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2014年10月 5日 (日)

セイカンスプレー

『セイカンスプレー』
読みは同じでも、一般的な『制汗スプレー』とは効果は全く異なっていた。

『制漢スプレー』

『漢』を『抑制』する…
痴漢や悪漢を寄せ付けないものだと思いがちだが、痴漢・悪漢と、あまり良くないイメージがあるのだが、漢はオトコ=男性を示す文字でもある。
まあ、男が近寄れなければ、世の女性が痴漢や悪漢に襲われる可能性は極端に低くなるのだから、あながち間違った解釈ではないとも言える。
が、これを男性が使用した場合、その効果には劇的なものがあった。
男性が「男を寄せ付けなくする」と言っても、その本人もまた「男」なのである。制漢スプレーを吹き付けると、その箇所から男性性が失われてしまうのだ。
つまり、腕や足に吹き付ければ濃い体毛や脛毛が消失し、胸に吹き付ければ乳房が膨らみ乳首が飛び出る。
そして、股間に吹き付けるとペニスが消失して割れ目が生まれ、お○んこが出来上がるのだ。
つまり、全身に吹き付けてしまうと、その男は「男」ではなくなり「女」になってしまうのだ…

 

そんな事も知らずに、あまりの暑さにコンビニに飛び込んだオレは『セイカンスプレー』を買い、外に出るとキャップを外して首の回りに吹き付けた。
ひんやりとした感覚が首のまわりから全身に広がってゆく。
「ふ~う♪」
と一息吐いた…

(?)

何か喉の調子がおかしいのか?別に痛みとかはないのだが、出てきた声が、裏返っている訳でもないのだが、妙に高く感じていた。
実際、スプレーを吹き付けたオレの喉からは、男性特有の出っ張り=喉仏が消えていたのだ。
同時に声帯も女性のように短くなり、女のような声しか出せなくなっていたのだ。

その時のオレは(夏風邪でもひいたか?)ぐらいにしか思っていなかったのだ。
「風邪をひいたみたいで喉の調子がおかしいんだ。」
と周囲に言い訳していた。

 

一仕事終えて、再び灼熱地獄に踏み出す事になった。
下着が汗でぐっしょりと濡れてしまいそうだ。流石にパンツの中にまでは手出しできないが、周りから死角になる場所を見つけてカバンの中から『セイカンスプレー』を取り出し、ワイシャツのボタンを外して下着にしているティーシャツの中に吹き込んでいた。
背中、胸、腹、脇の下にまんべんなく吹き付けると、上半身の全体が気持ち良くなった。

しかし、ここは死角ではあっても往来の只中である。いつ、だれに下着姿を見られるかわからない。
ボクは恥ずかしさにしゃがみ込みたくなるのを我慢して、シャツのボタンを止めていった。
が、どこか違和感があった。指が巧く動いてくれない。
(ボタンの左右が逆なら楽に嵌められるのに…)
男と女ではボタンが左右逆に付いていると言う知識はあった。が、ボクが着ているのは男物のワイシャツである。ボタンはいつもと同じ側に付いている…
(いつも…って、ボクは男物を着ていたっけ?)
ボクは急に男物を着ている事に不快感を感じた。いや、服だけではない。「男」そのものが怖くなっていたのだ。
男性に接触したり近づく事はおろか、男性が持っている物にも触れたくなくなっていた。

(着替えなきゃ!!)

ボクは近くにあったユニク○に飛び込むと、下着から一式の女物の衣服を買っていた。
あまり奇異にみられなかったのは、ボクの胸が膨らんでいて、男物を着ていても「女」に見られたからだろう。

トイレに飛び込み、下着から全てを着替えてみた。
が、股間はもっこりと盛り上がり、足には脛毛が密生している。

(嫌!!何なのよコレは(T_T))

その頃にはボクも『セイカンスプレー』の効能を理解し始めている。思い切ってショーツの中に吹き付けてみた。
股間は平らに…更に縦の筋まで入ってきた。
足に吹き付けると脛毛が綺麗に無くなっていた。更に腕や頭と、これまで吹き付けていなかった場所にもまんべんなく吹き付けてしまった。

アタシの姿はどこから見ても「女」だった。

 

 

ふと、足元を見た…
膝丈のスカートの下にはストッキングに包まれた脚…その下方、地面に接する箇所で靴を履いている。
それは男物の革靴だった。
(いつまでこんなの履いているのよ!!)
アタシは革靴を脱ぎ捨てた。
…が、替わりに履く物は何も用意していなかった。
アタシはさっきまで着ていた物をユニク○の袋に詰め込み、近くのごみ箱に捨てると、はだしのまま、近くの靴屋に入った。
サンダルを買い、そのまま履いて店を出た。

アタシはようやく「男」から離れる事ができてほっとした。

スプレーの効果か、男がアタシに近づく事はない。歩道を向かい側から歩いて来る男がいても、彼は脇に避けてアタシに路を譲ってくれる。
電車では女性専用車両でゆったりと電車に揺られ、アタシは家路についた。

 

 
部屋のドアを開けると、むっとした「男」の臭いに襲われた。
(何で?!)
と思うと同時に、アタシは自分が「男」であった事を思い出した。
(アタシの部屋なんだから入らない訳にはいかないわよね…)
意を決して乗り込むと、即座に窓を全快して空気を入れ換えた。
(これが効果があるかわからないけど…)
と、アタシは『セイカンスプレー』を中身が無くなるまで部屋の中に撒き散らした。

 

臭いは収まったが、男の物が女の物に変わる筈もない。
(スプレーなくなっちゃった…)
アタシはため息と共に部屋の真ん中に座り込んでしまっていた。

が、いつまでもそうしている訳にもいかない。アタシは気分転換も兼ねてシャワーを浴びる事にした。
全裸になり、シャワーの湯滴に打たれていると、スプレーの成分が流されていったのか、次第にオレ本来の肉体と意識が戻ってきた。
胸は平らになり、股間にはペニスが戻っていた。
「あ、ああーっ」
オレの喉からは野太い男の声を出すことができた。

 

オレは風呂場から出てきたが、部屋の中に撒いたスプレーはまだ効果を持続していたようだ。
(この部屋に「男」が居てはいけない!!)
脅迫観念のようなものに教われる。
(一刻も早く出ていかなければ…)
オレの目の前には、さっきまで着ていた女物の服があった。
(着替えなど用意している暇などない!!)
オレはもう一度ソレを着て、踵の高いサンダルを履き、部屋の外に出ていた。

 

オレは部屋に戻ることもできず、とぼとぼと薄暗い夜道を歩いていた。
道端に『痴漢に注意』と看板が立っていた。
今のオレは女物の服を着ている…こんな暗がりでは、オレは「女」に間違えられるに違いない。
勿論、今のオレにスプレーの効果はない。痴漢に襲われる可能性も否定できない…

 
背後から「男」の靴音が近づいて来た?!

 
近くにコンビニの灯りが見えた。
オレは駆け込んでいった。
アタシは『制漢スプレー』を買うと、所構わず全身に吹き付けていた。

 

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