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2015年9月13日 (日)

狩士(5)

 
剣は予想以上にあたしの身体に馴染んでいた。
あたしの身体の一部のように振るうことができた。
躍りで鍛えたバランスと柔軟性。剣が軽くなった事で変化に飛んだ技を繰り出す。
剣の切れ味は衰えることなく、あたしは狩士として十分な成果をあげていった。

 
「ケイ。右をお願い♪」
あたしは左に飛んで獲物を牽制した。
(格下の相手でも侮らない)(周囲に気を張り不意打ちに備える)
あたしがこれまでに学んできた事を復唱する。
「いたっ!!」
岩陰にもう一体が隠れているのが見えた。
ケイにも意識するよう、隠れている岩の上にマーキング用の液玉を投げ付けた。
玉は岩に当たると弾けて、中身の着色液をぶちまける。
ケイからも了解したとの合図をもらった。
あたしは岩陰の奴の動きに注意しつつ、もう一体を牽制し続ける。
「はあーーっ!!」
ケイが気合いとともに獲物に迫った。
もう一体もそちらに注意が向く。
あたしはスッと死角に回り込み、捕縛網を投げつけた。
網は獲物の四肢に絡み付いて動きを封じる。
あたしは岩陰に隠れている奴に注意を向けた。
そいつはまた動こうとはしていない。
背後ではケイが獲物を仕留めようとしていた。

岩陰のやつは動こうとしない。
ぶるぶると震え、身を縮めていた。
あたしは捕縛網をもうひとつ取り出した。
できれば無駄な殺生はしたくはない。
「そのまま、じっとしてなさいよ…」
そう声を掛けながら網を被せた。
「ぐふぉおん…」
ケイの相対していた獲物が最期の吠声をあげていた。
あたしの前のやつはびくりとして動かなくなった。
あたし逹は、一体を仕留め、二体を捕獲した。

 

 
狩を終え、宿に戻った。
ケイとはコンビを組んではいるが、狩士仲間として以上の関係にはなかった。
ある街で出会い、意気投合してコンビを組んでみたが、なかなか相性が好く、その後もコンビを組み続けている。
ケイはそれ以上の関係になりたいようだが、あたしは今だに自分が「男」であった事に拘っていた。
だから、宿をとっても必ず部屋は別々にしている。
勿論、ケイに肉体を許した事はない。

「乾杯♪」
祝杯をあげた。
獲物3体は久々の事だった。
うち2体は生け捕りだったので、かなり高額で引き取ってもらえた。
酒場での祝杯も、いつもより遥かに上等な酒となっていた。
料理も美味しく、酒がすすんだ。

(…)

記憶が飛んでいた。
あたしは宿のベッドの中にいた。
何故か全裸だった。

何故かと問う必要はないだろう。
酒の所為にはしたくないが、久しぶりにあたしは「発情」してしまったに違いない。
股間に残る感覚は「男」とシた事を如実に物語っていた。
(相手はケイだったのだろうか?)

あたしは確かめる勇気もなく、ケイと別れた。
再び独り身の狩士に戻るだけだった。

しかし、しばらくすると身体に変調を感じてきた。
それが「妊娠」である事に気づくまで、かなり時間が経っていた。

妊娠と気づく前、あたしは休養が必要になると無意識に感じていた。
(休める処って…)
あたしの足はトーヤの小屋に向かっていた。
当然のように、小屋にトーヤはいなかったが、あたしの残してきた巾着も、そのままに残されていた。

そして、肉体の変調が妊娠であると判った。
「男」であった自分が「女」として妊娠している。
自らの内に新しい命が宿っている。
あたしは「女」で「母」なのだ。
既に、あたしは出産する事を当然のように考えていた。

 

 

 
赤ん坊の泣き声が聞こえた。
「男の子だよ」
ジンが言った。
続いて出産を手伝ってくれた近くの村の女性に抱えられて、あたしの「息子」がやってきた。
(君はパパみたいな狩士になるの?お祖父ちゃんの跡を継いで鍛冶屋になるの?)
いまだ何にも染まっていない赤ん坊は、ただ泣き叫んでいた。

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