« 狩士(2) | トップページ | 無題 »

2015年9月13日 (日)

狩士(1)

カロルネから西に向かう街道を歩いていた。
別に馬の調達が必要な程の急ぎ旅でもない。
左右に広がる田園風景を見ながら、足を進めていた。

「よう♪旦那さん。景気はどうだい?」
突然の声に振り向くが、辺りには誰もいない。
「ジン(精霊)か?」
「そうという人もいれば、そうでないという人もいる。」
そんな事を言うのはジンである証拠だ。
「景気か?まあ、ぼちぼちだなあ。」
「旦那さんはどこに向かってるんだい?」
「一応、狩士を生業としている。この先の山の中に獲物が居ると聞いてきたんでな。」
「旦那さんは強いのかい?」
「とりあえず、生業にできる位はな♪」
「ならば西の山に警告してやらねばならぬのかも知れないな♪」
「それも良かろう。人に悪さをしなくなればそれで良いさ。」
「う~ん。そうなると旦那さんの強さを確かめる事ができなくなるな。」
悩んでいるジンを置いて、西に向かう足を早めた。

既に陽が傾き始めていた。暗くなる前に次の宿場には着いていたかった。
夕陽が獲物の棲む山に掛かろうとする頃には、宿場の大木戸が見えていた。

松明に火が付き、明かりを生み出している。
特に、宿屋のまわりは明るく照らされていた。
「部屋はあるかい?」
宿屋の主人に尋ねる。
「30クレジットだ。」
とぶっきらぼうな回答を得た。
空きはあるという事だろう。
前金で支払いを済ませると、渡された鍵を懐に入れたまま、部屋には入らずに隣の居酒屋に足を入れた。
「いらっしゃい。」
宿屋の主人と似たような顔が迎えてくれた。
カウンターの空いている席に腰を降ろした。
「ビールと、飯になるものを見繕ってくれ。」
そう言うと、なみなみとビールが注がれたジョッキが目の前に置かれた。

テーブル席ではいくつかのグループが宴を開いていた。
多分皆、隣の宿の客であろう旅人ばかりであった。
商人や芸人達である。特に芸人達は陽気に騒ぎまわっていた。

「旦那♪こっち来て一緒に騒ぎませんか?」
とお節介な輩が声を掛けてくる。
「明日も早い。静かに飲んで食ったら寝ているよ。」
と追い払う。
あまり執こいようなら腕づくでも…とは思ったが、そいつはあっさりと引き下がっていった。
席に戻ると踊り子の若い娘と騒ぎ始めていた。

「旦那さん?」
不意に耳元に女の声がした。
黒いベールを被った占いの女のようだ。
「良くない卦が出ている。お守り代わりにこのカードを身に付けていると良い。」
と渦巻き状に歪んだ男女の姿が描かれたカードが渡された。
「『渦中の王と女王』よ。巧くいけば、災いを別のものに転嫁できるわ。」
カードを押し返そうとしたが
「お代はいらないわ。もし、縁があって無事に再会できたら、一杯奢ってくれれば良いわ。」
と懐の中にまでカードを押し込んでしまった。

その一瞬後には、彼女の姿は芸人達の集団の中に埋もれていた。
本当に今までそこに彼女がいたのかと思う程であった。
しかし、懐にはカードが存在し、現実であったことを物語っていた。

 

 

まだ陽は東の地の下にあった。
白み始めた空の下に宿場を出た。この先はもう、まともな睡眠はとれないに違いなかった。
街道をしばらく進むと分岐路があった。
街道は大きく南に曲がってゆくが、分岐した路は西の山々に向かっていた。

迷わずに山に向かう。山に入り、可能な限り奥に進む。
山の中は平地よりも暗くなるのが早い。足元が見えなくなるので簡単には進めなくなる。
明るいうちに距離を稼いでおかなければならない。
そして、安全な場所を確保して一夜を明かすのだ。
勿論、熟睡などはできない。山の中にはどのような危険があるか判ったものではないのだ。

辺りが見えるようになると、行動を開始する。
十分に奥まってくると、そこに獲物の痕跡が見つかり始める。
最近になって残された痕跡が見つかるようになると、獲物の住処は間近である。
どうやらジンは獲物には警告しなかったようだ。

地形を確認し、獲物の住処にあたりを付ける。
突入に際して動き易いよう、余計な荷物は一まとめにして岩陰に隠しておく。
装備を確認し、獲物の住処へと向かう。
「そいつが旦那さんの獲物だと確信があるんですかい?」
ジンがやってきて耳元に囁く。
「痕跡を見つけたのはこいつだけだ。この山に別の獲物がいるとは思えないが?」
「旦那さんの判断に誤りがないことを信じてるよ♪」
そう言い残しジンは去っていった。

獲物の住処と思われる岩穴に辿り着く。
呪いで岩穴の口に結界を張った。
少し時間を掛けて、岩穴の闇に目を慣らす。
既に獲物もこちらの気配に気付いている筈である。が、結界が張られているので逃げる訳にはいかない。
向こうも闘う準備をしているだろう。

闇とはいっても日中である。入り口から入った光は岩肌に反射して完全な闇を作るには至っていない。
が、岩穴は思っていた以上に内側に広がっていた。
獲物の気配を追って奥に進む。
と、そこに獲物がいた。

思っていた程大きくはなかった。まだ若いのだろう。
(本当にこいつで良いのか?)
ジンの問いかけが頭を過る…が、それも一瞬の事。
襲い掛かってくるのを避わし背後に回り込む。
尻尾を掴み動きを封じる。
「カゥン…」
奴が可愛い声で鳴く。
(本当にこいつで良いのか?)
手が剣の柄を離れ、捕獲網を掴んでいた。
網が奴の肢体に絡み付き、動きを封じる。
大人しくなってくれれば、この山から連れ出し、更に奥の人里離れた場所に放してやる手もある。
「ォオン…」
覚悟を決めたか?
と思った次の瞬間、氷点下の殺気が爆発したように降り注いできた。
(上か?)
目の前の奴より遥かに巨漢の奴が天井から落ちてきた。
寸でのところで避わした。が、無傷という訳にはいかなかった。
脇腹が切り裂かれ、激痛が走る。
剣の柄を握り直し、奴の急所に全体重を掛け突き立てる。
奴もまた手負いだった。
あの一撃が全てだったのだろう。切っ先を避ける素振りも見せず、待ち構えていた。
剣が奴の急所を貫くと同時に、奴の最期の一撃が私の首をへし折っていた。

 
相討ちだった。
が、それで終わった訳ではなかった。
私の懐から光が放たれた。光の元は、あのカードだった。
岩穴が光で満たされる。
光の渦が一切をかき混ぜていった…

 

« 狩士(2) | トップページ | 無題 »

コメント

コメントを書く

(ウェブ上には掲載しません)

トラックバック


この記事へのトラックバック一覧です: 狩士(1):

« 狩士(2) | トップページ | 無題 »

無料ブログはココログ