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2012年8月17日 (金)

被憑依体質(3/3)

 
「僕…、どうなっちゃったの?」
今度、諒子に憑いたのはマサシという少年だった。
「多分、あなたは死んでしまったんだと思う。あなたが最後にいた場所を覚えている?」
マサシが素直に頷いたので、俺達は着替えをすると、その場所に向かった。

ひと目で「事故」があったと判る。路肩に菊の花束が置かれ、線香の煙が上っていた。
近くには「交通事故多発地点」の看板がある。車の往来はほとんどないが、良く整備された道路である所為か、通過してゆく車のスピードはかなり早い。
ここは信号機のついた交差点だが、見落とされる程地味であり、見ているそばから信号無視をする車を何台も見かけていた。
「何か思い出した?」
諒子が尋ねてもマサシは首を横に振るだけだった。
(しかし、マサシ君がここで事故に合ったのは間違いないようだね。だとすると、搬送された病院を確認するか、直接マサシ君の家を訪ねることになるね)
「あなたの家はここから近いの?」
と聞くと、コクリと頷いた。

マサシの案内で彼の家に向かった。
最近建てられた高級マンションだった。入り口に葬儀社のロゴの入った車が止まっていた。
中から人が出てくる。いかにも葬儀社の社員らしい男と、少しやつれた顔の男…
「パパ…」
マサシが呟く。
ヤバイ!!と思ったが、既にマサシは駆け出していた。

「パパーーッ!!」
閉まりかけの自動ドアの隙間からエントランスに駆け込むなり、そこにいたやつれた男…マサシの父親に抱きついていた。
いくらマサシの親と言っても、流石に諒子の年齢の娘がいる年ではない。傍目には「愛人」が抱きついている…としか見えなかった。

「少しお話しさせていただけませんか?」
と諒子が進み出た。
「君は?」
と言い、抱きついてきた娘と見比べる。
「君まで私の事をパパと呼ぶのかい?」
「それはありません。説明させていただけませんか?」
と諒子は彼からマサシを引き離した。
「複雑そうだね。ここでは何だから、家に来てくれるかね?ご存じかと思うが、家は立て込んでいるがね。」

 

 
その日、マサシは黒いワンピースを着て「自分」の葬式に参列していた。
周囲には「遠縁の娘」として紹介し、しばらく一緒に住むことになっていたと説明していた。
同じ顔の人物が二人いると騒ぎになりそうなので、俺達は葬儀には参列せず、遠くからマサシの姿を確認しただけだった。

マサシが彼の両親と生活している間は、俺は「諒子」として生活しる事になる。
もっとも、肉体の主導権は諒子にあるので、彼女はいつもの生活を継続するだけだ。
「これなら諒子も被憑依体質に悩まされる事もないわね。」
「マサシ君もご両親と幸せな日々を送れているそうじゃないか。」
諒子の両親が呑気にそんな事を言う。
実際、俺が元に戻れたのは、それから3年後だった。
マサシの両親に子供…マサシの妹が産まれたのだ。当然、マサシにだけ注がれていた愛情が案分される。
マサシは今の自分の体が借り物である事を意識する。家ではババママと呼べるが、外では叔父さん叔母さんと呼ばなくてはならない。
(僕は「死んだ」人間なんだ。パパとママには妹がいる…)
マサシが自分がここにいるべきでない。と認識した事で、彼の魂は諒子の体から離れていったのだった。

俺達が元の状態に戻ったと知り、不安になったのは諒子の両親だった。
再び諒子が憑依される心配に晒される日々が戻ってきたのだ。

俺達は諒子の両親の勧めで依呼の親類がいたという場所を訪れる事になった。

 

「何かやりようはないでしょうか?」
両親は紹介された依呼に懇願した。
「無いコトはない…が、そこの彼が承諾してくれるかな?」
そう言われ、全員の視線が「俺」に向いた。

