« この皮は… | トップページ | 落とし前(後編) »

2015年10月12日 (月)

惚れ薬

僕はようやくこの「薬」を手に入れた。

所謂「惚れ薬」というやつだ。
僕の片想いの麗華さんに飲ませれば、即に僕の恋人になってくれるのだ。
何でちゃんと告白するとかの努力をしない!!と言われるが、彼女は学校のアイドル・高嶺の花なのだ。
かてて加えて、僕は「キモオタ」のレッテルを貼られた準肥満体型の冴えない「いち男子学生」でしかない。話しをするきっかけさえ殆どないのだ…

 
でも、この薬さえあれば麗華さんは僕のモノになるのだ♪
明日の委員会に潜り込み、麗華さんのコップにこの薬を混ぜ込んでしまえば、それで万事解決する。
僕は明日の放課後が待ち遠しく、その夜はなかなか寝付けなかった。

 

だが、物事はそうは簡単に行かないのが世の常である…とは、後から知らされる事が多い。
委員会に紛れ込んだ僕は薬入りのコップを麗華さんに差し出した。
「ありがとう♪」
と極上の笑みで受け取ってくれた。

が、彼女はコップに口を付けることなく、机の上に置いてしまった。
そして、委員会の会議が進んでゆく。僕は物陰から麗華さんがいつコップを手に取るかと見つめていた。
が、無情にも会議は終わってしまった。
委員はバラバラと立ち上がり、部屋を出ていく。
麗華さんはまだ座ったままだが、彼女の前にやってきた男がいた。
生徒会長だった。
眉目秀麗・質実剛健・文武両道…非の打ち所ない先輩である。
「麗華。委員の仕事は慣れたかい?」
と声を掛ける。
(何で呼び捨て?)
と思ったが、
「博士も忙しいのに、つまらない委員会にも顔を出さなくちゃならないなんて大変よね♪」
とタメ口をきいている。
(もしかして二人は既にデキている?)
僕はその可能性をまったく考えていなかった。
生徒会長と学校のアイドル…美男美女が付き合うのも当然の成り行きかも知れない。
(でも、この薬があれば…)
とのいちるの望みも、次の瞬間、敢えなく潰えるのだった。
「飲んで良いか?」
「どうぞ♪」
薬の入ったコップが生徒会長の手に握られ、中の液体が彼の口の中に消えていった。

「ダメっ!!」
僕の叫びは遅きを逸していた。
「君は?」
と生徒会長の視線が僕を貫いた。
「ああ、あたしのクラスのキモオタ君じゃない。」
麗華さんは僕を知っていたようだが、名前では呼んでもらえなかった。
「ふ~ん♪」
と生徒会長が僕を見ている。
「良かったら君、この後生徒会室に来ないかい?」
勿論、その視線には拒否を許さない力が込められていた。
「博士、あたしとの約束は?」
と麗華さん。
「麗華も一緒に来てもらえないか?ちょっと確認したい事があるんだ。約束の件はその後でも大丈夫だろう?」
「良いけど…こいつとはあまり一緒に居たくないのよ。」

