« 変身(2/3) | トップページ | 狩士(5) »

2015年9月13日 (日)

変身(1/3)

ブーーン…

虫の羽音が耳元を横切っていった。
そして、一呼吸した後 チクリ と手の甲に痛みがあった。

そこには悠々と血を吸っている「蚊」がいた。
叩き潰そうと、もう一方の掌で甲を叩く…
ゆっくりと重ねた手を開いてみたが、そこには潰れた蚊の死骸は見当たらなかった。
(逃げられた…)
残ったのは、叩かれた手の甲の痛みと、これから始まる痒みに対する憂鬱な想いだった。

 

それが三日前の事。
幸いにも蚊に刺された跡には何もなく、痒みにも苛まれずに済んでいた。
その事を友人に言うと
「蚊なんか出る季節か?別の虫を蚊と勘違いしただけじゃないのか?」
と言われた。
実際、そろそろセーターでも着ないと凍えてしまいそうな気候である。
こんな時期に蚊が飛んでいたのもおかしな話だ。が、蚊ではないとしたら、あれは何だったのだろう?
「遺伝子改造された奴だったりしてな♪」
SF好きな彼の発想は、かなり自由である。
「お前の体内に何らかのナノマシンを投入していったのかも知れないぜ。もしそうなら、明日のお前はアメコミ☆ヒーローだな♪」

勿論、彼の言うアメコミ☆ヒーローは緑色の巨漢になったり、糸を出してビルの谷間を飛んでいったり…といったやつだ。
「はいはい♪お前が危機に陥ったら、変身して助けにいってやるよ。」
と軽く受け答えした筈だったが…
(ドクリッ!!)
心臓が高鳴った。
体中のチカラがみなぎってゆく。
身体が宙に浮き、光に包まれる。
その光の中で、着ていた服が消失した。
更に光が輝きを増す。
手先や足先に光が集まると、それは手袋やブーツの形に変わっていった。
首の回りに集まった光はマフラーに形を変える
身体を覆う光が服に代わり…
腰の回りに集まっていた光が変わったのは…スカート?

光が収まるとともに、あたしはゆっくりと地上に降ろされた。
(えっ、あたし?)

あたしの前で彼が驚いていた。
「そ、それはアメコミ☆ヒーローではなく、日本伝統の魔法少女ではないか♪」
ご丁寧にも、あたしは手に魔法のステッキのようなものを握っていた。
確かに、このヒラヒラの衣装はアイドル歌手ステージ衣装より派手な…魔法少女しか着ないような服だった。

どうやら、あたしの言った「変身」というキーワードに反応したみたいだ。
頭の中にはこれまで知らなかった様々な情報が詰め込まれていた。
その中には魔法の呪文があり、空を飛んだり、必殺技を放ったりする事ができるようだ。
そして、今必要なのは変身を解くこと!!

あたしは頭に浮かんだ呪文を唱えた。

「うん。それはそれで萌えるね♪」
「な、何言ってるのよ!!」

…のよ?って、まるで女の子の台詞じゃない。
それに、この声の高さ…あたしって「魔法少女」が変身を解いた「女の子」になってる訳?

「いやぁ、こんなに可愛ければ元が男だなんて関係ないね。できればお兄ちゃんって言ってくれないか?」
「アホか?あんたはそこで独り悶えてなさいっ!!」

 

つまり、今のあたしが「小さな女の子」ってことは解ったわ。確かに服もジュニアの女の子のものだし、スカートの下にはくまさんのプリントされたパンツでも穿いていそうね。
(って、簡単には見せてあげないからね!!)
あたしは背中に…いやスカートの中のお尻に突き刺さるくらいの彼の視線を感じていた。

(どうやったら元に戻れるか?)
変身を解いてしまった所為か、さっきまでのように「何でも知っている」状態にはなれなかった。
あの状態になれば、何か解るのだろうが、彼の前で「変身」はしたくなかった。
(何故か変身の途中で裸姿を見られるのよっ!!)
取りあえずはあたしん家に戻って対策を考えましょう。…って、この姿であたしん家に戻っても入れてもらえるのかしら?
あたしがあたしであるとパパやママが判ってくれない可能性もあるのよね。
(けど、行くしかないか…)

 

 

「まあ、ようやく羽化したのね。お帰りなさい♪驚いたでしょ?」
あたしの姿を見るなり、ママが小躍りしていた。
「もしかして、コレってママ逹の仕業?」
「仕業なんて人聞きの悪い。人体実験と言って欲しいわ♪」

パパとママは「科学者」らしい。これまでどんな研究をしているかなんて聞いた事なかったけど、娘を人体実験に使うなんて…

「パパは変身させるなら巨大ヒーローが良いって言ってたのよ。でもね、変身させるなら魔女っ子よね♪」
きょ、巨大ヒーローって…パパなら本当にやり兼ねない。
街中に突然そんなのが現れたら何と思われるだろう。
「だからね。パパが出張している間にナノマシンのプログラムをこっそり入れ換えておいたの♪」
と、ママはいそいそと出掛ける準備を始めていた。
「どこか出掛けるの?」
「あんたの服とか買わないとね。その身体じゃ今までの服は着られないでしょ?」