この場所に来るまでにも、諒子に憑依して来る霊があったが、この場所の周囲には結界が張られているのか、諒子に憑いていた霊は自然に離脱していった。
だから、今の俺は自分自身の姿に戻っていた。
その「俺」に視線が集まる。
「別に良いですよ。俺は。」
その台詞に皆がほっとする。
「では、早速呪式に入りましょう。」

俺と諒子は白装束に着替え、複雑な文様が描かれた床の上に寝かされた。
立ち篭もる香の香り。その成分に睡眠効果があるのか、単調な依呼の呪祖とともに、俺は意識を失っていた…

 

気が付くと、目の前に天井があった。
振り返ると、俺の体がある。これが「幽体離脱」というやつなのだろう。
俺の隣には諒子が眠っていた。

呪祖が転調した。
グイッと俺の幽体が引き戻される。…その先は諒子の体だった。
俺の幽体が諒子にぶつかると、推し出されるように諒子の幽体が浮き上がる。諒子の幽体が「俺」の体に引き寄せられ…
「俺」の中に入っていった。

俺は初めて第三者の視点で「俺」が変身してゆくのを見た。
髪が伸び、胸が膨れ、顔が変わってゆく。
「俺」が諒子になるのは、もう何度目だろうか?諒子自身は慣れているのか、むっくりと起き上がり自分の体を確かめていた。

呪祖は止んでいた。
これで「終わり」と言う事なのだろう。
「彼の魂を諒子さんに憑かせました。既に安定状態に入っていますので、これ以上何者かに憑依される事はありません。」

俺は本来の「俺」を見た。諒子の霊が憑いた事で姿は「諒子」となる。そして、その内にはあるのは諒子の魂だけだ。彼女は「諒子」そのものとなったのだ。
そして俺は…「諒子」の姿になっている。俺が「諒子」でいた時は、肉体の主導権は諒子にあった。主導権を譲られたとしても、同じ肉体の中に諒子は存在していた…
が、今の俺は単独でこの「諒子」の内にいる。誰が主導権を持つかなど考える必要もない。
俺が「諒子」…いや、諒子は俺の目の前にいる。「俺」は「諒子」ではない。
俺は諒子とは別の…一人の「女性」なのだ!!

 

 

俺は「俺」の部屋に戻ってきた。
もう、諒子一家と係わる事もない。更に、霊に取り憑かれることもなくなった。今日からは「普通の人」として生活してゆく事ができる。
女の姿になってしまったが、これまでも女の霊に憑依され、何度か女にされた事がある。マサシの件で3年間を「諒子」として過ごしてき経験もある。
女として生活するのに不自由はないし、「独りでいられる」のだ。女になった事に不満はなかった。

俺は「俺」の布団の上に転がった。
緊張が解け、大きく息をする。
いつもなら気にしたことのない「俺」の匂い…「男」の匂いに包まれているのを感じた。
俺の「女」の肉体が反応する…

「んあん…」

俺は胸に手を当て、ゆっくりと揉みあげていた。
もう一方の手はショーツの中に入ってゆく。
そこは既に濡れ始めている。
「あん♪ああ~ん!!」
指先が秘裂に割り込んでゆく…

「ダメよ。そんなんじゃ♪」
俺は俺を犯そうとしている男を想像して言った。
「もっと激しく、もっと奥まで…あたしを犯してっ!!」
想像の男は、いつしか「俺」に変わっていた。
「ああっ!!いいわぁ~~♪」
全裸のあたしは彼の腰に脚を絡め、彼のペニスを更に奥へと誘う。
「あ…あぁ。イクぅ、イッちゃうよぉ♪」
「彼」の精液があたしの膣の奥に放たれる…

 

 
…これが俺の望みだというのだろうか?
俺が「俺」に抱かれる…

ありえない事ではない。
もし、諒子の変身が解けてしまえば、そこには「俺」が存在する事になる。

もし、俺が諒子に抱かれたとき…

俺ははたして「昇天」してしまうだろうか…?


-了-

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