« GREEN | トップページ | RED »

2016年7月11日 (月)

BLUE

「位置について、ヨーイ…」
俺は勢い良く踏み切り、水面に突っ込んでいった。

25m…40mと一気に泳ぎ切る。
50でターン…

俺の調子が良いのはココまでなのだ…
ターンでリズムが乱れてしまう。水に乗れない…
焦りが更にフォームを乱す。
隣を泳いでいる奴に抜きかえされた…
…タッチ…

結果は散々である。
(100mがダメでも…)
と慰めてくれる奴もいるが、ターンが増えればその分どんどんタイムが落ちてゆくのが判っている。

(じゃあ、何故泳ぎ続けてるの?)
それは僕にも判らない…いや、泳ぐのは好きなのだ。だから、泳ぎ続けている。
(じゃあ、競泳に拘ってるのは何故?)
別に拘ってなどいない。いつでも泳げるのが競泳だっただけだ。
(なら、他の競技は?)
水球か?あれは格闘技だね。ああいうような競い方は好きじゃないよ。
高飛び込み?俺は泳ぐのが好きなんだ。あれは違うよ。
シンクロ?男子の競技じゃないだろ?そりゃぁタイムを競うものじゃないし、泳いでいられるのは確かだけどね。
(「競技」には拘ってるの?)
そうだね。競うのが当たり前だったから、考えたことなかったよ。
でも、コーチとかインストラクターみたいに、他人を教え導くのは性に合わないな。

 

(とにかく見てみないか?)と連れて来られたのは…水族館だった。
プールではウェットスーツを着た飼育員がイルカの調教を行っていた。
イルカと一緒に泳ぐのか?と聞くと
(こっちは足りてるんだ。君にはこっちを担当してもらいたいんだ。)
と案内されてきたのは大水槽の前だった。
観客席側にキャップを被った横柄そうな男がいた。
(こちらは演出家の坂井さん)
「何だ。男か。」と言いながら俺と握手をした。
演出って言うと?
(この大水槽を舞台にショーを見せるんだ♪)
「先ずは泳ぎを見せてくれないか?」
ショー…って、俺はどんな泳ぎをすれば良いんだ?
「とりあえず、息の続く限り水槽の下をぐるぐる廻ってみてくれ。あとはこちらから水中マイクで指示を出すから。」
俺は持ってきた競泳用の水着に着替えると、水槽の裏手から階段を上がり、底に向かって潜っていった。

魚逹と一緒に泳ぐのも新鮮だが、ガラスの向こう側に観客席が見える。
俺の泳ぐ姿を見られるのは結構恥ずかしいものがある。
「そこで廻ってみてくれ。」
坂井さんの指示があった。
「違うっ!!身体を捻るようにするんだ。」
俺はターンの要領で前転したのだが、坂井さんとは意見が合わなかったようだ。
そんなに怒鳴らなくても良いんじゃないか…と思いつつ身体を捻りながら水槽の中を廻る。
「そこはスケートのスピンのように身体を立てるんだ!!」
へいへい…と身体を立てた。
何れにしろ、水から出なければこちらからは文句を言えないのだ。
「笑顔を忘れるな!!」
そう言えばフィギュアスケートも笑顔が大事だと聞いた事がある。
さっきのスピンと言い、俺に水の中でフィギュアをさせようとしてるんじゃないか?

 

