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2014年12月21日 (日)

河童の池

河童が嫁さんを探していた。
勿論、別嬪で器量よしなど高望みは限りない。
さらに、己が河童であるので、水の中で生活できるのが大前提だ。

「河童は河童の嫁をとるのが一番だ。」
と長老に諭されるが、こいつは聞き耳を持っていない。
「ならば造るか?」と長老
「ヒトの玉と仙丹を捏ね、形を造り、己が肌でひと月温め続けるのだ。」
「それで出来るんですか?」
「捏ねている時、お前の唾液を混ぜ込めは、お前の言う事は全て聞くようになる。」
へへ~と有り難い仙丹を貰い受けた河童は、先ずヒトの「玉」を取ってくる事にした。

河童が取るヒトの玉と言えば「尻こ玉」と相場が決まっている。
が、こいつはどこをどう間違えたか「魂」を取ってくるものと思い込んでいた。

河童は村を出て、人間逹の多く住む「街」に出てきていた。
街はハロインとかで、河童の奇異な姿も見咎められる事はなかった。
河童は街で一番大きな病院に向かった。
予想通り、病院の周辺にはヒトの魂が集まっており、選り取りみどりであった。
その中でも一番活きの良い魂を選ぶと、ひったくるようにして持ち去っていった。

 

 

そこは森の中の深い池の中だった。
その河童はいつも池の一番深い所で、瞑想するかのように静かに暮らしていた。
「お前はもう要らん。」
と河童は言った。
「捨てられるの?どうして?」
と聞くと
「飽きたからだよ。それから、もう俺の近くには近づくなよな。」
彼の命令には逆らえない。後ろ髪を引かれつつも池の底から離れていった。

自分は何者なのだろう?
気が付いた時には「河童の嫁」として、この池の底にいた。
しかし、自分は河童ではない。だから、彼の「嫁」になれる訳もない。
しかし、彼の命令には逆らう事はできない。いや、嬉々として彼の言うことに従っていた。
自分は何者なのだろう。
その姿は絵本にあった「人魚姫」にそっくりである。が、この姿が本来の自分の姿ではない事は知っていた。
水面に近づくにつれ、あやふやだった昔の記憶が蘇ってくる。
そうだ。俺は人間だったのだ。
街で暮らしていた。
二本の足で立ち、服を着て生活していた。
何より、俺は「男」だったのだ。

 
その俺が女のように河童に奉仕していた!?
いや、この姿は半分は「女」である。奴を受け入れることのできる肉体であり、実際に奴に貫かれ、歓喜に悶えていたのは事実である。

そしてもう半分は魚の尾ひれになっている。
このままでは陸に上がれない。
童話では美声と引き換えに魔女から人間になる薬をもらったのだが、この場に魔女はいない…

「長老ならおるがな♪」
振り向くとそこに老河童がいた。
「あいつめ、尻こ玉ではなく魂を取ってきてしまったようだな。」
「魂…って。俺、死んじゃったんですか?」
「まだ微かに魂の糸が繋がっているようにも見える。お前さんが自分の肉体に戻れば生き返る事はかのうだろう。」
「本当ですか?」
「じゃが、この糸はいつ切れてもおかしくはないな。戻るんなら急いだ方が良い。」
「急ぎたいのは山々なんですが、今の俺には足がないんです。長老さんが魔法とかでなんとかできませんか?」
「わしには魔法とやらは使えん。じゃが、お主は尻こ玉ではなく魂から造られている。特別な力を持ってる筈じゃ。試しに、足になるように念じてみ?」
「念じるんですか?」
俺は長老に言われたように、尾ひれが足に変わるよう念じてみた。
すると、尾ひれから鱗が消えて行き、二股に分かれた。上半身と同じ肌の色に染まり、形良く引き締まっていった。
膝やくるぶしが確認できた。筋肉の下にはしっかりとした骨の存在が窺える。
足先には5本づつ、指が形作られている。綺麗に切り揃えられた爪もできていた。
俺は膝を立て、足に力を入れてみた。足はちゃんと体重を支えてくれそうだった。
立ち上がると、俺は全身に重力を感じた。特に、胸からはこれまで感じたことのない異質の質量の存在が伝わってきた。
「もしかして、男に戻るのも可能なのか?」
「ああ、不可能ではない。じゃが、止めておいた方が良いぞ。今の能力で糸が大分弱まってしまっている。」
「わかった。とりあえず、これで陸を歩ける。助かったよ。」

「まだじゃ!!」
と長老。
「何ですか?」
「お前さん、その格好のまま街に行くつもりかね?若い女子が真っ裸で街をあるけばどうなるか解らないでもあるまい?」
「えっ、あっ、嫌っ!!」
俺は無意識に胸を隠してしゃがみ込んでしまった。
「若いのに何か取りに行かせるからしばらく待ってなさい♪」

 

