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2014年1月28日 (火)

秘湯(2/4)

それは数年前に遡る。
「あなたの望みを叶えます。白湯に浸かって心身ともにリフレッシュしてみませんか?」
そんな文句が書かれたチラシが俺の手元に舞い込んでいた。
仕事、人間関係…様々な面から打ちのめされていたときだった。
決定打は、学生時代から付き合っていた彼女から「別れる」と言い渡されたのだ。

その日は金曜日。月曜は祝日で3連休となっていた。
俺はバイクに跨がると、夜の闇の中を突き進んでいた。

真新しい道路が、その温泉地にまで繋がっていた。
駐車場には数台の車が止まっていた。
まだ昼前であった。
辺りには観光案内の看板もない。
目に見える建物は温泉宿の一軒のみ…
(つまり、ここは本当に温泉に浸かるためだけに在るのか?)
俺はチラシを手に宿の入り口を潜った。
「すみません。突然ですみませんが、今夜宿泊できますか?」
俺はそこにいた、従業員と思われる着物を着た中年女性に声を掛けてみた。
「あ、お泊まりですね。少々お待ちください。」
彼女は番頭さ~ん♪と担当者を呼びに行った。
「ようこそいらっしゃいませ。」
と奥から出てきた老人は俺の手元を見た。
「そのチラシが届いたのですね。ならば、離れのお部屋が良いでしょう。こちらへどうぞ。」
と渡り廊下を伝って、一番端の部屋に俺を連れてきた。
「普通の温泉は母屋の脇になりますが、この先の裏木戸から出て暫く行った所に癒しの秘湯があります。後程私がご案内に伺いますので、浴衣に着替えてお寛ぎください。」

部屋は落ち着いた感じ…を通り越し、かなりくたびれた感じがしていた。
(秘湯かぁ…)
好奇心に駆られ、俺は番頭さんの案内を待たずに、下駄を履いて裏木戸から出て行った。
石畳の道が続いていたが、途中に脇道があった。
石畳はないが、秘湯の雰囲気が漂っていた。

その先に小屋があり、脱衣所になっていた。
(男湯・女湯の区別がないようだが、客の数を考えると、他に浸かりに来る訳ないな。)
と、早速裸になり、手拭い一枚を持って湯のありそうな方に向かっていった。
そして、洞窟の中の白湯を湛えた泉を発見した。
手桶も用意されている事から、これが目的の秘湯に違いないと確信した。

どんな効能があるかを聞き損ねたが、湯に浸かっているだけでリラックスできた。
抱えていた難問が、今なら解けそうな気がする。
ゆったりとした気分が、他人の些細な一言も気に止める必要などなかったんだと気付かせてくれた。
そして、別れた彼女の事…
女にしてみれば、仕事仕事でほとんど構ってくれない男から興味が失われていくのは当然だったのだろう。
一緒にいても、頭の中の半分以上は仕事の事を考えていたのではないのか?
彼女の目からは、どのように俺が写っていたのだろうか?
彼女は俺にどうして欲しかったのだろう…

湯船に浸かり、瞼を閉じていると、瞼の裏に男の姿が映っていた。
男は「俺」だった。
俺は彼女の視点で「俺」を見ていた。
「俺」が俺だけを見ていた。
ドキリと胸の鼓動が高まる。
俺はこんな風に彼女を見てあげていただろうか?
「愛してるよ♪」
その一言だけで頭の中が幸福感に満たされる。
彼が俺を抱き締める。
見上げるとそこに彼の顔がある。
俺がゆっくりと瞼を閉じると、唇が吸われた…

彼の手が俺の胸を揉みあげる。
今の俺は彼に抱かれる「女」であった。
膨らんだ胸の先では乳首が硬く尖っていた。
揉み上げる彼の手の指が乳首を摘まむ。
「ぁあん♪」
俺は快感に甘声をあげていた。
下腹部が熱くなる。
今の俺は「女」なのだから、その肉体には子宮も膣もある。
キュン♪と子宮が震えていた。
熱くなった膣からは愛液が溢れ、股間を濡らす…
彼の手の片方が股間に伸びてゆく。
「ああんっ!!」
割れ目に這わされた彼の指が敏感なクリに触れていた。
ぬっ…と彼の指が膣に入る。
そして…指だけで俺はイかされていた…

