« 狩士(3) | トップページ | 狩士(1) »

2015年9月13日 (日)

狩士(2)

 
私は闇の中で目を開いた。
手足に絡み付くものがあり、身動きが取れない。

私の目の前には大きな塊があった。
それが私の倒した獲物であることは間違いない。
そして、その巨躯に潰されるようにして転がっていたのは、私の死体だった。
つまり、今の私は網に捕らえた若い方の獲物の内に在るという事た。
「旦那…だよな?またえらく可愛くなっちまったな♪」
ジンがやってきて言った。


確かに、今の私は元の姿とは似ても似つかないものになっていた。
更に、網を外している間に、本来のこの肉体の姿からも変わってしまっているのも確認していた。
本来は獣の手足であり、指を器用に扱うことはできない筈である。が、今の私はかなり人間に近い姿になっていた。
小さく、細いながらも手には五本の指が揃っていた。親指も自由に動き、ものを掴む事ができる。
その手で戒めを着実に解いていった。

既に私の肉体が事切れているのは疑いようもない。首が折れ、あり得ない方向を向いているのだ。
当然、元の肉体に戻る事など考えようもない。
私は岩穴を出ると荷物を隠しておいた場所に戻った。
かなり暗くなっていたが、この肉体は夜目が効くようだ。
隠しから荷物を取り出す。
かなり体躯が小さくなって力も出せなくなっついた。
以前は難なく扱えた重量もこの肉体には耐えられそうもない。
最低限必要なものを選んで持っていく事にした。

 
先ずは服である。
以前は体毛に覆われていたが、人間化に伴い失われている。
が、元の私の服は大き過ぎた。
短コートを羽織り、ベルトで縛ると何とか形になった。
靴は諦めるしかない。
この先狩士を続けられるか分からないが、この体躯でも扱えそうな道具を選び荷物をまとめた。
ふと思いだし岩穴に戻ると、私の剣と懐にあったカードを回収した。

 

 

この肉体は力は無いが、持久力は並外れていた。
夜の内に山を降り、朝日が昇る頃には近くの宿場に辿り着いていた。

私はあのカードをくれた占いの女に会う必要を感じていた。
あの旅芸人達がいつ頃この宿場を通過したかが判れば、今どこら辺にいるかを割り出せる筈である。

宿場の大木戸は閉ざされていた。が、その脇には小さな通用口があった。
扉を押してみる。
鍵は掛かっていなかった。

「お疲れ様♪」

と声が掛けられた。
目の前に占いの女がいた。
「災いは転嫁されたけど…ジンが言ってたように可愛くなってしまったわね♪」
「あ、あんたか…」
会わなければと思っていた人物に、先ず最初に遭遇してしまった。
「と、取りあえず『死』は回避できた。礼は言いたいが、この肉体はひ弱過ぎる。別の頑丈な肉体に換える…なんて、無理な相談かな?」
「それなりの対価とリスクの覚悟があれば、不可能とは言えないわ。けど、あんたはまだその肉体を充分に把握しきれていないんじゃないかしら?」
「鍛えれば、同じになれると言うのか?」
「その肉体は『人間』ではないわよね。更にまだ幼いと言って良いくらいに若いわ。時間はあるわ。あんたならその肉体なりの活用方法を見つけられるわよ♪」
「楽観的だな?」
「あんたが仕事ができるようになるまで、一座で面倒をみてやるわよ。」
「面倒…て?」
「食べるもの。着るもの。寝る場所。…別にあんたを見世物にしたり、芸を仕込んで稼がせたりはしないから安心して♪」
「その間にあたしは鍛練に勤しんでいて良いという事?あんた達の完全な持ち出しじゃない?」
「あのカードを持たせた責任があるからね。それに、あんたの成長を見てみたいのよね♪」
「それはあんたの個人的な趣味でしょ?そんなんで皆を納得させられるの?」
「問題ないわ。だって一座はあたしの所有物だからね♪」
「あんたが座長なのか?」
「あたしは単なるオーナーよ。座長は別に立ててるわ。あとで紹介する。それより、その服をなんとかしないとね♪」
「判った。しばらく厄介になる。」
私は差し出された彼女の手を握っていた。

 

 
「これって女の子が着る服じゃないか!!」
「男だったあんたには抵抗があるとは思うけど、今のその肉体にはこういう服が合ってるのよ。」

私はこの肉体が華奢なのは、単に幼いからだと思っていた。
が、明るい場所でわたしは衝撃的な事実を知る事になった。
「女の肉体だったの?」
私はその事実に驚き狼狽していたが、占いの女はかなり早い時点でその事に気付いていたようだ。
「男と女では、先ず匂いからして違うからね♪微かな違いに気が付けば、あとは裏付けを取ればよいのよ。」
「あたしはこの姿で、この先を生きなければならないの?」
「女も悪くはないわよ。世の中の半分は女をやってるんだからね♪」

そして、服を選らばされていた。
「それなんか良いんじゃない?」
私が何気に手に取った服を誉められた。
「偶然、手にしただけよ。意識して選んだんじゃないわ。」
「それでも、嫌じゃなかったら着てみて♪サイズは問題ないから♪」
私は彼女に手伝ってもらい、そのクリーム色のワンピースを着てみた。
「回ってみて♪」
彼女に言われるがまま、くるりと回ると、スカートが空気を孕みふわりと舞う。
私が止まると、裾が降りてきて私の脚に触れた。
ズボンしか穿かない男では経験することのない、新鮮な感覚だった。
「成長して行けば、もっと違った感覚も経験する事になるわよ♪」
と、彼女は私の手を掴むと、自らの胸に私の掌を触れさせた。
豊かな乳房の感触が伝わってくる。
私は慌てて掌を離そうとしたが、
「女同士のスキンシップよ。何の問題もないでしょ?」
「あ、あたしは男…だったんで、そう簡単に異性の胸など…」
「今はもう女の子でしょ?異性ではなく同性よ♪それに、いずれあんたの胸もこれくらい育ってくる筈よ♪」
「あ、あたしの胸もこんなになるの?」
そう私が言ったとき、私の中に複雑な感情が生まれていた。
(私自身が胸が大きくなる事を望んでいる?)

 

« 狩士(3) | トップページ | 狩士(1) »

コメント

コメントを書く

(ウェブ上には掲載しません)

トラックバック


この記事へのトラックバック一覧です: 狩士(2):

« 狩士(3) | トップページ | 狩士(1) »

無料ブログはココログ