俺は用意された女物の服(当然下着もだ)を着て街に向かった。
これらの服をどこから調達してきたのかは聞かぬが華であろう。
とはいえ、今の俺は無一文である。電車やバスは使えない。
ヒッチハイクも考えたが、「女」としての対価を期待されるリスクを考えると、歩き続けるしかないのだろう。
幸いにも、この肉体は造られたものである。疲れることもなく、飲食も不要であった。
(試しに呼吸を止めてみたが、窒息することもなかった)
昼も夜も歩き続けて、俺は見知った街の景色を見る事ができた。

俺のいた病院に向かう。
俺な復活した記憶では、俺は怪我や病気で入院していた訳ではなかった。
腹痛で外来に来た友人の付き添いだったのだ。健康そのものだった俺が何で生死の際にいなければならないのだろうか?
憤りを覚えつつも、俺はその病院に入った。
俺の名前を言い、病室の場所を訊いた。
「ご関係は?」
と訊かれ、流石に「本人です」とは言えず「恋人です」と言ってやった。
怪訝な顔をされたので「遠距離恋愛で、ようやくこちらに来ることができたんです。」と言ってやった。
入館記録に適当に女の名前を書き、教えてもらった病室に向かった。

 

そこには点滴につながれた「俺」がいた。
生命力が尽きかけているのだろう、頬は痩け、皮膚は土気色。皮下脂肪が失われ、張りの失われた「俺の皮」が骸骨にまとわりついている風であった。

「さてと。どうすれば俺はこの肉体にもどれるだろうか?」
尾ひれを足に変えた能力を使えば簡単なのだろうが、長老が言っていたリスクがある。
能力を使っている間に「俺」が死んでしまえば元もこもない。
先ずはオーソドックスにキスでもしてみるか♪

 
俺は「俺」の顔を覗き込んだ。
(俺の顔ってこんな風に見えるんだ…)
鏡やビデオで自分の顔を見た事はあるが、全ては二次元の映像である。
このように立体として自分の顔を見るなどという経験は、そうそうあるものではない。
その「俺」の顔が近付いて来る。
(近付けているのは俺自身なのだが…)
唇が触れるまであと少し…

そして触れた。

俺の魂がこの肉体から「俺」自身に戻れることを願って、息を吹き込む…

意識が飛んでいくようだ。

 

目を開いた…
俺はベッドに寝かされていた。
そこが病室である事は即に解った。問題は「俺」がどうなったか…である。
手を胸に伸ばした。
そこには平な胸があった。
(股間は?)
胸に当てた手を下に下ろす。

それは「俺」の肉体だった。
俺は自分の身体に戻っていた♪
枕元には人魚の人形が転がっていた。
これがさっきまでの「俺」だったのだ。
愛しさというものだろうか?俺は人魚の人形を手に取ると、その唇に俺の唇を合わせた…

再び意識が遠くなる…

 

俺は床の上に転がされていた。
慌てて起き上がろうとするが巧くいかない。
その理由は…
俺の下半身が尾ひれに変わっていたのだ。
俺は再び人魚に戻っていたのだ。立ち上がれないのは当然である。

…見ると、辺りには俺が着てきた女物の服が散らばっている。今の俺は全裸だった。
慌てて服を集めるが、上半身はなんとかなっても、ショーツとかの下半身部分を着る事ができない。
(能力を使って足に戻せば良いじゃないか♪)
俺は慌てていて、そんな事に気付くのにも時間が掛かってしまった。
が、ショーツを穿き終え、スカートを直していると、どたどたと急いでこちらに向かって来る足音が聞こえた。
ドアが開く。
「処置をしますので退室願います。」
と目の前でカーテンが閉じられた。
「患者さんの容態が急変しています。医師を呼んでください。」
カーテンの向こう側で館内通話のやりとりが続く。
今はもう一度「俺」に触れる事は叶いそうにない。
俺は「俺」のいる病院を後にした。

 
「俺」の容態が急変したのが俺の所為である事は容易に想像がついた。
能力を使ったからだ。
が、人魚の姿のままあの場所に居る事もできない事は確かであった。
そして、あの場所から離れるには、どうしても「足」は必要である。
俺の選択に誤りはあったのだろうか?

