ変わる表情など表現できる筈もないのだが、そこは気分の問題だ。

 

「ヨーコちゃん♪ご機嫌いかが?」
と話しかけると、嬉しそうに小さな葉を揺らす。
今日も機嫌は良いみたいだ。
(?)
ヨーコちゃんの髪の毛の合間に何か尖ったものがあった。
良く見ると短太の枝の先につぼみができていた。

夜になる頃にはつぼみは花開き、髪飾りのようにヨーコちゃんを引き立てた。
「綺麗だよ♪」
と言うと、恥ずかしいのか小刻みに花びらが揺れていた。

その夜、夢の中にヨーコちゃんが現れた。
「大切に育ててくれてありがとうございました。花が咲いたことで、あたしの生は尽きることになります。」
衝撃の告白に僕は飛び起きんばかりだった。
「あたしが死んだ後、残った実を植えてください。そしてまた、あたしの娘を育ててください。」
僕は金縛りにあったように動けなかった。

目が覚めると、机の所に飛んでいった。
ヨーコは全ての葉を落とし、立ち枯れていた。
そして、頭の上に赤い実を残していた。
「ヨーコォ……」
僕は赤い実を手に、延々と泣いていた。

 

 
僕は何を思ったのだろう…
熟し始めた実は甘い香りを漂わせていた。
(美味しそう♪)
口の中が唾液で溢れていた。
僕はヨーコの実を食べたがっていた。
しかし、ヨーコの願いはこの実を植えて育てる事だ。
(果肉は食べても良いんじゃないか?種を取り出して植えれば良いんだ♪)
そうなのか?
僕は邪な誘惑に囚われ始めていた。
(そうさ。種はあとで植えれば良い♪)
甘い香りが一段と部屋に充満していた。
(彼女は植えて欲しいと言ったが、あの鉢にとは特定してなかったよね?)
な…何が言いたい?
(種まで食べたらどうなるかな?)
実際、僕は果肉だけでは済まないような気がしていた。
(考え方を変えてみたらどうだい?)
何?
(そう、その実を「食べる」のではなく、君の身体に「植える」のだと…)

僕の意識は混濁していた。
口の中に甘い密が広がっていった。
満たされた満足感・多幸感が全身を包む。
その幸福の絶頂で

ゴクリ

僕は種を呑み込んでいた。
(種は一度分解され、君の身体の中を巡る。そしてもっとも適した場所に集まり、根を張るのだ。)
もっとも適した場所?
(その種はヨーコの娘となるものだ。体内で彼女を育てるのに適した場所はどこかな?)
心臓?
(確かに養分は豊富にあるだろう。しかし、そこを占拠しては君の生命に関わる。君が死んでしまうと元も子もない。)
腸とか?
(惜しいな。腹の中には違いない。それは子宮だよ。人間もそこで胎児を育てるだろう?)
しかし、僕は男だ。男には子宮はない。
(人間の遺伝子には設計図が記録されている。採用されなかっただけで、君の遺伝子にも子宮の設計図は存在するのだよ。)
じゃあ、種は?
(その設計図を元に子宮を作る。胎盤に根を張り、君の胎の中で成長していくのだ♪)

 

全ては夢だ…
と思いつつ、枯れたヨーコの立つ鉢を見つめていた。
「っあ…」
胎の中てヨーコの娘が動くのを感じた。
今、僕の腹は臨月の妊婦のように膨らんでいる。
実際、超音波検査でも、僕のお腹には子宮があり、胎児が成長してゆくのが確認されている。
「母体にも危険が伴いますので、このまま出産されるのが良いと思いますよ。」
勿論、僕は産むつもりだ。
ヨーコに頼まれたのだ。この娘をちゃんと育てて欲しいと…

 

その部屋から、強力な幻覚を起こさせる植物の残骸が発見された。
被害者は己が男性であると暗示を掛けられ、レイプされた事自体が「有り得ない事」として自ら記憶から抹消してしまっていた。
その為、彼女自身受胎した事を意識できずにいたようであった。
やがて、妊娠している事に気づいた奴らは、彼女に「木の実を食べたから妊娠した」と更なる暗示を掛けていたようだ。

彼女は今、彼女の娘と病室にいる。
不思議な事だが、その娘は生まれた時に、手の中に赤い木の実を握りしめていたという。
その実が今どこにあるのかは誰も知らない…

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