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2015年2月 9日 (月)

鬼の嫁取り(1)

「何で俺たち鬼は退治されなきゃならないんだ?」
俺は島の財宝を盗みに来た、自称「勇者」様ご一行を追い返した後、長老に尋ねてみた。

「それは妬みじゃな。彼らに比べるとワシ等の身体能力は数段上をいっている。何かと理由を付けてはワシ等を排斥してきたんじゃ。」
「本当にそれだけの事なんですか?」
「彼等は力の強い者の庇護の元でしか生きられないんじゃ。だから、彼等の上にいる者は己が最強でいなければならない。それを知らしめる為にもワシ等は邪魔な存在なのじゃ。」
「なら、俺達が奴等を庇護してやれば良い!!」
「否。その手段は一度破綻し、封印されたのじゃ。お前も亞渡の都の話は聞いた事があるじゃろう?」
「そ、それは… だからといって、このまま虐げられているのは嫌です。」
「ならば、奴等の内に入って奴等がどう考えているかを見聞してきてはどうか?」
「この成りでは、どんな変装も役に立たないでしょう?」
俺は2mの身長と分厚い筋肉を纏った体、そして厳つい顔はどうにかできるものではないと改めて思っていた。

「ここに先史の秘薬がある。これを使えば奴等と同じ肉体に変わる。勿論、身体能力も奴等並みになってしまうがな♪」
「そんなモノがあるのですか?是非使わせてください。」
「これは一つの試練じゃ。志半ばで挫折した例も多くある。何より元の姿に戻る為には、もう一度この島に戻って来なければならないんじゃ。」
「試練ですか?」
「お主、あまり考えてなかろう?その体では島と陸は何度も往き来しているものな。じゃが、奴等の体ではなかなか難しいものなんじゃ。」
確かに、海底を歩いてでも陸まで行ける俺達と、潮の流れに逆らって船を漕いででしか島に渡れない奴等では比較にもならないだろう。
「一晩考えて、それでも行ってみたければ、明日の夜にここに来なさい。勿論しばらく島を離れる事を前提にな。」

 

 
こうして、俺は宵闇の海を渡っていった。
浜に上がり、持たされた水密箱を開けると、一番上に秘薬が載せられていた。
長老に言われた通り、松林の茂みの中に隠れると、一気に飲み下した。
その途端、全身を締め付けられるような痛みに襲われた。
鬼の耐力がなかったら、一瞬で気を失っていたか、最悪の場合、ショック死さえしかねない。

俺は痛みに耐え、自らの肉体の変化を見守った。
手足が小ぶりになってゆく。多分、身長もそれなりに低くなっているのだと思う。
筋肉が削げ落ち、柔らかな脂肪に被われてゆく。
筋肉の下にある骨達も長さ、太さともに縮退していた。
それは鬼の手が触れただけでポキンと折れそうなほどである。
剛毛は抜け、柔らかな産毛が生えていた。
頭の髪も生え代わり、ふさふさとした長い髪が肩に掛かっていた。
胸元に視線を落とす。視力も奴等並みになってしまったようで、暗がりでははっきりモノが見えない。
が、胸毛に被われていた俺の分厚い胸板がまったく別のモノに変わっているくらいには判別できた。
俺の胸には「女」のような乳房が二つ出来上がっていた。
手を伸ばし掴んでみる…指先からはフニフニとした官能的な感触が伝わり…俺の胸からは「掴まれている」という感覚が伝わってきていた。
(どういう事だ?俺は女になってしまったのか?)

 
「あがっ!!」
突然の痛みに呻き声をあげてしまった。
骨が変形した時は、まだ俺は「鬼」であった。頭の頂きから足の爪先まで、全身を苛む痛みさえ耐えられていた。
しかし、再び始まった内蔵の配置変えであろう。痛みは腹の中だけではあるが、既に「鬼」ではなくなった俺には耐えられるものではなくなっていた。

 

空は白み始めていた。
俺は松の茂みの中で意識を取り戻していた。
明るくなった中で、もう一度自らの姿を確認した。
俺はもう「鬼」ではなかった。しかし、単なる人間の姿への変身ではなかった。
変身後の姿は、人間の「女」となっていたのだ。
俺は股間に手を伸ばした。そこには「男」の証は存在せず、深い切れ込みがあった。
そこに指を這わし、内へと沈めてゆく。指は俺の胎の中にまで入っていった。
最後の内蔵の変化で、俺の腹の中には「女」の器官が出来上がっていったのだろう。

