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2015年2月 9日 (月)

鬼の嫁取り(6)

俺達は再びワゴンの中にいた。
今度は賊の討伐隊を率いての行軍だった。行き先は辺境地帯…先ずは「鬼」逹との交渉に当たる。
「本当に鬼がいると信じているのか?」
と俺が聞くと
「彼等が伝承されている鬼の姿をしているかは問題ではないんだ。彼等にそのような伝承を生ませるだけの力がある事が重要なんだ。」
「姿は関係ない?」
「たとえば、君の住む島だ。度重なる海賊の襲来にも耐えて現在も存在を続けている。それはかなり例外的な事なんだ。だから、僕は最初に君の島を訪ねたいと思っている。」
そして彼はにっこりと笑い、
「勿論、君を嫁に迎えるにあたり、君の親御さん逹に正式にご挨拶する事の方が大事だけどね♪」

(親に…って…)
多分、俺のこの姿を知っているのは長老だけであろう。
はたして女の姿の俺を両親は受け入れてくれるのだろうか?
島に戻れば、俺は元の姿に戻れる。
が、俺は女のまま彼と伴にいたいと思っている。
(そんな事が許されるのだろうか…)

 

島の近くに到達した。
彼は仮設の基地を作らせ、軍隊をそこに落ち着かせた。
近隣の賊の情勢を確認するよう指示を出すと、彼は俺と数人の部下を率いて島に向かった。
港のある村で船を調達する。彼は即に乗り込み出港しようとした。
「待って。」
俺は彼等を止めた。
「今出ては潮目が良くない。出るなら明日の朝が良い。」
勿論、彼は俺の助言を全面的に受け入れた。
俺達はワゴンの中で一夜を明かす事にした。

「起きて…起きてください。」
俺は彼の耳元に囁いた。
「どうした?」
彼は即座に目を醒ました。
時刻を確認する。
日の出まではまだ、かなりの時間がある。
「船を出します。」
と彼に告げる。
「船長は?」と聞くが、彼は即に理解したようだ。
「あまり知られたくないのだな?」
俺はゆっくりと頷いた。
彼は配下の者を起こし、音をたてないようにして船に乗り込んだ。
舵は俺が握った。
彼を含め、男逹が櫂を漕ぐ。静かに…力強く。
港を出ると帆を張り推力を得る。
空が白み始めた。
俺は目を凝らし、陸の地形を確認した。
舵を切り、慎重に潮目に誘導してゆく。
「鬼」の体の時は難なくこなせたものが、ひとつひとつが苦労になる。
彼が傍らで補助してくれなければ、俺もまた海に沈んでいたかも知れない。

「あの島かい?」
岩礁を抜け、大きめの無人島を回り込むと、俺達の島が目の前に現れた。
「ほーっ、ほーっ!!」
岬に向かって声をあげた。本来の俺の声ではないが判ってくれると信じるしかない。
「符丁だな?岬にいる見張りにか?」
「ああ。これで不意打ちされる事はないと思う。」
実際には岬だけでなく、水中にいる連中への合図でもある。
俺が仲間だと認められなければ、知らぬうちに船底に大穴が開けられているだろう。

早速に連絡が届いたのであろう。港に数名の人影があった。
俺は彼等を知らなかった。彼等は「鬼」の姿をしていない。
俺を女に変えた秘薬を使ったのだと合点する。
船が桟橋につながれ、俺達は島に降り立った。
「よう戻ってきたな。知りたい事は解ったかな?」
好好爺した姿は多分長老だろう。
「いえ、まだまだ充分ではありません。それに、戻ってきたというよりは長老に彼を会わせたかったのだ。」
「ほう?♪」と長老。そして彼を見て
「話は館で良いかな?」
「はい。」と彼…

 

 
一同は長老の館にあった。
彼は自分の身分を明かし、長老に二つの願い事を告げた。
それは俺に言っていた事…賊の討伐への協力依頼と…俺を妻に迎えたい…との事だ。

「お前はどう思っているんだ?」
長老の問いかけは当然後者に関するものであるが…
「我々が彼等に協力するにあたっては、我々が協力している事を他の誰にも知られない事が大前提でしょう?」
「彼はお前の正体を知っているのか?」
「彼は我々の正体を正確に推測できていると思います。秘薬の存在を知らないので未だ確信に至っていませんが。」
「先ずはそっちからか?」
長老は諦めたように俺から視線を外し、彼に向かった。
「我々は正体を知られるべきではない。それは理解して欲しい。」
長老の視線は彼の瞳を貫いた。彼はそれを受け止め大きく頷いた。
「良いかな?」と長老は一同の同意を確認すると変身を解いた。
目の前に現れた「鬼」の姿にも彼は動じる事はなかった。
「ご協力感謝いたします。」
「我々は表に出る事はない。この娘をつなぎとしてあんたに預ける。それで良いな?」
「ありがとうございます。」
「お前も良いのだな?これから先は元に戻る事はできないぞ。」
と今度は俺を見据えた。
「はい。後悔はしません。」
俺はそう答えていた。

 

 

俺達は陸に戻った。
そして本格的に賊の討伐が始まった。
鬼逹は賊の拠点が判明すると、その退路を絶つように様々な細工を施す。彼の討伐隊が正面から突入する。
正規軍が相手では、賊にはもう何もする事ができない。
鬼の存在は完全に秘匿されているため、彼の成果のみが華々しく報じられる事になる。

一通りの成果が出た所で長老から彼に提案が出された。
それは島の近くの陸に新たな港町を作らないかと言うものだった。
彼の成果が上がるにつれ、討伐隊の規模も膨らんできた。
人が集まればそこに商機を見る商人が寄ってくる。
隊の基地もいつまでも「仮設」のままではいられなくなっていた。
彼は長老の提案に応じた。

 

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