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2013年4月25日 (木)

明王

薄暗い地下室に低く読経の声が響いていた。
部屋の中央にはスポットライトに浮き上がるように、仏像が座している。

仏像は不動明王。一般的な仏像の柔和な顔ではなく、憤怒の形相で俺を見下ろしていた。

 

 

俺は頭を掴まれ、グイと押し出された。俺の目の前には黒光りする木造のペニスが迫っていた。
それは、胡座した不動明王の股間にニョキリと生えているのだ。
「煩悩を断ち切りなさい。」
坊主が自由の利かない俺の頭を押さえ付け、仏像に生えたペニスを口に咥えさせようとする。
「ちゃんと濡らしておかないと、後が痛いぞ。これぞ因果応報…それよりも、負苦をもって修行としたいのか?」
回りを取り囲む脇僧逹の読経に混じり、嘲笑の声が聞こえた。

 

俺は不審な新興宗教の実体を調べに行って、罠に陥ってしまった。
捕らえられ、奴らの言う「禊」に掛けられていた。
全裸にされ、荒縄で縛りあげられた。天井からウィンチで吊るされる。自由を奪われ、坊主の良いように操られる。
「ではお不動様のお慈悲を授かるが良い。」

坊主の声に呼応して読経のボリュームが上がる。
上体が立たせられ仏像の顔を正面に見た。更に近付かされ、顔や胸が木肌と触れ合う。
そのままゆっくりと降ろされてゆく。
股間に木造のペニスの先端が触れた。
更に降ろされると、ソレが俺の股間にメリメリと侵入してきた。

痛みに叫ぶ声を抑えられない。
読経の声を圧するように俺の悲鳴が地下室に響き渡った…

 

痛みに慣れてきた頃を見計らったかのように坊主が声を掛けてきた。
「さあ、お前の全てをお不動様に捧げるのだ。そうすれば、お不動様がお慈悲をくださる。」
と同時に、俺の内から様々なモノが奪われてゆくような感覚に陥った。
何もかもが奪われてゆく…

俺の全てが…

そして、全てが奪われた跡に、仏像から暖かなものが流れ込んできた。
それは俺の下腹部の内側を満たす…

「んあん…ぁああん♪」
俺の喉を突いたのは、叫びではなく、満ち足りた甘美な喘ぎ声だった。
俺の腹の中でペニスが蠢いている。
それは俺に、えも言えぬ快感を与えてくれていた。

戒めが解かれる。
俺は落ちないようにお不動様に抱きついていた。
お不動様から離れようなどとは考えられなかった。
憤怒の形相が逞しく感じられる。
自ら腰を振り、お慈悲を…快感を追い求めていた。
いつの間にか読経は止んでおり、クチュクチュと俺の濡れた股間が発する淫靡な音が際立っていた。

 

「いかがかな?お不動様の法力で『オンナ』となった心地は?」
お坊様の言葉に我に返った。

アタシは慌てて仏像から体を放した。が、足に力が入らずにバランスを崩して尻餅を付いてしまった。
目の前には不動明王様。その周りを脇僧様逹が囲んでいた。
その中心で無様な姿を晒しているアタシは、全裸だった…

(全裸?)

アタシは不意に違和感を感じた。
胸に存在するふたつの肉塊。股間の喪失感…そこに或った筈のモノ…それは、たった今そこから抜き取られたモノのことなの?

「どうしました?お不動様のお慈悲に何かありましたか?物足りないようでしたら私達がお相手しますよ♪」
お坊様がアタシの顔を覗き込んだ。
「な、何がどうなっているのか…」
アタシはか細い声で答えていた。
「お不動様の法力に直に触れたのです。しばらくは気持ちが不安定な状態が続きますが心配する事はありません。」
お坊様に頭を撫でられると少し気分が落ち着いた。
(アタシは何に違和感を感じていたのだろう?)
アタシの記憶自体には不鮮明な所があった。しかし、それを除けばおかしな所はどこにもない。
確かにこれはアタシの肉体だし、胸の膨らみにも以前と何も変わりはない。お不動様に処女を捧げた以外は…
「大丈夫ですよ。控えで少し休んでいれば、元に戻ります。」
アタシの上に毛布が被せられ、そのままお坊様の腕に抱えられた。
「っあ、そんな勿体ない…」
「今だけですよ♪」
アタシはそのまま控えの間に運ばれ、ベッドに寝かされた。
と、同時にアタシの意識は闇の中に落ちていった。

