« 無題 | トップページ | ひと夏の思い出 »

2012年6月26日 (火)

魂の時間

フッ…
と身体が浮き上がる感じがした。

良く見ると天井が近付いている。
(どういうコト?)
などと考えているうちに、天井が目の前まできていた。
(ぶつかっちゃう!!)
慌てて手を前に出して動きを止めた。

身体の上昇は止まったが、かと言って重力に引かれて落ちてゆく事もなかった。
そのままの姿勢で振り返ってみる。
そこにはベッドがあり、「僕」がいた?!

幽体離脱というのだろうか?
自分の身体(幽体)を見ると、向こう側が透けて見えた。

もう一度ベッドの上の「僕」を見る。
幽体離脱しているのだから意識はない筈なのだ。が、「僕」はむっくりと起き上がっていた。
両手を目の前にかざす。その手で自分自身を抱き締める。
「あ…ああ…」
と声を出す。
立ち上がり、上体を捻ったり、倒したりした。
そして、パジャマを脱いだ。
裸の胸を摩っている…

「僕」の身体が他の何者かに乗っ取られた?

自分の肉体を取り戻そうと、天井を蹴って「僕」に突進した…
が、あえなく弾き返される。
「僕」は何事もなかったかのように、パンツの中に手を突っ込んでいた。

「へぇー、これがオチンチンかぁ。やっぱりしごくと大きくなるのかな?」
とパンツの中で手を動かし始めた。
どうやら、女の霊がとり憑いているようだ。

「ぁあ、あん。何か来る…」
「俺」の声で女のような艶めかしい喘ぎ声を出されると、変な気になる。
「あっ…」
動きが止まる。どうやら射精したようだ。
パンツの中から手を引き出し、精液にまみれた指を鼻の下に持ってゆく…
「何よコレッ!!鼻が曲がってしまうわ。」
近くにあったティッシュで手の汚れを拭き取ると、パンツを下ろして下半身の汚れも拭き取った。
それだけでは収まらず、風呂場に行き、シャワーで洗い流していた。

「僕」は部屋に戻ると、着るものを物色した。
「ダサイのしかないのね!!」
と呟きながら選んだのは「僕」とは思えない垢抜けたコーディネートだった。
そのままの勢いで外に出てゆく。僕は「僕」を追うようにしてついていった。

 

「僕」に憑依している女のアパートなのだろう。隠しからカギを取り出しドアを開けた。
勝手知ったる自分の部屋なのだろう。旅行鞄を取り出すと、クローゼットの中から服や小物を次々と放り込んでいった。
別の引き出しからは銀行通帳や貴重品を取り出した。
最後に履いてきたスニーカと着ていた服(下着まで)を脱いで放り込むとガチャリと蓋を締めた。
「僕」は一着だけ選り分けて壁に掛けていたワンピースを手にしていた。
悪い(?)予感がする…

 

 
予感は往々にして当たるものであるorz…
「僕」は下着から一式、まるまる「女装」させられていた。
彼女にしてみれば、単に自分の服を着ているだけ…であるが、それが僕自身だと思うと冷静ではいられない。
付け毛をして、お化粧した「僕」は完璧な「女の子」だった。

彼女は化粧道具をポーチに納め、大きめのトートバックに放り込むと、ブーツを履いて外に出た。
ガラガラと旅行鞄を引いて向かった先は、他ならぬ僕の部屋だった。

彼女は僕のクローゼットを開けると、中の服を放り出し、持ってきた彼女の服を掛けていった。
彼女はここに居座るつもりなのだろう…

彼女の肉体は「僕」自身なのだから、この部屋に居る事に何の問題もない。
…が、僕自身は幽体となっていて、彼女のまわりでフラフラと漂っているしかない…と言う事については、何の解決の糸口も見つかっていなかった。

「あんたねぇ。」
彼女が天井近くを漂っている僕を見上げて言った。
「いつまでストーカーみたいにアタシにまとわり付いているつもりなの?アタシはこの身体を返すなんて気は更々ないんだからね。」
どうやら、彼女には僕が見えるらしい。
「でも、それは僕の肉体だし、この部屋は僕の…」
「何ウダウダ言ってるの?この身体も部屋も、もうアタシのモノなの!!諦めてサッサと新しい身体を探してきたら?」
「そんな事言ったって…」
「なら、ついてらっしゃい。」
と彼女は立ち上がった。

 

 
彼女が向かった先は病院だった。
病室のドアを開ける。一人用の個室のようだ。一つしかないベッドの上に寝ている人物…上から覗き込み、ハッとする。
彼女と同じ顔がそこにあった。則ち僕と良く似た顔の女性がそこに寝ていた。
「意識はないわよ。中身は今ココに居るんだから。」
と彼女は自分の頭を突ついた。
「あと三ヶ月だって。それでも良ければあげるわよ。でもその身体で死ぬと、あなたの魂も一緒に昇天することになるんだって。」
僕は安らかに眠る彼女に顔を近づけた。
「本当に良いの?アタシはもっと生きたかったから悪魔と契約して新しい身体を手に入れたのよ。あんたはそれでも良いの?」

