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2012年6月18日 (月)

侵入(3)

気がつくと、俺は独りベッドの上にいた。

そこは俺の部屋でも、マサシの部屋でもなかった。窓に掛かるカーテンが可愛らしい花柄であった。他の調度を見ても、この部屋が女の子のものである事を示していた。
(ここは彼女の部屋か?)
俺は起き上がり、この部屋の主であろう彼女を探そうとした。

が、即にそれが無駄な事であるとわかった。
そう…今の俺が彼女自身だった。

未だバーチャル空間にいるのかとも思ったが、部屋の隅々まで鮮明に確認でき、バーチャル空間独特の「重要度の低い部分がはっきりしない」というのはないようだ。
試しに、窓を開けて遠くの景色も見てみたが「特定の場所だけ鮮明に見える」という事もなく、一様にぼやけて見えた。
(つまり、俺の意識が彼女の中に取り込まれてしまったというのか?)
試してみたい事はいろいろあったが、今ここに必要な機材は何もなかった。
となれば「俺」の家に出向くしかない…
だが、それには服を着替える必要がある。パジャマのままで外に出る訳にはいかない。
彼女の部屋のクローゼットを開けて、適当に服を選ぼうとしたが、そこにはワンピースの類しか入っていなかった。
俺としては、トレーナーにジーンズでも…と考えていたのだが、選択肢がかなり狭まってしまった。仕方なく、適当に取り出したワンピースを着…ようとして、手が止まった。
(下着…やはりブラジャーはしないといけないのだろう…)
引き出しに詰まった下着の中から適当に取り出す。パンティとセットになっているようなので下も穿き替えた。
引き出しにはストッキングもあったので、これも穿くことにした。
その上でワンピースを着てみた。

鏡に写してみる…
首から下だけ見ている分にはおかしい所はないようだ(ガニ股にならないように気を付ければだが)。
が、一旦顔が写ると、どこかがおかしいのだ。
お化粧をしていない事に気づくまで、かなりの時間を要してしまった。

机の上に箱があった。
中に、アクセサリーや化粧品が入っていた。これで化粧をすれば良いのだが、男の俺にできるとは思えなかった。
試しに口紅を取り出してみた。
蓋を取り、尻を回すと中身が出てくる。ここまではスティック糊と同じだった。
今度はそれを自分の唇に塗り付けるのだ。見た目はクレヨンと同じだ。唇の輪郭の内側を塗り潰せば良い…
が、鏡越しではなかなか上手くいかない。
はみ出しては洗面所で石鹸を付けて口の周りを綺麗にする。再び鏡の前でトライする…
三回程繰り返して化粧することは諦めた。

箱の中にはもう一つ、アクセサリーが入っていた。
ピアスだった。
(これも付けるのか?)
と箱から飾りのぶら下がったピアスを取り出した。
男でもピアスをしている奴はいるが、俺がそうであったという事実はない。
つまり、付け方も判らないという事だ。

 
次に何をすれば良いかを考えあぐねていると、チャイムが鳴った。ドアホンに顔が写っている…「俺」の顔だ。
「ショーイチ?居るんでしょう?ドアを開けなさい。」
「俺」の声がドアの向こうから聞こえてくる。女言葉で喋っていられるのが恥ずかしい。
慌ててドアに飛びつき、ロックを外した。

「ふ~ん、着替えはしたんだ。ちゃんとブラもしてるようね♪」
部屋に入るなり、彼女は俺のチェックを始めた。なんとかNGは免れたようだ。
「で?あんたは何をしようとしていたのかな?」
と、俺の顔で見下ろされると、俺が思っていた以上に威圧感がある。
「とにかく、この状態を回避するには俺の部屋の機材で状況を確認する必要があるんだ。」
「ふ~ん♪じゃあ、何でこんな所でぐずぐずしているのかな?」
「ぐずぐずって…確かにこの状態はそうだな。でも、お化粧しないで外に出られないだろ?俺には無理だから、どうしようか悩んでたんだ。」
「まあ、外に出なかったのは正解かな?じゃあ、手伝ってあけるからもう一度やってみて♪次からは独りでできるように覚えるのよ。」
「次って?」
「しばらく、このままで良いでしょ?もう少し男のコを経験したいんだ♪あんたには反対できない筈よね?」
「…」
「さぁ、椅子に座って頂戴♪」

 

 

あって言う間に化粧は終わった。アクセサリーも身に着け、出かける準備が済んだ…
「ありがとう。これで外に出れるよ。」
「もう一つ注意して!!こんたけ可愛くなったんだから、ちゃんと女言葉を使わないとおかしいわよ。」
「な、何だよ?俺が女言葉?喋らなければ良いんだろ?俺の部屋に戻るだけだよ。大丈夫♪」
「誰がリョーイチの所に行くって言った?あんたはこれから、俺とデートに行くんだよ♪」
「でえと?」
「そっ♪男だった女の子とデートする男って萌えるシチュエーションじゃない?」
(お前ってつくづく腐だな?)
「何か言った?ほら、ぐずぐずしないでサンダル履きなさいな♪」

 

そして、やってきたのは駅ビルのブティックだった。
まわりは女の子しかいない。男は近づくな!!オーラが充満している中に、彼女は俺の手を引いてずかずかと入っていった。
「これと、これ。これなんかも良いんじゃない?」
と数着の服を俺に手渡すと、試着室に送り込んだ。「着ろ!!」という事なのだろう…
「服を選んでくれるなんて素敵な彼氏サンですね♪」
と着るのを手伝ってくれた店員が言う。
「彼氏なんかじゃ…」
男言葉になりかけて、慌てて語尾を濁した。
「じゃあお兄さん?でも、あまり似てないわね♪」
「違います。…彼氏で良いです…」
「そうよね♪それにしてもセンス良いわね?貴女にピッタリよ♪」
もう一度乱れがないか確認し、カーテンを開けた。
「いかがかしら?」
と店員が「俺」の姿の彼女に声を掛けた。
「ふ~ん。こんな感じになるんだ…後ろを見せて。」
と俺を半回転させる。
丁度正面に鏡があり、試着中の俺自身を映し出す。
(確かに似合ってる。が、これを着ているのが俺だというのが情けないな。)

「じゃあ、次を着て♪」
とカーテンが閉じられた。
別の服を着て、再び彼の目に晒される。
これを二度、三度と繰り返し、ようやくの事で解放された。
店を出る時には、着てきた服を紙袋に入れてもらい、買った服を着たままデートを続ける事になった。
「何か明るくなったね♪」
彼がそう言ったのは、この服の所為かも知れない。
俺としてもこの服のデザインは結構気に入っていた。さらに、彼がこれを買ってくれたという事が、俺をウキウキさせていた。

「お茶にでもするか?」
と喫茶店に入る。
「ケーキセットなんて良いんじゃない?」
と進められたものをせのまま頼んだ。
メニューを見た途端、ケーキが欲しくなったのは事実たった。太っちゃうかも…という内なる声を他所に、運ばれてきたケーキを口に入れる…
「美味しい♪」
ほっぺたが落ちそうとはこの事を言うのだろう。そんな俺の表情の変化を、彼はコーヒーを飲みながら楽しそうに見ていた。

ゲームセンターでゲームをして、プリクラして、カラオケで歌った。
お腹が空いたので、ファミレスで夕食にした。
そして今…何故か俺はラブホテルにいた…

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