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2015年10月12日 (月)

ハンデ

ガキッ!!

振り下ろされる剣の威力をこちらの剣で受け止める。
力を振り絞り跳ね返すと、再び間合いを取った。
「もう2~3合でお前の体力も底を尽くのではないか?」
奴は涼しげにそう言う。
実際、次の一撃は受け切れないに違いない。が、
「まだまだっ!!」
と返す。
「意外と負けん気だけは強いようだな♪…そうだ、少しハンデを付けてやろう♪」

奴は間合いをとったまま、何か呪文を唱えていた。
俺の体力は底を尽いていたが、対魔法防御は健在である。
奴がどのような魔法攻撃を掛けてきたとしても、十分に耐えられる筈である。

しかし、魔法は奴自身に向けられていた。
奴の体が光に包まれた。
そのまま宙に浮かび上がる。
光の中で奴の衣服が散り散りに分解してゆき、奴は裸になっていた。
が、それは「奴」なのか?
逞しく鍛え上げられていた筈の四肢は折れそうな程に細くなっていた。
腰に蜂のようなクビレが生まれ、胸に異様な膨らみが造られていった。
髪の毛が爆発したように伸び、広がり…幅広の布状のもので結ばれていった。

光が収斂し、奴の身体に衣服のように纏い付く。
大きく裾が膨らんだ形は、女性のドレスを彷彿とさせる。

光が収まると、その場所に立っていたのは、綺羅雅やかなドレスの女性であった。
深紅のリボンで長い髪が纏められ、同じ色の唇が妖艶な笑みを浮かべている。
「力だけとは思われたくないからね♪」
美しい女声が歌うように流れでた。
彼女の手には細身の剣が握られていた。

「それがハンデか?」
俺は剣を構え直す。
が、その切っ先を奴に向ける事ができなかった。
「そう、これがハンデ…だけど貴方にはハンデにならなかったようね。貴方、女を斬れないのね♪」
確かに奴の言う通り、俺は男しか斬れない。
目の前の女が奴の変身した姿であると知っていても…
だが、それ以前に俺の体力はなにも残っていなかった。

「女を斬れないなんて、折角のハンデが台無しよね。じゃあこうしましょうか♪」
もう一度、奴が呪文を唱え始めた。
今度は俺が光に包まれる。
「…う、嘘だ!!」
俺の戦闘着が対魔法防護ごと千切れ飛んだ。
「そんな対魔法防護なんてあたしには何の意味もなかったのよ♪魔法が使えなかったんじゃなくて使わなかっただけなのよ♪」
奴はホホホッと高らかに藁った。

 

俺もまた奴と同じように変身したようだ。
しかし、変身した事で幾分か体力は回復した。
剣も細くなった分軽くなり、バランスも丁度良い。
「これで再び互角かしら?」
と奴が笑う。
俺には今の自分自身の姿を確認する余裕はなかったが、ドレスの裾は奴よりも短く動き易いのは解った。
この肉体は「女」には違いないのだろう。だが、気にする程の胸の膨らみはない。
身体のバランスを統べるのに苦はなかった。
「それっ♪」
奴が剣を突き入れる。
俺はまともに受けるのではなく、間髪で逸らしていた。
剣と肉体が軽いので反応が良い♪
(これなら、のこり少ない体力でも何とかなるかも♪)
今の俺には奴の剣筋が見て取れた。
再び奴が突き入れて来る。
隙が見えた!!
俺が剣を繰り出すと、奴の脇から肋骨の隙間に剣先が消えていった。
奴が驚愕する顔が目に焼き付いた。
そのまま、剣は俺の手を離れてゆく。
俺は床に転がっていた。

 

 

辺りは静かだった。
俺の息と心臓の鼓動だけが、嫌に大きく聞こえた。
そこに奴の姿はなかった。
刺し貫かれた剣とともに、一瞬でこの場所から消えていった奴の姿を思い出した。
(勝ったのか?)
俺はゆっくりと身体を起こした。
(?)
気配は無かったが、俺の目は視線の先に人の姿を捉えていた。
薄闇のなか、上品そうなドレスを着た女の子がこちらを見ている。
そのドレスには見覚えがあった。
ドレスには奴の返り血が付いている…

「女の子」は鏡に写った俺自身であった。

 

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