 

 
気が付くと、俺は白湯に浸かっていただけだった。
時計をもってきていなかったので、どれくらいの時間が経過していたか計ることはできなかったが、のぼせる程長くはなかったと思う。
(時間は十分にあるんだ♪)
俺は湯から上がり、脱衣所で着てきた服を着て、元の部屋に戻っていった。

部屋に戻ると布団が敷いてあった。
俺は服を着たまま潜り込んでいた。
そのまま、しばらくウトウトしていた。
番頭さんが来て、
「ご案内はどうしましょうか?」
と聞いてきたのに、
「今日は疲れたから、明日にしてくれ。」
と布団の中から答えていた。

秘湯の中での幻想を思い出す…
俺は「女」になって、「俺」を…男を受け入れていた。
「女」の快感に「男に抱かれている」という不快感も消し飛んでしまっていた。

彼の手を思い出し、胸に手をやる。
シャツのボタンを外し、下着をたくしあげて…
「んあ…ん♪」
俺が胸を揉みあげると、艶かしいオンナの吐息が聞こえた…

(な、何だ?!)

その異常事態に気が付くまで、しばらく時間が掛かった。
(何がどうなっているんだ?)
俺はズボンのベルトを外していた。
パンツの中に手を入れ…
「ああんっ!!」
再びオンナの淫声がする。
と同時に、俺の股間に発生した強烈な快感に打ちのめされていた。
(俺の体が女になっている?)

俺は布団を剥ぎ、半分脱いでいた服を全て取り去った。
そこに現れたのは紛れもない全裸の女体だった。

 
原因はあの「秘湯」である事は明白だった。
(望みが叶う?)
チラシの謳い文句が頭を過る…俺は彼女が俺をどう見ていたか知りたいと思った。
それは事実だが、俺は女になりたい訳ではないっ!!
(どうすれば元に戻る?)
あの秘湯は「望みを叶えてくれる」のではなかったか?

俺は浴衣を纏い…女の着方など知る筈もない…腰で帯を締め、下駄を履き、裏木戸を出た。

 

 

 
「それでは秘湯にご案内しましょう。」
番頭さんの後に付いて昨日2往復した路を歩いていった。
「何ぶん秘湯ですので、効能についての個人差にはかなり差があります。単にリフレッシュされるだけの方から、体質にもよりますが、大きな肉体的変化を伴う事もあります。」
俺はドキリとして足が止まった。
「そのような秘湯ですので、くれぐれも一日に一回に止めて下さい。」
その言葉に俺は青ざめていたのだろう。
「どうされました?」
と番頭さん…
「もし、一日に2回入ってしまった場合、どうなるのですか?」
その言葉に番頭さんの顔も青ざめる…
「昨夜、入ったのですか?」
そう聞く番頭さんに、俺は肯定の首を振った。

 

 
「ああっ…」
番頭さんが絶句していた。
その湯に浸かった途端、俺の肉体は女体へと変化していた。

 
「肉体の変化を起こすような人が、この湯に2度入ると、肉体の変化前の情報が上書きされてしまい、元の姿に戻れなくなってしまいます。」
番頭さんが説明をしてくれた。

通常、肉体の変化は一晩で元に戻るのだが、二度目の変化は半年近く維持されてしまう。更に、戻るのは最初に変化した時の姿であり、決して元の姿に戻る事はないのだそうだ。
俺の場合は二度目に変化した姿が本来の俺の姿であったので、少しややこしくなる。
幸いにも俺は元の姿に戻れた…と喜んでいたのだが、これは仮の姿でしかないのだ。
半年が過ぎると、俺は女の姿に「戻って」しまうのだ。
女の姿でもう一度この湯に浸かれば、また半年は元の「俺」に戻れるというのだ。

番頭さんの計らいで、俺はいつでも無料で宿に泊まれることになった。
俺は翌日、もう一度秘湯に入り「俺」の姿を取り戻してから宿を後にした。

 

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