「多分…」
僕は彼女を見た。
「今、生きていると感じる事ができれば、それで良いんだと思う。」
「お好きにどうぞ。」
と彼女。
僕は主のいなくなった肉体の中に入っていった。

 

僕が意識を取り戻したとき、既に彼女の姿はなかった。
突然に意識を取り戻した事で病院側は一時期慌ただしくなったが、彼女が持つ本来の病気(?)以外に悪いところがなかったので、一週間後には退院できた。
退院後に戻る場所は、やはり彼女のアパートなのだろう。彼女に連れられてきた記憶を頼りに辿り着く。
隠しから鍵を取り出し、部屋に入った。

退院した僕がここに戻って来る事を想定していたのだろう。多分、彼女がもう一度ここを訪れ、あの時散らかしっぱなしになっていた部屋が綺麗に片付けられていた。
退院した翌日、僕は「僕」の部屋を尋ねた。

「退院したんだ。おめでとう。」
と彼女が僕を抱き締めた。
フニッつと胸の間で潰れるモノがあった。勿論、僕は今女の子の肉体だから、胸にはそれなりの膨らみはある。だが、それとはベツのモノがそこにあった。
体を離し、彼女の姿を確認する。それが「僕」の肉体であったとは到底思えない。それは「女装」ではなく、女の子そのものだった。
その象徴が、彼女の胸だった。胸元をしっかりと押し上げているモノがあった。
「良いでしょ?シリコンを入れたのよ♪」
僕の視線に気付いたのだろう。彼女はそう言った。
「何で勝手に?それは僕の…」
「これはもうアタシの身体でしょう?オッパイ付けようが、オチンチン切ろうがアタシの勝手でしょ?」
「おちんちん?」
「少しでも元のアタシに戻りたかったからね♪あんたのコノ身体を選んだのも、あまり手間を掛けずにアタシに戻れそうだったからよ。」
「そんな…」
「もう大分アタシに戻ったのよ♪見てみる?」
と、僕の答えも待たずに彼女は服を脱いでしまった。
その胸にはブラジャーに包まれて、確かにオッパイが出来上がっていた。
それだけではない。男としては体毛は薄い方だったが、彼女はしっかりと脱毛していた。すべすべの肌も完全に「女の子」だった。
一点、ショーツから張り出したペニスが、「僕」の名残りのように感じられた。

「即にでも切ってしまおうと思ったけど、気が変わったわ♪」
と彼女。
「あんたの可愛い姿を見たら、ココが言うことを聞かないの♪これって単なるナルシズムなのかしらね?」
と再び僕に近づいてくる。
「アタシの…元のアタシの姿をもっと良く見せてもらえないかしら?」
僕が何の反応もできないうちに、彼女は僕の服を脱がしてしまった。
「この肉体のコトはアタシが一番良く知ってるからね♪」
と抱き寄せ、耳元に息を吹き掛けられた。

「ぁあん…」
無意識のうちに僕は艶めかしい吐息を漏らしていた。
「ほら♪ココ、感じるでしょ?」
ビクリと全身を電流のようなモノが走り抜けてゆくのを感じた。
これが「女の子」の快感なのだろうか?
彼女の指が僕の股間を割って入ってくる。彼女の指が僕の身体の内側にある。僕の…膣の中で彼女の指が動いていた。
僕の股間が濡れていった。彼女が手を動かすとクチュクチュと卑猥な音がする。それは僕の肉体から染み出た「愛液」に違いない。
「そろそろ良いかしらね?」
と彼女は一旦僕から離れた。
そして、僕の脚を開かせると、その上に覆い被さってきた。
乳房が触れ合う…そして、僕の股間に彼女のペニスの先端が触れる。
彼女は一気に腰を下ろし、僕を貫いていた…

 

 

彼女の余命は確かに三ヶ月だった。
しかし、悪魔は彼女に正しく情報を伝えていなかったようだ。多分、嘘はついていないのだろうが、故意に情報が欠落していた。
彼女が自らの余命を知ってから三ヶ月が過ぎた。彼女の肉体は未だ健在である。
しかし、彼女の魂が占領した「僕」の身体はその日、自動車に撥ねられ呆気なく死んでしまった。…彼女の魂と共に…

三ヶ月前、余命を知った彼女に「別の肉体」を勧める悪魔。奴は肉体と共に魂が昇天すると告げる。
誰だって、三ヶ月後に彼女の肉体と共に、その内にある魂が昇天すると思うだろう。
しかし、余命は彼女の「魂」の残り時間だったのだ。

 
僕は…僕の魂は、彼女の肉体と共に生き続ける。
その魂の寿命が尽きるまで…

« 無題 | トップページ | ひと夏の思い出 »

コメント

この悪魔って、なかなかのセールスマンですね。
契約事項には、嘘はないのですから。
三か月の寿命に関して、確認しなかった契約者のミスって事になるんでしょうね。

さすが、奈落さん!ですね。
こういう、オチ大好きです。

コメントを書く

(ウェブ上には掲載しません)

トラックバック


この記事へのトラックバック一覧です: 魂の時間:

« 無題 | トップページ | ひと夏の思い出 »

無料ブログはココログ