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2015年2月 9日 (月)

鬼の嫁取り(4)

気が付くと俺はベッドの中に寝ていた。
信じられないくらいフカフカの布団に包まれていた。
「お目覚めですか?」
ドアの外に控えていて、俺が起きる気配を窺っていたのだろうか、女が近付いてきた。
その声から、昨夜俺にドレスを着せた女であるとわかった。
「お召し替えを。」
と俺を立たせた。

彼と結ばれていた時は全裸だった筈だが、今は薄絹のゆったりした服を着せられていた。
女はそれを脱がせ、再び俺を裸にした。
彼女には昨夜も裸を見られているし、多分、寝ている時の服も彼女が着せてくれたのだと思う。
彼女が用意してくれた着替えは、勿論昨日までずっと着ていた旅装束ではない。
昨夜のようなドレスではあったが、締め付けはキツくはなく、動き易くなっていた。

朝食を終えると都に向けての移動が始まった。
彼一人が行くものと思っていたが、一緒に運ぶ荷物が10台近い荷車に載せられるので、そのお守りをする人逹も一緒に行動する事になる。

「こっちだ。」
と彼の声がした。ワゴンの入り口で手を振っている。
動き易くなったとはいえ、ドレスのまま都までは歩いていけないと思っていたところだった。
ワゴンに乗せてもらえればドレスの件は問題なくなる。
俺は彼に腕を引かれてワゴンに乗り込んだ。

大きめのワゴンは三人が並んで座っても余裕のある広さがあった。内装も手が込んでおり、隅には簡単な調理台も設えてあった。
調理台があれば、食器も用意されている。壁面には緩衝材に挟まれて皿やグラスが納められていた。
「なんならワインでも呑むかい?」
と彼がボトルを取り出そうとしたが、
「昼間からそれはないだろう?それに、外ではあんなに働いている人逹がいるぞ。」
「彼らには充分な報酬を払っている。僕逹が気に掛ける必要はないんだよ♪」
「それでも…まだ動きだしもしないうちからは…」
多分、都まで彼と二人だけでこのワゴンに乗り続けなければならないのだろう。
俺は昨夜の恥態を思い出していた。彼と一緒にいると、調子が狂う。俺が男である事を忘れ果て、無垢な女の子になりきってしまうようだ。
こんな状態でアルコールを摂取したら「俺」の意識がいつまで保てるだろうか?

「そうだな。都までは時間が掛かる。慌てる事はない。」
とワゴンの席にどっしりと腰を落ち着けた。
彼が御者に合図を送ると、彼らは声を掛け合い隊列が動き始めた。
昨夜の人力車もであるが、俺はこれまでこのような乗り物に乗った事がない。
(鬼であればその体力にモノを言わせ、二本の足だけでどこへでも行ったものだ)

窓の外の景色は、これまで見た事のないものであった。
まず、視点が高い。普通に歩くより遠くが見える。特に人間に…女になった事で、鬼の時よりも低い視点でしか見れていなかったので、爽快な気分になった。
更に、車輪で移動するため(多少は路面の起伏の影響はあるが)景色が揺れる事がない。すーっと後方に流れてゆくのだ。

そしてスピードだ。
ワゴンは馬に牽かせているので、歩くよりかなり早い速度で移動していた。
「それでも都までは三日は掛かる。夜も寝ずに走り続ければ別だがな♪」
とは彼の談だ。

「何の為にあの街に来ていたんだ?」
俺が聞くと
「視察ってやつかな?僕にはこの国の安全を守る責務がある。この近くに脅威となるものがあると聞いて確認に来たんだ。」
「脅威?」
「ああ。あの近郊の村々が人外のものに教われた…との話があったんだ。」
「人外のもの?」
「そうだ。鬼が出たらしい。」
俺は俺自身の事を言われたかと思い、どきりとした。
「この辺りには昔から鬼の伝承がある。が伝承であって、実際に鬼を見た者はいない。今回も鬼を騙ったちんけな盗賊の仕業だとわかった。国の脅威とはなり得ないね。」
「それで、この仕事は終わりなのか?」
「ああ、都に戻って報告して終わりだ。だから、都に着くまでは好き勝手できるんだ。」
「好き勝手って…」
「本当に何をしてても大丈夫だ。勿論、今から酒を呑んでても、昨夜の続きをしてても♪」
「昨夜の続き…って?!」
それが、俺が女として彼と繋がり、淫声をあげ続けた…アレである事は間違いない。
俺は恥ずかしさに顔が紅潮するのを感じた。
「どうやら、君とは相性が良いらしい。流石にここでは、いつ覗かれてもおかしくはないな。でも、宿に着いた後なら良いだろう?」
彼の言葉に俺は顔を赤らめたまま、首を縦に振っていた。
そして、それが何を意味するかが後追いで俺の脳に達し、俺は更に顔を上げられなくなってしまった。

 

「ところで、君の出は何処なんだい?確か島とか言っていたよな。」
「ああ。ちいさな島だ。あまり外との交流もない…たまに海賊のような奴等に襲われるがな。それ以外は至って平和な島だよ。」
「ほう♪海賊が出るのか?山賊に海賊…鬼のような奴等が多いな。国の存亡に関わる程ではないが、民の生活には支障となろう。早いうちに手を打てるよう心に留めておこう♪」
流石に俺逹が「鬼」そのものであるとは言えなかった。
「それで?君が都に行く理由は何なんだい?差し支えなければ教えてもらえないか?」
「陸に行けば、島が海賊のような奴等に襲われる原因がわかるだろう と長老に言われたんだ。」
「ほう♪原因ね?だから長老さんは都に行けと?」
「長老は島の外を見て来いと言っただけだ。都に行くと決めたのは自分だ。都に行けば近くの里だけよりも色々と見聞きできるだろうと…」
「だが、既に自分の知らなかった事の多さに狼狽えている。といったところかな♪」
「確かに色々知る事ができた。が、このまま島に戻ろうとは思わない。とにかく都へは行ってみようと思っている。」
「そうか。なら僕も協力してあげよう。僕と一緒なら、色々な事がわかると思うよ。」
確かに彼は博識であり、ワゴンの中では道々この国の歴史について教えてくれた。
「表面だけ捉えてはいけないよ。そこに至った経緯、背景を知らないと正しくは理解できないからね。」
彼は口癖のようにそう繰り返していた。

 

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