今度は「こいつ」呼ばわりですか。
でも、これでしばらくの間、麗華さんと一緒にいられると、惚れ薬の失敗も忘れてウキウキしていた。

三人が生徒会室に入ると、生徒会長はドアに鍵を掛けた。
窓はカーテンだけでなく、暗幕も下ろしていた。

「で、君はこの事態をどう説明してくれるのかな?」
と、生徒会長が僕に正対して言った。
「この事態?」
生徒会長相手では無駄と知りつつも惚けてみるが…
「麗華が飲む筈だった水を僕が飲んだ。その時君は声を上げた。君はこれを麗華に飲んでもらいたかったのだろう?」
「…」
僕は答えられなかった。
「水に入れていたのは惚れ薬の類いなのだろう?」
「惚れ薬?!」
麗華さんがキッと僕を睨んだ。
「そうなんだ。その薬の所為で、僕はこいつを恋人の一人に加えないといけなくなったんだ。」
「恋人?」
「の一人?」
麗華さんと僕がそれぞれ反応する。
「勿論、恋人の一番は麗華だよ。こいつは暇な時に相手をしてやるだけだ。残念ながら、薬の所為でこいつを拒む事ができないんだ。」
「相手をするって、こいつは男よ。」
「そう。僕も男色の趣味はない。だから、君には僕の恋人として相応しい容姿になってもらいたい。それまでは相手をしてあげられないからそのつもりで♪」
「あたしには意味わかんないんだけど?」
「生徒会では各部が不正に入手した様々なものを没収し、ここに保管している。トレーニングマシンやダイエットサプリなんかもある。これらを自由に使わせてやるんだ♪頑張って僕の恋人に相応しい容姿になってくれ。」
そう言って生徒会長は麗華さんと出て行ってしまった。
ご丁寧にもドアや窓は全て鍵が掛けられていて、キーは生徒会長が持っている。
窓を割ろうにも、強化ガラスに換えているようで、どうにもならない。
今は待つしかないのだが、流石に何もしないでいるのは辛かった。
没収品の置いてあるという奥の部屋に入ってみた。
そこにはトレーニングマシンが並んでいた。
これで少しは体を鍛えろという事なのだろうか?
試しに手近のマシンに跨がってみた…即に汗が吹き出して来る。
体操着があれば着替えたいが…ここでは他人の目を気にする必要がないと気付いた。
僕は下着姿になって再びマシンに跨がった。

大量の汗を撒き散らして1セットが終わった。
普段運動していないので、時々意識が飛んでいたようだ。
途中、何か音楽が掛かっていたような気もしたが、記憶があやふやになっている。

部屋の隅に冷蔵庫があった。
大量に汗をかいたので肉体が水分を欲していた。
冷蔵庫には見慣れぬラベルのスポーツドリンクが入っていた。
渇きは銘柄に拘れる程ではなかった。
冷蔵庫から取りだしキャップを開ける。
冷たい液体が喉を駆け下りていった。
「ふ~う♪」
と一息吐くと、僕は次のマシンに向かっていた。
1セット終わりクタクタになっても、ドリンクを飲むと何故か次のマシンに向かっていた。
それは生徒会長が戻ってくるまで延々と続けられていた。

 

「もう良いよ♪」
声を掛けられ我に返った。
「もう夜も遅い。ご家族には僕から伝えておくから、君はここに泊まっていけば良い♪」
僕にとり、それは提案ではなく、従わなければならない言葉だった。

案内された部屋にはキングサイズのベッドがありユニットバスも備え付けられていた。
「こっちの冷蔵庫には冷凍食品が入ってるから適当に食べて良いよ♪」
「はあ…」
と頷くが、こんな設備が全部没収品だとしても、よく校内に持ち込めたと思う…
「じゃあ、また明日♪」
と、出て行こうとする生徒会長に
「僕…独りですか?」
と聞くと
「一緒に寝て欲しいのかい?」
と返された。
僕は顔が真っ赤になるのを感じた。
「今は無理だからね。早く相応しい容姿になる事だね♪」
と再び鍵を掛けて出ていってしまった。

(相応しい容姿…か…)
生徒会長の恋人として相応しい容姿って…
(?)
最初に言われた時には漠然としていて、何の事か見当も付かなかったが、今は明確なイメージが浮き上がってくる。
具体的に…
そう。麗華さんこそが生徒会長の恋人に相応しいのだ。
僕は麗華さんみたいになれるのだろうか?
もし、なれれば…
博士さんとのデート。僕は精一杯おシャレをして、手を繋いで歩くんだ。
喫茶店でお茶をしながら他愛ない話しに笑い合う。
いろいろなお店をひやかして、可愛い小物の置いてある店でアクセサリーをプレゼントされる。
「似合ってる。可愛いよ♪」
なんて言われて、僕はもうこれ以上ない幸せな気分になる。
「今夜は一緒だよ♪」
博士さんに手を引かれホテルに入っていく。
着ていた服を脱がされる。悪戯に僕の乳首に吸い付いた。
「あん♪まだ…キスが先…」
そう言う僕の口が塞がれ、舌を絡めてくる。
そのままベッドに押し倒され…
「良いよね?」
と博士さん。
「優しくシてね♪」
と僕は濡れ始めた股間を開いてゆく…

