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2015年9月13日 (日)

変身(2/3)

「おはよう…」
朝ご飯が出来たと言われ、居間に行くとママの焼きたてのトーストがテーブルに並んでいた。
「今日はどうする。昨日は本当に基本的なものしか買って来なかったから…」
「昨夜、彼から電話があって昼前くらいにうちに来るって。」
「あら♪じゃあ、お昼は一緒に戴きましょうか?」
「大丈夫だよ。いつもみたいに近くのラーメン屋で済ませるから。」
「折角なんだから、手料理を御馳走してあげましょうよ。もちろんあんたも手伝うのよ♪」
「な、何であたしまで?」
「娘と一緒に台所に立てるなんて、夢のようだわ♪彼に美味しいって言わせてあげましょ。」

あたしが作ったものを彼に食べてもらうなんて、これまで考えた事もなかった。
もし、本当に美味しいって言ってくれたら…何故かあたしの顔に笑みが浮かび、幸せな感覚に包まれていた。

ママが用意してくれたエプロンを着けて調理台の前に立った。
やはり、背が低くなってしまったので動き辛い。
ママが持ってきてくれた踏み台の上に立つと、どうにか格好がついた。
「まだ包丁とかは無理よね♪」
「昔、家庭科でやった記憶はあるけど、もうほとんど覚えてないわ。」
「じゃあ、卵を割ってかき混ぜて頂戴♪」
「ハ~イ♪」
あたしは目の前に出されたボウルに卵を割って入れ、勢い良くかき混ぜた。
途中でだし汁を入れ、更にかき混ぜる。
卵焼き器に油を敷き、数回に分けてかき混ぜた卵を入れ焼きあげてゆく…
「だし巻き卵の完成でーす♪」
お皿に移し、大根おろしを添えてできあがった。
パチパチパチとママも拍手してくれた。

ピンポ~ンとチャイムが鳴った。
時計を見た。
「もうこんな時間?」
多分、彼が来たんだ。あたしは慌てて玄関に向かった。

「よ、よう。元気そうだな。」
彼はあたしを見て、拍子抜けしたような顔をした。

そのままあたしの部屋に行った。
「この部屋はあまり変わってないな。」
と彼が部屋の中をキョロキョロと見た。
昨日買ってきた服は既にタンスの中に仕舞ってあるから、あたしの部屋はどう見ても「男の子の部屋」…
「あっ、そのヌイグルミ。それもおばさんと買ってきたの?」
彼がベッドの上のイヌのヌイグルミを見て言った。
「昨日は荷物が多かったから、コレひとつだけだって。そのうち、部屋がヌイグルミで一杯になっちゃうかも♪」

そして、彼の視線があたしに注がれる。
「そのエプロンも可愛いね。料理してたのか?」
「っあ、そう。もうお昼になるから、一緒に食事しないかって。あたしもママと一緒に料理を作ってたの。」
「それじゃあ、ママとの関係も大分和らいできたのかな?」

彼の言葉に、ようやく彼にここに来てもらった要因を思い出した。
(そう。あたしは元に戻らなくちゃいけないんだ!!)
けど、折角だし巻き卵作ったんだし、別にお昼を一緒に食べるのを諦める必要もないじゃん♪

「どうした?」
と彼。
「お前の百面相、結構面白いぞ♪」
「な、何言ってるのよ。変な事言うとあたしの作っただし巻き卵、食べさせてあげないからね。」
「それはまずいな。って、美味しいかどうかではなく…」
「わかった、わかった♪食べさせてあげるわよ。そのかわり、ちゃんと感想を聞かせてね♪」
「了解。じゃあ、本題は昼飯の後にで良いかな?」
「うん。じゃあ支度してくるから、ここで待っててね♪」

あたしは居間に戻っていった。
テーブルに箸や器を並べてゆく。
昨日まであたしが使っていたお箸は、今のあたしには大きいので彼に使ってもらう。
あたしはママが用意していたあたしが小学生の時に使っていたのを並べておいた。
あたしの食器には、昔懐かしい変身ヒーローがプリントされていた。

 
「そういえば、昔からお前の持ち物にはヒーローもののプリントが多かったよな。」
「パパが大好きで、いつか息子には地球防衛軍に入隊させるんだってのが口癖なのよ♪」
(そう言うママは娘なら魔女っ子にさせたかったのよね)
あたしは言葉には出さずにパパの事を言うママを見ていた。
もし、あたしが娘だったらパパと同じ事を形を変えてあたしにしていたに違いない…
いや、今のあたしは「娘」なのだから、これまでママがしたくてもできなかったアレコレを一気に実現しようとしているに違いない。
この食器逹も明日には…いや、今夜の食卓から、可愛い女の子向けのものに変わっていてもおかしくはないだろう…

「で、これがお前の作っただし巻き卵か?」
と彼の箸があたしの自信作に手を伸ばした。
大根おろしと一緒に口の中へ…
「旨い!!」
彼の顔が綻ぶ
「えへっ♪」
あたしも嬉しくなる。
「これなら良い奥さんになれるよ♪」
あたしは優しい旦那さまと可愛い子供逹に囲まれた幸せな家庭を思い浮かべていた。
「良いわよ。いつでもこの娘を嫁にもらってって頂戴♪」
とママ。
その言葉にぼんやりとしていた旦那さまの顔が晴れてゆき、彼の顔になった。
つまり、彼の奥さんがあたしで、彼の子供逹はあたしが産んだの?
「おばさん。そんな話はまだ早いですよ。僕も働いて一人前になるまでは、結婚とか考えられませんよ。」

…そう、家族を持つ前に結婚という儀式がある。
やはり、教会が良いかな?
純白のウェディングドレスを着て、バージンロードを彼の元へ…
って、何を考えてるのよ。あたしは!!
あたしは早く元に戻って、いずれは純白のウェディングドレスを着たお嫁さんを待つ方に立つのよっ!!

 

 
「そうそう。幼いままだと不便な事もあると思うから、大人になるおまじないを渡しておくわ。有効時間は一時間しなないから気を付けてね♪」
食事が終わると、ママは「実験の立ち会いに呼ばれたから出掛けるわ。今夜は戻れないから。」と、身支度を始めた。
「戸締まりよろしくね♪」と「おまじない」をあたしに渡すと出て行ってしまった。
「なんか慌ただしいね。」
と彼。
「後片付けしちゃうから、部屋で待ってて♪」
と彼をあたしの部屋で待たせ、あたしは食事の後片付けを始めた。

 
(背が低いって、何て面倒なの?!)
あたしは食卓の上のものは椅子に乗って。台所ではいちいち踏み台を移動させて高さを調整した。
シンクに食器を集めて、下洗いをしてから食洗機に放り込む。
食洗機は便利ではあるが、今のあたしには踏み台の昇り降りが必要で面倒このうえない。
乾いた食器や調理道具を所定の場所に戻して片付け完了。
あたしはエプロンを外して、彼の所に向かった。

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