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2013年5月26日 (日)

タ…

その夜は良い気分で、アルコールが幾分か多目に体を巡っていた。
道端で手を上げ、近付いてきたタクシーを停めた。
見慣れない提灯だったが、気にせずに乗り込む。
家の住所を告げると、車は静かに走りだした。

 

「良かったら、酔い醒ましに丁度良い立ち寄り湯があるんですが、寄っていきませんか?」
運転手がそんな事を言った。
普段、タクシーの運転手と会話などしないので、その提案が普通ではありえない事である事にも気付かなかった。
酩酊状態もあいまって、その提案を受け入れていた。
「それでは♪」
と運転手がハンドルを切る。
しばらく走ると「温泉」の文字が妖しくライトアップされた白亜の建物が現れていた。

玄関の前にタクシーを停めるとドアが開かれた。
運転席側のドアも開き、シートベルトを外して運転手も降りてきた。
「さあ、こちらにどうぞ♪」
ドアを開けたままの車をそのままに、運転手が案内をしてゆく。
階段を降りていった先に「湯」の暖簾が掛かっていた。
「さあ、どうぞ♪」と大小のタオルが渡された。
脱衣所で運転手と並んで服を脱いでいった。

そこには檜の湯船があった。
「さあ、入りましょう♪」
と促され、一緒に湯船の中に体を沈めた。
「どうです?酔い醒ましには丁度良いでしょう♪」
と運転手は言うが、逆に強烈な眠気に襲われていた。

 

…意識が…途切れ…てゆく…

 

 

気が付くと、そこはタクシーの中だった。
「如何でした?体は新品同様になってません?」
そう言う運転手は先程とは別人であった。何より、この運転手は女性である。
「彼は?君と代わるなんて聞いてなかったが…」

そう言っている間に妙な違和感を感じた。
「いえ、お客さんとはずっと一緒でしたよ。そう、お風呂のナカも♪」
不意に淫らなイメージが想い浮かぶ…全裸の彼女が目の前に居たような記憶が…

「で、あの温泉は酔い醒ましに効果ありましたか?」
確かに「酔い」は醒めていた。まるで一滴も飲んでいなかったかのように…
「でも、もうお酒は飲んじゃだめですよ♪未成年の飲酒は法律で禁止されていますからね。」
「だ、誰が未成年だ?」
「貴女の事よ。お嬢ちゃん♪」
「なっ?!」
次の言葉が続かなかった。
ふと見下ろすと、素足が目に映った。
それは剛毛に被われた自分のものではない…すべすべで健康的な…その太股に掛かるタータンチェックの布。規則的な折り目が付いている…
どこかの女子高生の制服にでもあるかのような…スカートの…一部だった。
胸を締め付けているのはブラジャーか?
胸が膨らんでいるのは確かだった。
バックミラーに自分の顔が映る。
ショートカットの髪、大きな瞳、プルンとした唇…

 

「はい、着きましたよ♪」
タクシーのドアが開き、学生鞄を胸に抱くようにして降りた。
背後でタクシーが走り去ってゆく音がした。

 

夜の住宅街に独り立ち尽くしていた。
目の前には門扉があり、その向こうには小綺麗な戸建ての家があった。
(これは自分の家?)
記憶が混濁している。
足は無意識に前に出てゆく。
ポケットから取り出した鍵が鍵穴に入る。
カチャリと鍵が外れた…

 
「おかえり。」とママの声がした。
「ただいま。」と答えて2階のあたしの部屋に向かう。

タンスの扉の裏の姿見に自分を映した。
(これは「あたし」だよね?)
自問しても答えは出てこない…

 
制服を脱ぐ

…下着姿のあたし…

下着も脱ぐ

…生まれたままの姿のあたし…

(さっきは、この胸をあの女性に弄られていた?)
記憶が曖昧になっていた。
あたしの胸を弄っていたのはオジサンだった。
胸だけじゃない…
女の子の大事な処も弄られ…太いペニスに貫かれていたんだ!!

チガウ…ツラヌイテイタノハ…

 

 

 

「おおい、あんた。大丈夫かぁ?」
男の声に我に返った。
犬を散歩させているのだろう。男の手に握られた紐の先にいる犬が先を急ごうと紐を引っ張っている。
「狸に化かされたんだな♪時々いるんだよ。そんな人が。」
男は犬に引かれ、離れてゆく。
「人目に付かないうちに着替えておいた方が良いよ~」

男の忠告に、自分が何を着ているのか確認した…

毛むくじゃらの足…太股に掛かるタータンチェックの生地…

皆まで確認する必要はなかった。
「ああ…」と吐息を漏らし空を見上げる。

空はまだ白み始めたばかりのようだ。

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