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2014年6月19日 (木)

荒野(1/4)

雲が流れて行く…

 

その先に何があるか?なんて、誰がわかるだろうか?
それでも、俺は歩き続けていた。

 

大きな戦争が終わって2年が過ぎていた。
世界の大半は荒涼としていたが、1年も経てばそこここに草木が芽吹きだしていた。
いずれは動物逹も戻って来るのだろうが、今ここで地表を動いているのは俺一人しかいないであろう。

いや、俺自身を「一人」と数えて良いものなのだろうか?
戦地で重症を負った俺は、軍の科学チームに良いようにその肉体を弄ばれてきたのだ。
今、俺の肉体に俺本来の血肉は一片も残ってはいなかった。
工場で組み立てられた骨格。人工的に合成された筋肉や皮膚。内蔵はこれらの人工物を稼働し機能を維持させるための機関に置き換わっていた。
脳にしても、生身の部分は何もない。「俺」の記憶と意識を刻み込んだ鉱物の塊に置き換わっている。

もはや「俺」は人間ではなかった。
だから、人間が生きて存在できない大地の上でさえ「俺」は動いていられるのだ。
勿論、飲み食いの必要もない。本来の心臓の所にあるモーターがエネルギーを生み出し、胃のあった場所に溜め込んで行くのだ。
フルパワーで活動すると、溜め込んだエネルギーを使い果たしてしまうので、再びエネルギーが溜まるまで活動が停止してしまうというおまけが付いている。(が、その機能のおかげで俺は人間並みの質量を実現できているのだ。)

俺の見た目は「人間」そのものだ。
勿論(と言って良いか?)、容姿は本来の「俺」とは全くの別物となっていた。
身長こそ変わらないものの、体重は半減している。つまり、手足は折れそうな程細く、腰まわりは蜜蜂と同じようだ。
…それは、一言で言えば「モデル体型」だ。無論、男性モデルではなく、女性モデルのそれである。

今の「俺」の姿は、どこから見ても「女」であった。
当初は敵方の高官を暗殺する事を目的としていたのだろうが、戦局は大きく変容し、どのくらいの開発費用が掛かったか知らないが、俺は慰安婦として最前線に送り込まれたのだ。
疲れを知らない人工の肉体。妊娠も性病も心配する事がない。そしてモデル並みの肢体と容貌…
俺は毎夜どころか、四六時中、兵士逹の相手をさせられていた。
俺の肉体には「安全装置」が組み込まれており、彼らに危害を加える事も、彼らから逃げ出す事もできないようになっていた。
彼らに命じられるまま、俺は奉仕するしかなかった。
また、喋る言葉も人工の声帯が艶のある女声を作りだす。そして、俺の言葉は強制的に女言葉に変換されてしまうのだ。

彼らは俺が男であった事など思いも依らずに、快感とともに俺の膣に精液を吐き出していった。

 

部隊が孤立してしまった事は最期まで知らさなかったようだ。
野営地の上を苦もなく敵の爆撃機が通り過ぎてゆく。
勿論その跡には爆弾の雨が降る。
あたりが土煙に覆われ、兵士逹が次々に倒れてゆく。
野営地一帯の酸素濃度が急激に低下していった。酸素が無ければ「人間」は生きていけない。

…沈黙が訪れていた。
部隊は全滅し、動くものは皆無だった。
見捨てられた部隊に救援など望める由もない。敵側とて、無力化された部隊にかまける余裕もない。
酸素濃度が自然回復したとて、この地に人が訪れることは当分ないであろう。

俺は軍人としての責務として、部隊の状況を報告しなければならないと感じていた。
近隣の部隊も、ここと同様な状況であることは容易に想像がついた。
俺は瓦礫を掻き分け、本国への帰途についた。

 

エンジンの掛かる乗り物を見つけては失敬し、燃料が尽きた所で乗り捨てる。
乗り物が見つからなければ本国の方向に向かって歩いてゆく。橋のない川は泳いで渡り、再び乗り物に出会うまで歩き続ける。
歩くだけであれば、俺の肉体が疲れる事はない。走ってまで急ぐ必要もないだろう。

大地はどこも荒廃していた。
軍の施設があったあたりは、放射線やガスが立ち込め、生命反応を確認するまでもなかった。

歩き始めて数週間が過ぎていた。
奇跡的に通信施設がかなり原型を止めて残っていた。勿論、施設の要員はみな腐敗した死体と化していた。
コンソールに座り、モニタを確認した。メールボックスは、助けを求めるメッセージで埋まっていた。俺は重要と思われる情報を漁った。
そして…
戦争が3日前に終結した事が判った。
既に、本国にも敵国にも、戦闘可能な兵士は殆ど残っておらず、ここ暫くは戦闘らしい戦闘は行われていなかったようだ。
双方手詰まりの中、開戦の口実もうやむやになり、仕方なくの終戦となったようだ。
(戦争が終わった今、俺が戻ったとして何になるのだろう?)
軍は既に崩壊している。俺は軍人としての責務から解放されているのだ。

今の俺に残されているのは科学チームから与えられた「女」の肉体と、従軍慰安婦として学習した「男」を悦ばせるテクニックである。
本国に戻ったとしても、奉仕する兵士はいない。だとすれば、他の場所に俺が奉仕すべき「男」を探せば良い♪
俺はモニタに向き直ると、助けを求めてきたメッセージを分析した。

 
西の山岳地帯にシェルターに避難した人逹がいた。生存している可能性が高い。
その他にも数ヵ所の候補を記憶し、俺は西に向かっていった。

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