「身体にあった服を新たに買うよりは、この身体を元に戻す方法を教えてもらいたいんですけど?」
ママなあたしの提案には一切触れたくないようだった。
「ママね、娘と一緒に服を選ぶのが夢だったのよ。男の子の服て地味だし、即に汚すからあまり良いモノも買えなかったしね♪」
「でかけるなら独りで出てって頂戴。あたしは部屋でマッドサイエンティストの両親を持った不幸に嘆き悲しんでるから。」
「一緒に行くに決まってるでしょ?服は本人に合わせないと良い物は選べないわ。」

 
と、結局あたしも連れ出されていた。
今の背丈では、やはりジュニア物になる他ない。
とは言え、何で女の子の服ってこんなヒラヒラした可愛いのしかないのよ!!
何着も着せ替えさせられる。そのどれもが、丈の短いスカートで殆どお尻を隠す事ができない。
「こんなので彼を悩殺しちゃうなんてどう?」
「の、悩殺…なんてあたしに彼なんている訳ないでしょ!!」
と言いつつも、何でそこにあいつの顔が浮かんで来るの?
彼はアメコミ☆ヒーローと幼女にしか興味がない変態で…
って、今のあたしって「幼女」に分類されるの?
ママが選んでくる服を着たあたしを鏡に写すと、それを否定する事は難しい。
(確かにこの身体は奴にはどストライクよね)
あたしが悩殺ポーズを取ってみると、奴が感激に悶え狂う姿が目に浮かんだ。
(いや、奴なら三つ前に着たやつの方が過剰反応するんじゃないの?)
あたしは試着室に貯まっていった服の中から、それを取りだし着替えてみた。
(お・に・い・ちゃん♪)
と口に出さずに言ってウィンクを加えてあげる。
奴の悶え苦しむ姿が目に浮かんだ。
「あら、あたしもそれが良いかなって思ってたのよ。あんたも気に入ったのならちょうど良いわ♪」
結局、この服を着たまま店を出る事になった。
でも、買い物はそれだけじゃなかった…
靴屋でシューズとサンダル、ブーツを買った。
雑貨屋でミニリュックとポシェット、ショルダーバックを買い、幾つかのヘアアクセサリーを選ぶ事になった。

へとへとになったあたしが最後に連れて来られたのはランジェリーショップだった。
「胸は無くてもブラは必須アイテムよ。今はこんなものしかないけど、数年したらよりどりみどり選べるようになるわよ♪」
(数年…って、あたしは即にでも元に戻りたいし、絶対に戻ってやるわ!!)
あたしは既に気力を失い、殆どママの言う通りにブラを選んでいた。

 

 
「昼間は大変だったな。」
夜、彼から電話があった。
「結局まだ戻れてないのか?家の人、信じてくれたか?」
多分、あたしの声が女の子の声のままなんで、元に戻ってない事が解ったのだろう。
「ん…まあ、色々あってね。」
彼にはどこまで話して良いか躊躇していると、
「一晩寝れば元に戻るかも知れないんじゃないか?」
という彼の言葉にあたしの頭の中で、プツンとどこかの糸が切れた。
「いい加減なコト言わないでよ。あたしは当分このままよ!!簡単に戻れない事は確認済みなの!!!!」
「ど、どうしたんだよ急に?」
受話器の向こう側で彼がオロオロしていた。
「つまり、あたしがこうなったのは、パパとママの所為だったのよ。特に、女の子にしたかったのはママね。多分、ママが飽きないと元に戻れないと思うわ。」
「おばさんが?…そうか。それは大変そうだな。俺もできるだけバックアップしてやるよ。」
彼の優しさにあたしの怒気も少し納まってきたようだ。
「まあ、不幸中の幸いというか、パパの設定のままだったら、あたしは巨大ヒーローにされてたわ。」
「ありゃ。おじさんらしいと言えばそれまでだけど、それはあんまりな仕打ちだね。」
「だからと言って、あたしはこの状況を受け入れた訳じゃないわ。何とかママを説得して元に戻るの。」
「俺もこの後、説得できそうな資料を集めておくよ。明日の昼前にはそっちに着けると思うよ♪」
「期待しないで待ってるわ。お休み♪」
と、あたしは電話を切った。
何れにせよ、彼が来てから集めた資料でママを攻略する手立てを考える事から始めないと…

 

« 変身(2/3) | トップページ | 狩士(5) »

コメント

コメントを書く

(ウェブ上には掲載しません)

トラックバック


この記事へのトラックバック一覧です: 変身(1/3):

« 変身(2/3) | トップページ | 狩士(5) »

無料ブログはココログ