 

 

贅肉が取れ、腰は細く括れていた。
トレーニングとダイエットサプリの効果は絶大だった。
「今日からはこっちの制服を着て授業にでなさいね。」
それは麗華さんと同じ制服だ。
僕はブラジャーにCカップに育ったバストを納め、ブラウスの袖に腕を通した。
制服を着ると、次は長く伸びた髪をとかし、みつあみを結ぶ。
最後に唇にリップクリームを塗った。
「良くここまで頑張ったね。ご褒美に放課後、付き合ってあげるよ♪」
僕は初めて彼の恋人の一人として認められたのだ。
「ありがとうございます♪」
僕は嬉しさに抱きつきたいのを堪えてお辞儀をした。
「良いね。その初々しさが堪らないよ♪」
生徒会室の扉が開けられ、僕は鞄を手にクラスに向かった。

 

「誰?」
と皆が怪しむ視線を投げ掛ける中、
「彼女がこの三ヶ月姿を消していたキモオタ君よ。でも、今はもうあたしの妹分の女の子よ。仲良くしてあげてね♪」
麗華さんが説明してくれた。

「妹分」に格上げされたのは良いが…
(「彼女」「女の子」ってどういう事だ?)
僕は「男」で
麗華さんが大好きで
麗華さんみたいに生徒会長に愛されたくて
麗華さんみたいに綺麗になりたくて
一生懸命トレーニングしてただけなのに…

「ぼ、僕は…」
「博士に愛されたかったら、あたしって言った方が良いわよ♪」
と麗華さんに言われ、僕…あたしは自分が何者なのかを自問してみる。
そんなあたしを麗華さんが憐れむように見ていた。
「自業自得と言えばそれまでだけどね。」
と麗華さんはあの「薬」について調べてくれた事を話してくれた。
「惚れ薬」は相手に自分を好きになってもらうものだけど、使用者が心変わりしてしまうと、使われた人には悲しい結末しか待っていない。
だから、この「薬」の開発者は使用する側にも影響が及ぶ方法を考えていた。
先ずは惚れさせる方。使用者の発する誘惑部室に過敏に反応するように体質を改える。
次に使用者に影響を与える方。使用者が過敏に反応する誘惑部室を発するように体質を改える。
これにより、使用者も相手の虜になってしまう。
だから、あたしは彼の言う事には素直だし、彼の名前を出されれば無条件に従ってしまうようになったようだ。
「貴女にとって不幸だったのは、博士の意志が人一倍強かったという事、また色んな道具が自由に使えたって事ね。」
(不幸?そんな事はない。あたしは今、幸せよ♪)

麗華の説明によると、最初は単にダイエットさせたいだけだったようだ。
けれど、あたしが麗華さんに近づこうとしているのが判り、博士さんも恋人に加えるなら男より女の子の方が良いと考え、サプリやトレーニングのプログラムを女性向けのものに変えてしまったらしい。
「トレーニング中、音楽が聞こえてたでしょ?あの中には催眠暗示も組み込まれてたのよ。」
と教えてくれた。
あたしの「想い」と「暗示」の相乗効果で、あたしの肉体はどんどん麗華さんに近づいていったのだ。
そして先週、あたしに「生理」が訪れたのだ。
あたしの肉体は女の子以外の何物でもない。
だから、博士さんはあたしを恋人の一人として認めてくれたのだ。

「放課後、博士とデートするんでしょ?精一杯、女の子として可愛がってもらいなさいね♪」
あたしは「うん」と返事をしたが、既に頭の中は放課後デートで埋め尽くされ、皆があたしの事をどう思っているかなんて関係なくなっていた♪

« この皮は… | トップページ | 落とし前(後編) »

コメント

コメントを書く

(ウェブ上には掲載しません)

トラックバック


この記事へのトラックバック一覧です: 惚れ薬:

« この皮は… | トップページ | 落とし前(後編) »

無料ブログはココログ