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2013年3月 1日 (金)

侵略者

(敵宇宙戦艦まであと100秒)
俺は信管の安全装置を外し、カウントダウンに入った。

ステルス性が高いと言っても、この機体が敵から完全に見えなくなる訳ではない。敵の動きに合わせて、その死角から外れないように機体を滑らせてゆくのだ。
その繊細な挙動を可能にしてくれているのが「直接制御機構」だ。
機体と俺の脳を直結し、自らの手足のように機体を操る事を可能にしてくれる。

勿論、夢のような話には代償が伴う。
ステルス性を高めるには、機体はコンパクトであることが求められる。余計なものは搭載できない。
つまり、俺を…俺の「脳」を生かしておけるギリギリの生命維持システムとなっている。
元々、生きて帰る事など想定されていない。機体に満載された爆薬とともに敵宇宙戦艦に突っ込み、これを破壊するのが目的の機体なのだ。
ドロドロに溶かされた俺の肉体を栄養源に長い時間を掛けて奴に忍び寄ってきたのだ。

(あと20秒…)

掻き集めた燃料をスラスターに押し込め、カウントダウンの最終フェーズに突入する。
10


スラスターを点火し、奴との間合いを一気に詰める。

装甲の薄い箇所に頭から突っ込んでゆく


信管を作動させる

爆薬が誘発する

全てが無に帰す。

 

 

 

……

………

(?!)

全てが無に帰した筈なのだが、今、ここには「俺」の意識が存在していた。
「機体」から解放され、「肉体」も無に帰している。

浮遊感?

どこかしら、広い空間に「俺」は意識だけで浮かんでいた。
任務を全うしたのであれば、俺はもう存在しない筈なのだ。
それが、こうして意識を保っているということは、
…任務に失敗した?…
俺は確かに、敵宇宙戦艦に突っ込み、信管を作動させたのだ!!

「君の機体は直前に亜空間に送り込んだ。残念だが、我々は健在だ。」
どこからともなく「声」が聞こえてきた。
(誰だ?)
俺は声にならない声で聞き返した。
「君逹の言う敵=侵略者が我々だ。」
(何故、俺を生かしている?)
「興味があったからだ。自らの死を賭して我々を攻撃しようとする、その思考形態を分析してみたくなったのだ。」
(つまり、研究材料と云う訳か?)
「あまり堅く考えなくても良い。君はそこで自由に振る舞ってもらえば良い。我々はそれを観察し、分析する。」
(自由…に、ね?)
「おお、済まない。今、君の記憶から空間を再構築する…では…」

 

俺は急に重力を感じた。
俺は自らの足で立っていた。
ここ暫く意識したことのなかった「肉体」の感覚に戸惑いを覚えつつも、久しぶりに手足があり、指を曲げ伸ばす感触を取り戻した事に感動していた。
そして、今は「目」が開いていた。自らの目でものを見ている…

目の前には「街」が…奴らの侵攻を受け廃墟となる前の、平和だった頃の街が…そこにあった。
当時の俺は高校生で、正に青春を謳歌していた…

「おい、どうした?ぼーっとして♪」
上方から若い男の声がした。
「えっ?」
と振り仰ぐと、そこに男の顔があった。
どこかで見たような…って、これは毎日見ていた「俺」の顔ではないか!?
「俺」が当時の俺の体格と同じであれば、今の俺の身長は150cmもないんじゃないか?
「夕べもアイドル三昧で夜更かししてたんと違うか?」
「俺」の手が俺の頭に乗せられ、ガシガシと揺すられる。俺の髪の毛の先端が、その度に頬を擽る。
(俺はこんなに髪を長く伸ばしたことなどないぞ??)
「止めろよ!!」と「俺」の手から逃れる。
その時発した声に違和感を覚える。
(声が甲高い…そう、女の声みたいだ?)
「女」というキーワードに様々な事象が連鎖してゆく。
背の高さ、髪の長さ…
先程から気になっていた太股に触れる感触はスカートの裾か?

