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2012年9月30日 (日)

竜の玉

竜の巣窟に近づくにつれ、神経がピリピリと緊張してゆく。
それは俺自身の興奮の故ではない。竜の発する精神波が俺の脳に干渉しているのだ。
戦士や魔術師でもない限り、この領域に足を踏み入れる事など適うものではないのだ。
俺とても、魔道具の助けを借りてようやくここまで辿りついたのだ。

勿論、俺は戦士でも魔術師でもない。格好良く言えば「トレジャーハンター」だ。
竜の巣窟に来たのも、竜を退治する為ではない。(それに、ここの竜が悪さをした話など聞いた事もない)
俺の目的は巣窟の奥にあると言われる水晶玉を奪取する事にある。
話に聞くと、巣窟の奥には極上の水晶玉がゴロゴロしていると言う。その中から2~3コ失敬しても文句は言われない筈だ。

 

今まで誰も手を出さなかったのは、竜の発する精神波への対策が取れなかったからである。
一匹であれば気力で何とかなるかも知れないが、これだけ群れていると太刀打ちできるものではない。
俺は俺のアイデアを基に、ある魔道具を作らせた。(そのアイデアは明かす事はできないぞ!!)
その魔道具の働きにより、竜の精神波は大分軽減されている。

竜の巣窟に辿り着いた俺は、竜達に気付かれないよう、更に巣窟の奥へと向かっていった。
そこは迷路のように入り組んだ洞窟が続いている。俺のトレジャーハンターとして感を頼りに最深部に向かってゆく。
そして辿りついた最深部の巨大な空洞…輝く水晶玉が山と積まれている。

「ニンゲンか?」
声を発したのは、水晶玉の前に彫像のように佇んでいた一匹の老竜だった。
竜の中に人語を話す奴がいるという噂は聞いた事がある。
「ああ…」
「この水晶玉が欲しいのかね?」
「そんだけあるんだ。2つ3つ分けてくれても問題ないだろう?」
「ここから持って行き、街で売って儲けるのだね?」
「それのどこが悪い?ちゃんとしたビジネスだろ?」
「わたしは何も悪い事だとは言っていない。ただ、何かしらの対価があっても良いと考えている。」
俺は竜の目を覗き込んだ。しかし、何を考えているかを想像する事さえできない。
「不安か?」
「な、何を言う。先ずはその対価とやらを示してもらえないか?」
「ふむ。覚悟はあると言うのだな?」
「そこに利益が得られるのであれば、交渉の余地があると言うものだ。」
「交渉できなければ、腕ずくで…と言うのだろう?」
竜の眼が一瞬鋭くなったように見えた。
「まあ良い。対価はこの玉一つにつき、ヒトの命一つ…どうかな?」
人を殺すのか…
どんな奴にする?続けて殺人が起きれば捕まる可能性も高くなる。
死体をここまで運べるのか?連れて来てここで殺るか…
「ここに来る必要はない。それに、お前が殺人を犯す必要もない。」
竜の眼が嗤っている?
「お前には人を殺すのではなく、新しい命を作ってもらいたい。玉はその命と引き換えにしてやる。」
「どういう事だ?」
「即に判る。では頑張るのだよ♪」

 

 
俺は意識を失っていた。
気が付いたのは宿屋のベッドの中だった。
起き上がる際にとてつもない違和感を感じた。
(腹の中に何かある?)
俺の腹は臨月を迎えた妊婦のように膨らんでいた?!
いや、腹だけでない。胸には女のような乳房があり、手足も女のように白く、細くなっていた。
<最初の一つはおまけしておいてやる♪>
あの竜の声が頭に響いた。つまり、この姿は奴の所為だと言うこと…

数日後、俺は水晶玉を産み落とした。
<そうだ。お前が新たな命を宿せば、玉と交換してやる。悪い取引ではないだろう? 玉が欲しければ、頑張って妊娠するんだな♪>

俺の頭の中で竜の嗤い声が鳴り響いていた。

 

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