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2013年6月 7日 (金)

吸血鬼

「あたし、吸血鬼なんです♪」

目の前の少女はそう言った。
つばの広い黒の三角帽子の下にはふわふわの金色巻毛が広がり、小さな顔に大きな紅い瞳の眼が見開かれていた。
見るからに外国人の少女が普通に日本語を喋っていたので、その言葉の中身にまで気が回らなかった。
「貴方の血を吸わせてもらいますね♪」
黒いマントの下には白いレースの飾りの、これまた黒のドレスだった。
お人形さんがそのまま動いているかのように、すうっと少女が浮き上がった。
「こんだけ沢山の血があれば、当分はお食事しなくても良いかもね♪」
にっと笑った少女の犬歯が異様に大きく見えた。
そのまま、少女は俺の首に咬み付いた。

血液が吸われてゆくのがわかった。
いや、吸われているのは血液だけではない。俺の生命力…そして魂までもが吸い取られている気がした。

俺の意識がブラックアウトする。

既に俺の手足に力はなく、立っていられない筈であった。
宙に浮いた少女が、俺の頭を抱えていたので、俺の肉体は彼女に支えられて宙に浮いていた。
干からびた手足から、靴や腕時計が地面に落ちてゆく。
骨も脆くなり、なめし革のようになった俺の体から服が落ちてゆく。
更に皮も塵と化し、俺の頭だけが少女の手の中に残っていた。

「ごちそうさま♪」

彼女が手を離すと、俺の頭は落ちてゆき、地面にぶつかると粉々に砕け散った…

 

「お腹いっぱい♪」
地面に降り立った少女は、大きくあくびをすると、路肩にしゃがみこみ、マントを閉じた。
少女の姿は闇と同化し、消えていった…

 

 

(俺はどうなってしまったのか?)

意識は取り戻せたものの、俺はまだ「闇」の中に居た。
(煩いわね。静かにしてよ。)
あの少女の声が俺の頭の中に響いた。
(あ~ぁ、また食べ過ぎちゃったみたいね…orz)
食べ過ぎた?
そうだ。彼女は「吸血鬼」を名乗っていた。俺は血を吸われ…
(あんたの魂まで吸い込んじゃったってこと。いずれ消化されてしまうけど、それまでが面倒なのよね。)
面倒?
(魂を取り込んじゃうと、一時的に身体のコントロールができなくなってしまうの…)
動けなくなるってこと?
(あたしの意思ではね。あたしの身体はあんたの意思でしか動けなくなるのよ!!)
俺の?
(試しにマントを広げてご覧なさいな。)
俺は手を動かせることに気付いた。その手で被っていたマントを剥ぐ…

俺の眼に光が差し込んできた。
それは彼女とであった場所の昼間の光景であった。

俺は立ち上がり…
違和感を覚えた。

視点が低い。
これまでの位置の半分の高さもない。

そして…「服」…
あの少女が着ていたのと同じ白いレースに縁取られた黒いスカートが目に入った…

俺は自分の姿を映せるものを探した。
そして、見たものは…

俺がその少女の姿になってるということだった。

(つまり、そういうコト。あんたが消化されるまで、あたしは口を出すことしかできないってこと。)
ど、どうすれば良いんだ?
(好きにして良いわよ。吸血しなくても十分エナジーは補給できてるし、ちょっとやそっとでは死なない体だからね♪)
そんな簡単に言われても…
(SEXしても構わないわよ。女の子の快感なんてそうそう経験できるモノじゃないわよ♪)
SEX?!
(あたしの年齢は見掛け通りじゃないってこと。イロイロ経験済みよ♪)
そ、そう言うことじゃなくて…
先ずはこの格好…目立ち過ぎるよ。皆、振り返ってゆくじゃないか。
(気になるの?それなら、マントを被れば見えなくなるわよ♪)

 

どういう仕組みか、マントを被った途端、人々の視線が集まらなくなった。確かに彼等からは見えなくなったのだろう。

次はどうするか?
今の俺には、金も住む所もない…
(お金や住む所って必要?この身体は普通で言う食事の心配はないし、野宿で不便を感じた事もないわよ。)
風呂とか…
(あたしから変な臭いした?お風呂は好きだけど、無くて困るものでもないわよ。)

(どうしてもって言うなら、カラダ売ったら?一晩の宿は確保できるし、お風呂にも入れるわ。それに、お金だって貰えるわよ♪)
そ、それは…
(これが吸血鬼の生き方なの…)

 

 

 
あの日から、もう五年は経ったかしら?
吸血鬼の肉体は成長しないから、あたしはまだ少女のまま…
普段話す言葉を姿に合わせていたら、いつの間にか独り言も女の子言葉になってしまっていた。

本来のこの身体の持ち主は冬眠のように眠ってしまったのか、あたしと話をしなくなっていた。
(そろそろお腹が空いてきたかな?)
お腹が空いたと言っても、あたしは吸血鬼だからその食事は人間の生き血となる。
(あたしに血を吸うことができるだろうか?)
不思議と心配ないような気がした。

 

暗い夜道…あたしの前を一人の男が歩いていた。
昔のあたしを想わせる雰囲気があった。
あたしはマントを外して男の前に現れた。
「あたし、吸血鬼なんです♪」
男は眼を見開き、あたしを見ていた。
「貴方の血を吸わせてもらいますね♪」
あたしはすうっと浮き上がった。
「こんだけ沢山の血があれば、当分はお食事しなくても良いかもね♪」
知らない筈なのに、あたしは吸血行為の準備を整えていた。

そのまま、あたしは男の首に咬み付き、血液を吸ってゆく。
いや、吸っているのは血液だけではなかった。男の生命力…そして魂までもを吸い取ってしまっていた。

男の手足に力はなくなっていた。
宙に浮いているあたしが、男の頭を抱えていたので、男の肉体はあたしに支えられて宙に浮いていた。
干からびた手足から、靴や腕時計が地面に落ちてゆく。
骨も脆くなり、なめし革のようになった男の体から服が落ちてゆく。
更に皮も塵と化し、男の頭だけがあたしの手の中に残っていた。

「ごちそうさま♪」

あたしが手を離すと、男の頭は落ちてゆき、地面にぶつかると粉々に砕け散った…

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