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2012年5月 6日 (日)

…の記念に♪(3/4)

「お早う♪」
と和哉の声…
窓の外は朝日に照らされていた。

ようやく、ホテルで一晩を過ごしたことを思い出した。
「ああ、お早う…」
と僕は応えたが、そこに違和感を感じた。
「あ、ああー…」僕の声が女の子の声みたいに高くなっている。
「和哉?ぼ、僕の声…」
「薬がちゃんと効いているようだね♪昨日は人前で喋れなくて辛かっただろう?薬で声帯を調整しておいたから、今日は自由に喋れるよ。」
「か、勝手に?!」
「君の為を思ってだよ。それから、声は変わっているけど言葉遣いはこの薬では変えられないから注意してくれよな♪ボクっ娘も可愛いが、俺の彼女には普通の女の子が良いからね?」
「だ、誰が彼女だよ!!」
「お互いに肉体関係を持った仲じゃないか。この際、友達から一歩進んでも良いんじゃないか?」
と和哉は僕の頬にキスをした。
「い、いつまでこんな格好をさせておくつもりなんだよ?僕は一刻も早く元に戻りたいんだ。即にでもここを出ようよ!!」
「ここの朝食は格別だよ。せっかく付いているんだから食べてからでも良いだろ?」
「ああ…」と同意したが、即に食堂に向かう事はできなかった。
シャワーを浴びさせられ、昨日の服を着た上で化粧を施された。
「朝飯だけなのにそこまでするか?」と聞くと、
「女性は人前に出る時、必ず化粧をするものだよ♪実家でも宅配業者が来たとき、慌てて口紅を塗ってたりしなかったか?」
母がそんな事をしていた記憶はなかったが、あり得ない話ではないと妙に納得してしまった。
「それに素顔を見られると、お前が女装している事がバレるんじゃなかったか?」
それを言われては化粧をしない訳にいかない。僕は素直に椅子に座り、和哉に任せる事にした。

 

確かに、朝食に出されたフレンチ・トーストは絶品だった。ヨーグルトも、それにかけられたブルーベリーのソースも申し分なかった。
食後のコーヒーをゆっくりと飲もうとした所で尿意を覚えてしまった。
「ちょっとトイレ…」と言って立ち上がったとき
「入る方を間違えるなよ♪」と和哉に言われた。
(この姿で男性用に入る訳にはいかないよな…)
これまでは部屋に付いていたトイレで済ませていたので、男性用/女性用を考える事はなかった。
(流石にこの股間では立ったままする事はできないが…)
僕は初めて女性用のトイレに入った。
お化粧直しもする為か、洗面所の鏡も大きく、全体的にゆったりとした感じになっていた。
その先にはドアが並び、男性用に常備されている小便器は存在していない。
誰もいないようなので一番奥の個室を使うことにした。

出てくると、一人のご婦人が化粧を直していた。僕は軽く会釈して手を洗った。
顔をあげると、鏡に僕の顔が映っていた。和哉に化粧をしてもらった時に比べると口紅が取れているようだった。
席を立つ時、和哉が持っていくようにいったポーチの中に口紅が入っていたので塗り直す事にした。
くだんのご婦人も口紅を塗り直していた。
横目で彼女のやり方を確認し、同じように自分の唇にスティクを走らせた。
和哉のようには上手くはできていないが、それなりには仕上がったと思う。
(練習すればなんとかなりそうだ)
と思いつつ、席に戻っていった。

 

 

部屋に戻り鏡の前に座った。
この部屋を出て和哉のマンションに戻れば、いつもの僕に戻れるのだ。つまり、このお化粧した顔はもう見られなくなる…
「どうした?」と和哉が声を掛けて来る。
「もう少しだけ…」
(僕は何を言っているのか?)
「何をしたいんだい?いずれにしても、化粧を直さないと外には出られないな♪」
もう一度鏡を見た…

「プッ!!」

と笑ってしまう。僕は涙を流していたようで、お化粧が見事に崩れていた。
「ご、ごめん。でも、今度は自分でやってみるよ。」
洗面台で一度綺麗に化粧を落として鏡の前に座った。和哉に並べてもらった化粧品を和哉がやってくれた手順を思いだしながら、自分の顔に塗り込み、描いていった。
和哉のとは少し違ったが、おかしくはないように仕上がっていた。

「お待たせ♪」と、僕は立ち上がった。
「君が化粧をするのを見ていると、退屈はしないね♪」
「や、やだっ!!ずっと見てたの?」
「まあ、おかしな所があったらその都度指摘してあげようと思ってね。けど、大丈夫みたいだね♪」
と和哉も立ち上がる。
「さあ、行こうか?」と彼の手が差し出された。
「うん♪」
僕は女の子がするように、彼の掌に自分の手を重ねた。
その手をつないだまま、僕達はホテルを後にした。

 

 
「どこに行くの?」
ホテルに来た時はタクシーだったが、和哉はそのまま歩いてホテルの敷地を出ていこうとしていた。
「このまま帰って、即にこの姿の君とお別れするのが勿体なくてね。」
ホテルは街から離れた場所にあった。レストランの窓から見えた絶景が、計算されたものだとしたら、そこからの景色はストレートに感動を与えてくれる。
そこから見下ろす街の景色…街を構成する構造物は人工のものであるが、その土地そのものは大自然の一部であることがわかる。
人工のものも自然に取り囲まれ、自然の一部にも思える。
それをガラス越しではなく、崖の上を吹く風を感じならら見ている僕達もまた自然の一部に違いないと感じさせられる。

「何か…言葉にできないよ…」と僕は呟いていた。
「言葉にしなくて良いよ。俺は君とこの景色を見たかっただけなんだ。…その、一体感って言うのかな?俺達がひとつにつながっていることが実感できるだろ?」
僕はそう言った彼の横顔を見て、ドキリと心臓の鼓動を高まらせた。
「ありがとう。一緒にいられて楽しかったよ♪」
再び彼に手を引かれ、来た道を戻り始めた。

「キャッ!!」
悪戯な風が僕のスカートを捲りあげようとした。
慌てて手で押さえて難を逃れたが、見ると和哉が微笑みを浮かべていた。
「な、何を笑ってるのよ?見えなかった筈よ!!」
僕は何故か顔が赤く火照るのを感じた。
「うん♪大丈夫だよ。君がすっかり女の子らしくなったなぁと思ったらね。」
「そういう風に仕向けているのは和哉だろ?早く帰ろうぜ!!」

そうは言ったものの、まだスカートを穿いていたいと思う自分もそこにいた。男っぽく喋るのも、意識していないと難しくなってきている。
(どうなっているのだろう?)
と僕が考えようとすると

「あぁ、結婚式があるんだ。」と和哉。
彼の視線の先にはウェディングドレス姿の花嫁さんの姿があった。もし、僕があれを着ることになったら、隣には誰が立つのだろう?
白いタキシードのズボン…視線を上げてゆく…お腹から胸へ…喉、顎、唇…
ぎゅっと抱き締められ、その唇があたしの口を塞いだ…彼の甘い息が送り込まれ、あたしの意識と一緒に吸い出されてゆく…

永遠のようで一瞬の出来事…

離れてゆく「彼」の唇。
そして「彼」の顔が確かになる…和哉がそこにいた…

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