 

 

 
目が覚めたのは、アパートの俺の部屋だった。
(いつの間に戻って来たのだろうか?)
記憶に霞が掛かったかのように、何も思い出せなかった。
起き上がり、少しでも頭をすっきりさせようと冷水で顔を洗った。
鏡の中に素っ面の俺の顔が映る。
曖昧な記憶の中から昨日までの事を掘り返してゆく。俺は奴らに捕まり「禊」を受けた事が蘇ってきた。
記憶にあった「禊」には不可思議な光景が混じっていた。それが現実に起こったものなのかが、いまいち確信が持てない。
禊の中で、俺は不動明王のペニスに貫かれていたのだ。そればかりか、俺の肉体は「女」となり、胸にはふたつの肉塊が存在していた…
俺は着ていたパジャマの胸を肌けた。そこにあるのは、平らな「男」の胸であった。

 

記憶の戸惑いは更に続いた。
寝室に戻ると、壁に掛かった女の服…ワンピースが目に止まった。
勿論、この部屋には俺以外には誰もいない。このワンピースを着ていた女など…

 
と、俺の記憶にこのワンピースを着ていた「女」が浮かび上がってきた。
それは、姿見に映っていた「俺」自身だった。開いた胸元にはバストの谷間が覗いていた。
「女」となった俺の胸を締め付けるブラジャーの感触が思い出される…

(な、何なんだよ…この記憶は!!)

しかし、ベッドサイドにはブラジャーやストッキングが置かれていた。
(俺はコレを着て戻ってきたと言うのか?)

 

頭が混乱している所に電話の呼び出し音が鳴った。
「お不動様へのお勤めです。」
電話の声はあの坊主だった。
その声をきっかけに、俺は体の自由を奪われてしまった。
「謹んでご奉仕させていただきます。」
と勝手に答えている「俺」がいた。
行き先のホテルと部屋番号が告げられた。
電話が切られると「俺」はパジャマを脱ぎ、ブラジャーを手にしていた。
俺の胸にはいつの間にかふたつの肉塊が生じていた。
「俺」はてきぱきと女の下着を着け、壁に掛かっていたワンピースを着ていった。更に化粧まで仕上げてしまう。

 
「お不動様の遣いでまいりました。」
指定されたホテルのドアの前で声を描ける。
「待っていましたよ♪」
脂ぎった中年の男が俺を迎え入れた。

「早速、お不動様を拝ませていただきます♪」
俺はワンピースを脱ぐと、下着姿で男の前にひざまづいた。
ズボンのチャックを下ろし、中から男のペニスを取り出すと嬉々として咥え込んだ。

アタシの体が熱くなる。じんわりと股間が湿り始めていた。
男が最初の精を口の中に放つと、アタシはごくりとそれを飲み込んでいた。
「次はベッドに行こう♪」
男に促され、下着を脱ぎ去り、ベッドで男を待っていた。男は全裸になり、アタシに伸し掛かってくる。
彼の股間は十分に回復していた。
「お不動様の法刀で、アタシをお清め下さい♪」
アタシの言葉が終わらないうちに、法刀はアタシの女淫を貫いていた。
「んあん!!ああ~ん♪」
アタシの口からは悦楽の嬌声だけしか発せられなくなっていた…

 

 

俺は街を歩いていた。
体の自由は取り戻していたが、肉体はまだ「女」のままであった。
ワンピースを着ていた。下着も女物をしっかりと着けている。
足にはハイヒールを履き、顔には化粧が施されている。
どこから見ても俺は「女」だった。
更に、男に貫かれた痕跡が膣の中に残っているのが感じられるのだ。
これは単なる「女装」ではなく、俺の肉体が完全に「女性化」しているということだった。