「おい、どうした?」
と「俺」が心配げに声を掛けてきたが、構っている余裕がない。
俺は鏡を…今の自分の姿を確認できるものを探した。
視線の先に路上駐車している車があった。走り寄り、窓ガラスに自分を映した…

「…小柴か?」
そこに映った顔は高校時代、同じクラスにいた「小柴薫」だった。
俺は当時、彼女の事が気になっていたが、どうにも声を掛け辛い存在だった。
そんな特別な想いがあった所為で、俺は今「彼女」として存在しているのだろうか?
「どうしたんだよ薫♪突然走りだしたりなんかして?」
追い付いてきた「俺」が声を掛けてきた。
(「薫」か…)
誰の目にも、今の俺は「小柴薫」なのだろう。ならば、暫くは彼女のフリをして様子を伺う方が良いか?
「ご、ごめん。ちょっと顔を確認したかったんだ。」
「あ、ああ。女の子はちょくちょく鏡を見るものな。俺にはその気持ちは良く解らないが。」
(それは、俺も解らない。が、今はそういう事にしておこう♪)
「ごめんね。もう大丈夫だから♪」
俺は車を離れ、再び「俺」と一緒に歩き始めた。

 

昔の俺は、こんなに小柴と親しくしていた事はない。
この世界は奴らが造り出した疑似世界に違いない。だから、本来の…俺の経験してきた世界と違うのも頷ける。
俺の記憶から再構築したと言っていた。だから、俺の願望…小柴と親密になりたいと思っていた記憶…が再現されたのだろう。
(だからと言って、何で俺が小柴本人になっているんだ?!)

俺逹が向かっていた先は俺の(小柴のではない)家だった。
「おじゃましま~す♪」
自分の家に上がるのに変だとは思ったが、今の俺は小柴なのだ。それに、この家も消失して大分経つ。他人の家と大差ない…という気もあった。
「今日は誰もいないよ。そう堅くなんなって♪」
「俺」が俺を俺の部屋にエスコートしてゆく。
カチャリとドアが開けられた。
その向こうには懐かしい「俺の部屋」があった。

「な、何だよ?涙なんか流して。俺の部屋に入っただけで、そんなにも感動するか?」
「そ、そんなんじゃないけど…」
確かに俺の視界はぼやけていた。小柴に…女になった事で涙腺が緩み易くなっているのだろうか?
「ま、まあ、そこ…ベッドにでも腰かけてくれ♪」

ベッドに座るとムッとした臭いが俺を包んだ。
記憶を辿ってみてもこのような臭いを俺の部屋の中で嗅いだ事はない。強いて言えばパイロット訓練時代にロッカールームに充満していた汗の臭いだろうか?
「っあ、わりぃ♪女の子には男の汗の臭いはきついよな?」
と「俺」が窓を開けると、そよ風がその臭いを和らげてくれた。
(別に嫌じゃないよ。もう少しその臭いに包まれていたかったかも♪)
「窓…開けちゃうと少し寒いかも…」
と、俺はそんな事を口走っていた。

 
「ん!?何だアレは」
「俺」が窓の外の空を見上げていた。
俺も立ち上がると「俺」の脇に立ち、並んで空を見上げた。
(!!ッ…始まったんだ…)
幾筋もの光の線が空一面に描かれていた。
全身に震えが走る。
「どうした?」
俺の変化に気づいた「俺」が、俺の肩をぎゅっと抱き締めてくれたので、幾分か落ち着く事ができた。

「テレビ点けて良い?」俺が聞くと「俺」はリモコンを操作した。
どのチャンネルも臨時ニュースを伝えていた。アメリカ本土との通信が途絶しているとアナウンサーは繰り返していた。
既に南北アメリカ大陸に生存者がいない事を俺は知っていた。
「薫?」
「俺」が再び俺に声を掛け、俺の顔を覗き込んでいた。
やはり、この体の涙腺は緩い。止めどない涙がいく筋も頬を伝っていた。

俺は記憶を辿っていた。次にヨーロッパ・アフリカが廃墟と化すまでに3ヶ月の猶予があった。
その間に奴らを排除する様々な方策が練られた。と同時に宇宙を戦いの場とする様々な兵器が次々と開発された。そこには、これまで想像もできないくらいの技術革新・科学技術の飛躍があった。
奴らからの攻撃を逃れるため、太平洋の海底に巨大な基地が作られ、あの忌まわしい機体が生み出された。それを操縦するパイロットが集められ、訓練を行い…そして俺を含め、皆が旅立っていったのだ。

が、それはまだ「先」の話だ。

 

 
「落ち着いたか?」
いつの間にかテレビは消され、物音一つしない部屋の中で、俺は「俺」に抱き締められていた。

俺は彼の体温に包まれていた事に安らぎを覚えていた。
肉体同士が触れ合うことからもたらされる安心感を初めて知った気がした。
俺は自分の腕を、彼の腰に回しと更に密着度を上げた。俺の胸の膨らみが二人の間で形を変える。
ビクッと何かが震えた。密着した下腹部の間で、その存在を主張し始めた奴がいた。
「ご、御免っ…」
彼が腰を引こうとしたが、僕は二人の密着を続けるべく、腕に力を入れていた。
「だ、駄目だよ。そんなコトしちゃ。僕の理性が保てなくなる。」
「別に良いよ♪その為にココまで連れてきてくれたのでしょ?」
再び俺の口は勝手に喋り初めていた。
「良いのか?」との彼の問いに、コクリと頷いていた。
彼の片手が離れ、その指が俺の顎に掛かった。その指に誘われて上を向く。
彼の唇が俺の口を塞いだ。彼の舌が侵入してくるのを俺は拒まなかった。
頭がぼーっとする。全身から力が抜けてゆく。
何も考えられなくなっていた。

