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2014年6月19日 (木)

記念の…

「この『皮』は私です。記念にもらってください。」
そう言って、彼女は去っていった。もう二度とこの「姿」で僕と会うことはないという意思表示なのだろう。

彼女は何枚も『皮』を持っているらしい。恋人が変わる度に携帯を変えるみたいに、その「姿」を変えているらしい。
「らしい」としか言えないが、彼女の事を本当に知っている者は誰もいないのだ。
唯一、僕の手元に残された『皮』が、彼女が『皮』の常用者であった証となっている。

 

『皮』は都市伝説みたいなもので、僕も本物を見たのはこれが初めてだった。
『皮』はヒトの姿をコピーしたもので、『皮』を着ればその人に成りきる事が可能だそうだ。
どのようにして『皮』が作られるか知らないが、『皮』は魔法のように、着る者の身長・体重を無視して『皮』の方に合わせてしまうのだ。

だから、別の『皮』を着た彼女に再会しても、僕は決して彼女であるとわかる事はないのだ。
僕はもう、二度と彼女に会う事はできない…

 

いや、彼女の「姿」に会う事は可能だ。なぜなら、彼女の『皮』が僕の手元にあるから…
だが、この『皮』を着て彼女の代わりをしてくれと言っても、引き受けてくれる娘なんている訳もない。
金を払って「仕事」としてならやる娘もいるかも知れない。がいくら払えば良いのだろうか?
それ以前に、そんな事をしてまで彼女に会いたいと思っているのだろうか?

是!!

僕は彼女の笑顔に、幾度となく癒されてきたのだ。「彼女」の笑顔であれば、中身がどうであろうと…
そう、中身に拘る必要などないのだ!!
僕がこの『皮』を着て鏡の前に立てば、いつでも「彼女」がそこにいるのだ♪

僕は早速、服を脱いで全裸になると、彼女の『皮』に手足を通した。
頭を被り、目鼻の位置の調整が終わると、『皮』がぎゅっと締めつけてきた。
みるみる視点が低くなってゆく。背が縮んでいるのだ。
手足が細くなり、ウエストが引き締まる。余った分なのか、胸に肉が集まり、二つの膨らみができる。その質量を実感できた。
鏡を見ると、そこに全裸の彼女がいた。頬を紅潮させ、全身に汗をかいている…かなり艶かしい。
僕としては、ノーマルな彼女の笑顔に癒されたいのだ。その為には「全裸」ではだめだ。何か着るものは…

(そうだ)
彼女はいざという時の為に、僕の部屋に着替えを置いていたのを思いだした。
確かに彼女の服が下着から一式が揃っていた。
僕は彼女の服を身に着けていった。今の僕は彼女の『皮』を着ているので、当然だが、サイズはぴたりと合っていた。

服を着て、鏡を覗いた。が…どこか違う。
それが化粧であることに気づいた。
彼女は服と一緒に化粧ポーチも置いていた。中から口紅を取り出して塗ってみた。
…多少は近付いたが、やはり本格的にやらないと駄目なのだろう…
僕は化粧ポーチの中を全て確認してみた。下地クリームやアイシャドウ、マスカラなどもあった。
彼女の顔を思いだし、クリームで一旦のっぺりとした顔に、眉や目の周りを描いていった。
多分慣れれば、もっと早く、もって綺麗に出来るであろうが、初めての「お化粧」ではあったが、何とか彼女の顔に近付いたようだ。

 
ふと気付くと外は大分暗くなっていた。
何も食べていなかった事に気付くと、無性にお腹が空いてきた。
元々自分では料理しないのだ。冷蔵庫にある食材は、彼女が料理する際に買ってきたものだ。彼女なら余り物でもパパッと何か作ってくれると思うが、僕にはそれはできない。
結局、外に食べに行くしかない。が、折角化粧までして「彼女」になったのだ。
食事の為だけに『皮』を脱ぐのも勿体ない気がした。ここには彼女の靴もバックもある。
このまま外に出て不味いことは何もないだろう…

 

 
近くの洋食屋でパスタを食べた。ここの店員は顔見知りだったので、彼女がいつも注文しているのにした。
『皮』の所為で味覚も変わってるのだろうか、以前味見させてもらったときはそう美味しいとは思わなかったが、今日はツボに入ったかのように美味しかった。

即に帰る気分ではなかったので、僕は商店街をプラプラと歩いていた。
何故か視線はショーウィンドウに飾られたドレスに引かれてしまう。彼女が着たら…というよりは、「彼女」になった今の自分が着たら可愛く見えるかな?などと考えてしまう…

「やぁ、『皮』を使ったんだね♪」
突然、背後の頭上から男の声がした。
振り返ると、そこに「僕」がいた。
「似合ってるね。可愛いよ♪」
彼の「可愛い」っていう言葉に、何故かキュンとなる。
彼は僕の『皮』を着た彼女に間違いはない筈だが、本来の「僕」より数段カッコ良く見える。
「あんたはオシが弱かったからね。その分、女の子になると可愛さが増すみたいだね♪」
僕は何と答えて良いかわからなかった。
「良かったら、このまま付き合わない?」
などと言ってくる。
「もう会わないって言ってなかった?」
と聞くと、
「君が男のままだったらね♪こんなに可愛い女の子なら話は別だよ。」
と言ってくる。僕はそのまま、流されるように彼と一緒にいた。

 

 
ホテルの一室で、僕は彼女の手で服を脱がされていた。
部屋に入るなり彼女は服と一緒に「僕」の『皮』も脱いでいた。
「いきなり男とスルのは勇気が要るでしょ?」
と全裸の彼女に抱き締められた。彼女の手で首筋が撫でられると、全身が痺れたようになる。
「この体、気持ち良いでしょ?」
この『皮』は元々彼女のものなのだ。どこを責めれば感じるかを一番知っているのだ。
「さあ、貴女の啼き声を聞かせて頂戴♪」
僕は彼女に良いように弄ばれた。
否!!「彼女」だけではない。
再び『皮』を着た彼女=彼にも弄ばれる。
僕は「女」として男性に貫かれ…快感に酔い痴れてしまっていた。

 
「また抱いて欲しくなったら連絡してきな。いつでも相手してやるよ♪」
そう言って、僕はホテルのベッドに独り残されていた。
僕が彼を呼び出さなければ、彼は僕以外の女の相手をするのだろう。その時事を考えると、僕の内に嫉妬心のようなものが芽生える。
僕が「僕」に戻れば、嫉妬に心を掻き乱されることはないだろう。

でも、僕はもうこの『皮』を脱ぐ事はないと思う。

毛布の下で、僕は自らの股間に手を伸ばしていた。
そこはまだ、しっとりと濡れていた…

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