「お姉さん♪いくら?」
と男が声を掛けてきた。
「売女」ではない!!と反論したかったが、バッグにはさっきの男から貰った金が入っていた。
俺は逃げるように、その場を離れた…

 

 
一晩寝ると「男」に戻れる事は判った。が、元の姿に戻ってしまうと、俺は外に出る事ができなかった。
あの「電話」が掛かってくる度に、俺の肉体は女性化してしまうのだ。それがどこであろうと、俺は「女」になってしまう。
外で「女」になると、当然手元に着替えの用意がある訳もない。ぶかぶかの「男」の服を着たままホテルに向かう事になる。
街中・ホテルの中等、人々の奇異の視線を一身に浴びる事になる。いたたまれないが、俺の自由は奪われ電話で指示された所に行くしかないのだ。

だが、「女」として男に抱かれた後には自由が生まれる。
本来の「俺」の姿ではないが、元に戻る事はないので、安心して出歩く事ができる。
男から貰った金もあり、気持ちに余裕が出てくるとついつい余計なものまで買い込んでしまう。
それは「男」の俺が必要としない可愛い小物やヌイグルミだったりする。
俺が「自由」を得ている時間帯は、俺も外見に合わせて「女」のように振る舞うようにはしているが、無意識の行動も「女」になっているのだろうか…

 

しかし、いつまでもこのような生活を続くものではない。
奴らの行為は犯罪である。俺と同じように奴らに目を付けるジャーナリストがいない筈もない。
ある日、俺がホテルに向かうと、建物のまわりが騒然としていた。
報道と思われる車両が集まり、関係者と思われる人々が機材とともに入り口を取り囲んでいた。
中からは警察関係者が通路を確保するように人垣を掻き分ける。
そして、屈強な男逹と共に出て来た男は、このホテルで何度か俺が抱かれた男だった。
(今日の行き先はこの男の所だったのかも知れない…)

その答えが俺にわかることはない。
嵐が去ったホテルに入り、指示された部屋のドアを叩いた。
中に人のいる気配はない。
自由を奪われている俺は、指示に従ってその場に佇んでいるしかなかった。
(多分、新たな指示が来ることはないのだろう…)
しばらくするとホテルの従業員に見つかる。
「この部屋の予約はキャンセルされました。また、貴女のような方の出入りはホテル側としましても好ましいものとは思っておりません。」
半ば強引に、俺はホテルから追い出された。
建物を出た所で俺は自由を取り戻した。
勿論、もう一度ホテルに入ろうとは思わない。
(多分、もう奴らから電話が掛かってくることはない。これで一晩寝れば「俺」に戻れる。そして、いつ変身してしまうかに怯えずに「俺」でいられるのだ♪)
俺は嬉々としてアパートに戻っていった。

 

 

 

結論から言おう。
俺は「男」には戻れなかった。

単に一晩寝ただけではだめらしい。
男に抱かれる必要があるのかも…と、出会い系で会った男に抱かれてみたが、これでも上手くいかない。
多分、奴らからの「指示」が遂行されていないことが原因と考えられる。
(もうひとつ、あの不動明王に抱かれれば、元に戻れるかも知れないが、二度と奴らに関わり合いたくはないのだ!!)

まあ、俺も「女」でいることに慣れてしまっていて、今更に不自由は感じていない。
それに「女」でいることの悦びも覚えてしまっている。
「女」のままでも良い…いや、俺は、この先もずっと「女」のままでいたいと思っていた。

 

電話の呼び出し音が鳴った。
「やあ♪」
爽やかな声が俺の耳に届いた。
彼の声を聞いただけで、俺はウキウキとしてしまう。
「愛してるわ♪」
と俺…そして他愛ない会話が続く。

そう、今の俺には「男」の恋人がいる。
「女」として俺は彼を愛し、愛されているのだ。
既に俺の子宮には、二人の愛の証が存在していた。
もう「男」に戻るなど考えられない。

俺は過去を捨てた…

 

 

あたしは明日、水天宮にお参りに行くの。
この子が無事に生まれてこれるよう、お祈りするのよ♪


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