彼が俺の服を脱がしていった。
ブラとショーツだけになってベッドに寝かされた。
その横に全裸の彼が横たわる。
「薫。愛してる♪」
大きく、暖かく、優しい掌が俺の乳房を愛撫してゆく。
俺は彼の愛撫に快感を感じていた。「愛してる」と囁かれる度に、俺もまた彼を「愛している」と感じるようになっていた。

彼の手が俺の股間に延びてきた。俺の股間は既に十分に濡れていた。
それは則ち、彼を…「男性」を受け入れる準備ができていたということだった。
俺は彼に体を開いていた。俺の上に彼が伸し掛かってくる。
俺は「彼」を受け入れていた…

 

 

「…ほう♪君逹には「愛」という感情があるのか。その「愛」が自らの死を賭してまで我々を攻撃しようとする原動力となったと言うのだな?」
俺の頭の中に奴らの声が聞こえてきた。
「しかし、今の君が感じている「愛」は、それとま真逆の方向を示している。実に興味深い。」
(何が違う?)
俺自身そう言われ、今は死を賭してまで奴らを攻撃したいとは思う事ができなくなっている事に気付いた。
それは、今の俺が「小柴薫」…「女」だからなのだろうか?
「つまり二種類の「愛」があると言うのだな。「男の愛」と「女の愛」か…今の君であれば、無駄な命を投げ出したりはしなかったと言うことか?」
つまり、これで奴らの「研究」は終わりを迎えたと言えるのだろうか…
「我々はアプローチを誤ったようだ。貴重なデータを与えてくれた君には感謝するよ。我々はやり方を変える事にした。君も死なずに済む筈だ…

奴らの声が霞むように消えていった。
「薫ちゃん?気が付いた♪」
女の声が聞こえた。
俺はベッドに寝ていたようだ。
「お姉さんアメリカだったものね。心配で気を失っちゃうのも当然よね。でも、大丈夫。通信は回復したって。」
「俺」や薫と同い年と思われる女が親しげに話していた。
(誰?)
と部屋の中を見渡す。そこは「俺」の部屋であった筈が、内装が一変していた。
「女性の部屋」…つまり、この女の部屋であった。
「何か大規模な隕石群の中に地球が突っ込んだんだって。大量の隕石が大気圏内で燃え尽きる時に発生したエネルギーが南北アメリカを中心に通信障害を起こした…とかなんとか言ってるけど、よく判んないわね?」
彼女の所作・雰囲気の中に「俺」の断片があった。
奴らの実験はまだ続いているのだろうか?今度は「俺」を「女」にして…

 
しかし、この世界では奴らの侵攻は存在しなかった。
「女」に変わっていたのは、俺と共に訓練を受けたパイロット達…俺の知る限り、その全員が「生まれた時から女性」として認識されていた。
「俺」もまた「女」として存在していた。今では俺=小柴薫の一番の「女」友達となっていた。
奴らはパイロット達を「女」にすることで「男の愛」を封じたという事なのだろうか?
奴らは、この新しい世界で何をしようとしているのだろうか?
奴らの目的は地球侵略ではなかったのか?
南北アメリカはいまだ健在であった。

 

 

安穏とした日常が、全てが夢の中の出来事のように思わせる。

俺は生まれた時から「小柴薫」であったと錯覚することもしばしばあった。
ある日、「俺」から「好きな人ができた♪」と告白された。
勿論、相手は女の子ではなく、年上の男性であった。
「俺」には「男」であった記憶がない。そうなるのも当然の流れであると納得させるしかない。

しばらくして「姉」が帰ってきた。
アメリカで結婚し、赤ん坊を連れての帰国であった。
彼女も俺の記憶では「小柴薫」の「兄」であった筈だ。焦土と化したアメリカから帰国した彼は真っ先にパイロットに志願したと聞いていた。

そんな二人に「何故恋をしないのか?」と責められる。

しかし、俺は既に恋に落ちていた。
俺…と自分の事を言い続けてはいるが、俺の心はとっくに「女の子」になっていた。
「彼」の事を想うと夜も寝られないことがある。
しかし、彼はもうここにはいない。

俺は…あたしは一生忘れられないだろう。「俺」に抱かれて過ごした、あの短いが濃厚だったひと時を…

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