答えの出ない命題に頭が振り回されていたが、俺はこれからどうすれば良いのだろうか?
幸いと言うか…この肉体は飲食は不要である。寝る必要もない。
が、街中を彷徨き続けていれば、いずれ不審者として問い質される事は間違いない。
今の俺はこの世界に存在しない人間なのだ。他人と関わる事はできるだけ避けたい。
とにかく、夜に身を隠せる場所が必要である。

先ず頭に浮かんだのは「俺」の部屋である。
流石に「俺」が入院している間に処分されている事はないだろう。
鍵はいざという場合に備えて合鍵を郵便受けの中にガムテープで止めてあるのだ。
辺りに誰もいないのを見て、合鍵を取りだして俺は俺の部屋に入った。

多分本来の俺より身長が低い所為なのだろう。いつも見ていた「自分」の部屋とは違って見えた。
それ以上に気になったのは「臭い」だった。
臭くて耐えられないというようなものではなかったが「男」の臭いが充満していた。
その臭いはベッドからのものが最も強かった。
俺は臭いに引き寄せられるようにベッドに向かい、そのままうつ伏せに布団の上に倒れ込んでいた。

俺は「俺」の臭いに包まれていた。
「俺」自身に抱かれているように錯覚してしまう。
俺の女の肉体が反応する…ジンと下腹部の奥で子宮が疼きをあげる。
乳首が勃起していた。
股間が潤み始めていた。
俺は「俺」自身に欲情しているというのだろうか?
俺は肉体の欲求に抗うことができず、自らの指を股間に挿し込み慰めていた。

 

気が付くと、俺は部屋の中に浮かんでいた。
つまり、魂だけの状態になっていたのだ。
「俺」と接触した事で魂が分離し易くなったのではないのだろうか?

ベッドを見下ろすと人魚の人形が転がっていた。
再び人魚の肉体に戻った場合、尾ひれを足に戻すのに能力を使う事になる。
今の「俺」には耐えられない筈だ。

となれば、病院に戻り「俺」の内に入れないかを確認するのが一番であろう。
はたして…

 

俺は病院のベッドの上で目覚めた。
体力の回復と様々な精密検査の後、俺はようやく病院から解放された。

俺は俺の部屋に帰ってきた。
俺が別の肉体で体験してきた事が、全て夢の中の事であったかのように思えていた。
が、部屋は確かに俺の部屋であり、一部を除いて俺が病院に行った日のまま残されていた。
違うのは…

床に散らばった女物の衣服。
そして、ベッドの上には人魚の人形が転がっていた。


全ては夢ではなかったのだ。
つまり、もう一度この人形と唇を合わせれば、俺は人魚になる…という事か?

誘惑に駆られる。
今は十分に体力は回復している。一回くらい能力を使っても問題はないに違いない。
(何の為に?)
それは理性の声なのだろうか?
(お前は女になる事を望むのか?)
いや、「男」としての俺を亡きものにしてこの先一生を女として過ごす気など、さらさらない。
それは「好奇心」だ。
元に戻れる保証があればこそ、もう一度「女の快感」に身を委ねてみたいと思う。
「男」の俺自身の肉体を味わってみたいと思う…

俺はベッドの端に腰掛け、人形を手に取った。
唇を合わせると魂が人形に吸い取られてゆく。
気が付くと俺はベッドの上で「男」の隣に寝ていた。
男は「俺」である。
「良いよね?」と、俺は男の服を脱がせてゆく。
トランクスを外すと萎えたペニスが現れる。
俺の…女の指に絡まれると、どくりと血流が活発化するのがわかった。
肉体の意思に関係なく、ペニスが勃起してゆく。
俺はそれを口に咥え、更に大きく、硬くしてやった。

俺の「女性自身」も受け入れ準備ができている。
熱く潤った膣口がヒクヒクとそれを待ち望んでいた。

俺は上体を起こし、能力を使って尾ひれを足に変えると「俺」の上に跨がった。
ペニスの先端が膣口に触れると、俺はゆっくりと腰を沈めていった。
俺の膣に俺のペニスが侵入してきた。
俺は俺自身を異物として感じていた。
しかし、異物の方が感じる…俺は今「男」に貫かれていた♪

 

俺の精液が俺の膣を満たしていた。
最初の絶頂を迎えたことで、少し心に余裕ができていた。
「俺」の顔を見た。
予想以上に衰弱が激しかった。
どうしよう…
(お前はどうしたい?まだまだ女の快感を享受したいのだろう?)
確かに、一度ではもの足りない。
(男の肉体を捨てる覚悟があれば、好きなだけその快感に浸れるぞ♪)
その提案は魅力的である。それに、この肉体は死ぬ事がない…
だが…
「俺」は死ぬ事になる。
俺はこの世に存在しない存在となる。
また、この肉体も人外のものである。
(良いではないか♪永遠にその肉体で快楽を享受できるぞ♪)
否。それはもう「俺」ではない。俺は俺である事を辞めない!!

俺は俺の魂を「俺」に吹き込んだ。

 

 

 

俺はようやくカッパの里を探しだした。
紙袋には俺が着てきた女の服の一式が入っていた。
勿論、「河童を見た」などという証言などない。
が、それだけ巧妙に隠れているからこそ、河童達はここに棲めるのだろう。
池を囲むこの森の景色は、俺の記憶と寸分の違いもないのだ。

俺は池のほとりの社の脇に紙袋を置き、ショルダーバックからタオルにくるんだ人魚の人形を取り出した。
(世話になったな♪)
俺は社に置いた人形に、そう声を掛けると河童の里を後にした。

 

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