俺は長老から渡された水密箱の中を確認した。
そこには人間に変身した時のサイズに合わせた服が入っている筈であった。
俺はそれを手に取った。
それが女物の衣服であることはひと目で解る。
(つまり、長老は秘薬で変身した姿が「女」である事を知っていたという事か…)

しかし、今更長老に文句を言っても始まらないし、長老は海の向こうの「島」にいるのだ。
仕方なく、俺は女の服を着、折り畳んだ水密箱を肩に掛けて立ち上がった。

 

変身した事で背がかなり低くなっている。それも「女」という事で人間達の男よりも低いのは間違いない。
体力もほとんど無いに等しいのだろう。
これまで俺が相手してきたのは「勇者」を自称する輩であり、人間達の中でも腕っぷしの強い連中であったのだ。
この体では「何か」あった場合、これまでのように腕力で解決することなど端から無理であろう。
しかし、
(まあ、為るようなるだろう♪)
と楽観的になるしかなく、俺は浜から里の方に向かって歩きだしていた。

 

これまでも何度か陸に上がり、奴等の里に侵入した事もある。
とはいえ、その時は宵闇に紛れ、寝静まった里に侵入を試みただけである。
長老達大人からは「鬼」の姿は決して人間に見られてはならないと言われてきたからだ。
だが、今は女とはいえ鬼の姿ではない。
陽の照る下の街道を堂々と歩いていけるのだ。
夜目に見た景色には殆ど色が無かったが、昼間の陸は美しかった。
狭い島の中では広大に広がる田畑を見る事はできない。緑豊かに風に靡く様には感動を覚える。
遠くから、島では耳にしない鳥や虫の声が届いて来る。

しばらく行くと、前方から里の者が歩いてきた。
俺の姿を認めると、慌てたように駆け寄ってきた。
「娘さんよ。大事はなかったかね?ここいら辺は夜になると鬼がでる。食い殺されかねないぞ。」
「娘さん」と呼ばれ、それが「俺」の事であると認識するまでにしばらく時間が掛かった。
「な、何もなかったですけど…ここの鬼は人を食べるんですか?」
「何もなかったからといって、この先も独りで行かせる訳にもいくまい。腕っぷしの強い若い者を付けてやるから、一度里の方に寄りなさい。」
と、半ば強引に里に向かわされた。

道すがら、再び鬼について聞いてみると
「屈強な若者達が鬼退治に島に渡るが、一度として勝って帰って来た者はいない。そして、帰って来れぬ者も数知れぬ。中には鬼に食われて骨になって浜に打ち上げられてた者もいたんだな。」
と、そんな事が解った。
鬼が人を食わない事は鬼である俺自身が良く知っている。が、今は正体を明かすべきではないのだろう。俺は、
「それは恐ろしいですね。」
と彼等に迎合するような相槌をしておいた。
まあ、骨になって打ち上げられた輩は、途中で海に落ちて溺れ死んだ後に魚についばまれたという落ちなのであろう。

 
そのまま里に入り、明日までに付け人を選んでおくからと、その日は村長の家に泊まる事になった。
初めて「布団」に寝たが、なかなか気持ちが良かった。柔な人間にはこのような寝具が必要である事も理解できた。

人の気配で目が覚めた。
まだ日の出前ではあったが、既に里の人の一日は始まっていた。
俺も布団から抜け出すと「何か手伝う事はないか?」と訊いた。が、
「お客さんはゆっくりしてなさいな♪」
と部屋に押し戻された。

改めて部屋の中を確認すると、前面を布で被った鏡台があった。
布を捲ると鏡があった。
そこには見知らぬ女の顔が写っている…こ、これが「俺」か?
勿論、そこには「俺」の面影も「鬼」であった痕跡も残されていない。
愛くるしい顔は誰もが好感を寄せるであろう。
化粧はせずとも、肌は白く頬には赤み差し、熟れたような唇は紅色に染まっていた。

 

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