「結構、長時間潜れるみたいだな。身体能力的には合格だ。」
そう言って坂井さんは控え室に入ってしまった。
俺はシャワールームに案内された。
(この奥が衣装部屋になってます)
シャワールームに繋がっている衣装部屋など普通は考えられないが、水の中で着る衣装であり、濡れたまま着替える事になるので、ここに限っては合理的と言えるだろう…
だが、どの衣装にも全て胸を被い隠すパーツが付属していた。
(これまでのアクターは皆さん女性の方だったんで…)
もし、俺が引き受けたら衣装を新調する事になるのか?
(これらは皆、伸縮性が高いので、胸の部分さえなんとかすれば、そのまま使えますよ♪)
女の衣装を俺が着るのか?
(試着してみませんか?)
実際、この仕事を引き受けたら、これらの衣装を身に着けざるをえないのだ。
やはり、水族館なのであろう…人魚の尾ひれも何種類かあった。
(着けたら地上では動けないので、そこの椅子に座っていてください。面白い仕掛けが見れますよ♪)
俺は手近の尾ひれを手に、その椅子に座った。
(今着ている水着もサポーターも外して直接着てください)
俺は言われた通りに全裸になり、尾ひれの中に足を入れた。
確かに伸縮性があり、少し小さいかと思ったが下半身全体がすっぽりと被われた。
ただ、締め付けは強く、やはり立ってバランスを取るのは難しく、当然立ったまま移動することは不可能だった。
(着ましたか?では最初の仕掛けです…)
ウィーンと音がして床の一部がせり上がってきた。
それは鏡の付いた化粧台だった。
(どうせなら、メイクもしてみましょう。男性はお化粧する機会がありませんが、歌舞伎役者の隈取りだと思っていてください♪)
と顔が白っぽく塗られ、眉毛も塗り込められた。
隈取りのように目の周りを黒く塗られたが隈取り程は太くなかった。
眉毛も細く描かれた。
(かつらを乗せますね♪)
と黒い長髪のかつらが被せられた。
(仕上げです♪)
と唇が明るい赤色に塗られた…
鏡の中に写っているのは歌舞伎役者ではなく、美しい「女」の顔だった。
(では、次いきますよ)
その声と同時に椅子が浮き上がった。
足が床から離れる。
(落ちないようにしっかりと手すりに掴まっててくださいね♪)
椅子の両脇の手すりには不自然さを感じていたが、このためだったのか…
(あっ、これ忘れ物です)
と敢えて残してきた胸を覆うパーツが俺の胸に巻かれた。
不安定な椅子の上では拒絶することができなかった。

そのまま椅子は吊り上げられ、水槽の上に移動した。
今度は水の中に下ろされてゆく。
俺は椅子から離れて泳ぎだした。
水の中はもう俺の世界だ。自由に動く事ができる。
人魚の尾ひれは単なる衣装ではなく、水中を進むのに抵抗がなくなり、更に推力も増していた。
同じだけ泳いでも体力を使わない分、水中にいられる時間を長く取れるようた。
(いかがです?)
水面に顔を出すと、そう声を掛けられた。
「なかなか良い感じじゃない。気に入ったわ♪」
俺はそう答え…自分の耳を疑った。
今の「声」、俺の声じゃない!!明らかに女の声だった。
それに「気に入ったわ♪」…「わ」を語尾に付け、まるで女のような喋り方をしてなかったか?
(どうかしましたか?)
「あたしの声…おかしくない?って、何であたし?」
(気にしないで下さい。その衣装の所為ですよ。自分が人魚姫に成りきったように感じてるんです。しばらくすれば慣れますよ♪)
そんなものかしら?あたしは再び水の中に身を踊らせた。
また、お魚さん達と一緒にいられる事になったのね♪
「あんっ♪」
不意に小さなお魚さんにお腹を突っつかれ、変な声を出してしまった。
「ダメよ。感じちゃうじゃない♪」
あたしはお魚さん達から離れて岩の裏に回り込む。
ここは岩の影で、観客からは見られる事がない。
そこにはニョキリと一本だけ突き出した棒状の岩があった。
あたしがその岩にお腹を擦り付けると…
「んあんっ♪」
快感に艶声をあげてしまう。
棒状の岩があたしのナカに入って刺激してくる…

ナカ?

俺はソコが「膣」である事を知っていた?…否。知っていたのは人魚の衣装の方だ。
衣装が持っていた「記憶」を「自分」のものと勘違いしているのだ。
「男」の俺に「膣」など存在しないのだ……だが……この感覚は何なのだ?
確かに岩は「俺」のナカに入り、ソコから快感を与えてくる…

俺は…あたしは「人魚姫」なの!!
強い力で意識が上書きされる。

女の子には膣があって当然でしょ♪
ソコを弄れば快感が湧いてくるの♪
何も問題ないでしょ?
あたしは「人魚姫」なんだから♪

あたしはその行為に夢中になっていた。
頭の中は快感に支配されていた。
何も考えられなくなってゆく…
「ぁあ…イきそう♪」
あたしは快感に支配され、腰をくねらす。
更なる刺激があたしを快感の頂きに放り上げる…
「ああっ、イクぅ…イっちゃうのぉ~♪」

 

開演を知らせるベルが鳴った。
あたしは観客の前に進み出た。
あたしは「人魚姫」♪
ここは「あたし」の世界♪

« GREEN | トップページ | RED »

コメント

コメントを書く

(ウェブ上には掲載しません)

トラックバック


この記事へのトラックバック一覧です: BLUE:

« GREEN | トップページ | RED »

無料ブログはココログ