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2012年5月 6日 (日)

…の記念に♪(4/4)

 
(僕は何を想像していた?)
現実に意識を戻す。
花嫁の一行は庭での写真撮影を終えたのだろう、次のイベントに向けてホテルの中に入っていった。僕達はタクシーで和哉のマンションに向かおうとしていた。

「和哉?」
僕は和哉に声を掛けていた。
「駅前で寄り道して良い?」
「もちろん♪」と言って運転手に行き先の変更を告げた。

駅前のモニュメントの前で待っていてもらう。
僕は女子トイレでお化粧が乱れていないか確認すると、物陰から「僕」を待っている和哉の姿を眺めてみた。
モニュメントの前は待ち合わせ場所の定番で、ちょくちょく恋人達が待ち合わせしているのを見かけている。
そんな「彼女」達と同じように…

「和哉~♪」
と小走りしながら手を振ってみた。
「おまたせっ♪」と和哉の胸に飛び込む。
「お、おぅ。」
少し戸惑ったように、路を往く人々の視線を気にするように…だけど、しっかりと僕を抱き締めてくれた。
周りの人には微笑ましいカップルのワンシーンとしか映っていないだろう。
(ここでキスまでねだるのは反則かな?)
「ねえ、駅ビルの中を少しぶらついて良い?」
と和哉を伴って近くのエスカレータを上がる。
普段は行く事のない女性向けファッションの店が連なっているフロアをゆっくりと歩いていった。
(あっ、これ何か可愛い♪)
素敵なワンピースを見掛けると、自分で着てみた所を想像してしまう。
「何だったら、試着してきても良いぞ。」
服を見つめる視線があから様だったのだろうか?和哉がそんな事を言ってくれた。
外見はどうあれ、和哉にとっての僕は「男」友達なのだ。そんな僕が「女」の服に興味を持つなんて…
「ほら♪それなんかお前に似合うんじゃないか?」
と僕の背中を押して試着室に向かわせた。
「彼氏さん?素敵な方ね♪」
カーテンを開けながら店の人がそう言った。
「そ、そんなんじゃ…」
「でも、お兄さんとかじゃないんでしょ?」
と突っ込んでくる。
「着替えますから。」と僕はお喋りを打ち切ってカーテンを閉めた。

ここに入ってしまったからには試着せずはなるまい。
僕は今着ている服を脱ぐと、和哉が似合うと言ってくれたワンピースを着ていった。
背中のファスナーを上げ、裾の乱れを直し、もう一度鏡でおかしな所がないか確認した。
そして、カーテンを少し開けて和哉を呼んだ。
「どお?」と全身を晒す。
「いやぁ、思っていた以上に可愛いよ♪」
誉められて余計に嬉しくなる。
「良かったらコレも着てみないか?お店の人のイチオシだそうだ。」
と別の服が渡された。

こうしてしばらくの間、あたしのファッションショーが続いた。
服を選ぶのがこんなにも楽しいものだと初めて知った気がする。最後にコレが良いな♪と思った服をもう一度着てみた。
(やはりコレよね♪)と、一大決心のうえレジにもっていこうと…値札を見た途端、一気に意識が現実世界に引き戻されてしまった。

「また今度来ます…」
元の服に戻り、和哉と店を後にした。

「本当に良いのか?俺が買ってあげても良かったんだぜ。」
和哉はそう言うが、やはり自分のものは…と言う前に、僕は元の姿に戻らなくてはいけないのだ。
元の姿のままワンピースなど着れる筈もない!!タンスの肥やしにするにしても、親にでも見つかった時に何と言い訳をすれば良いか…

(早く戻らなければ!!)と自分に言い聞かす。
そうでないと、このままずるずると和哉と一緒にいる事になる。それは楽しく、心地よいものだったから、余計に言い聞かせなければならない。
そう、僕はこのままずっと和哉との…デート…を続けていたいと望んでいたのだ。

「お茶でもしていこうか?」
和哉の提案に僕の意志は脆くも崩れ去る。
和哉はストレートのコーヒー。僕は紅茶のケーキセットを頼んでいた。
ケーキは甘く、僕の抱えていた憂鬱な気分を一気に吹き飛ばしてしまった。
「何?」
ふと目を上げると和哉がじっと僕の事を見ていた。
「さっき、気に入った服が買えなくて鬱ぎ込んでいたろう?ケーキで気分転換できて良かったなと思ってね♪」
「セットのケーキで懐柔できるなんて安上がりでしょ?」
「安い高いは問題じゃないよ。今の君の笑顔が手に入れられるなら、俺はどんな手段でもとる覚悟さ。」
「大げさだね♪けど、ケーキの美味しさに勝るものは無いと思うよ。」
「今はそれでヨシとしておこう♪」
和哉は微笑みながらコーヒーの残りを飲み干していた。

 

「さてと♪」
トイレでお化粧を直してきた僕が席に戻ると、和哉が真顔になって僕に言った。
「君は今、どう考えている?さっきも言ったが、俺は目的のためならどんな手段でも取る。だから、君の望むものの為には何でもするつもりだ。」
「僕の…って、話が飛躍していないか?」
「俺が手に入れたいのは、君の笑顔だ。その為に君が笑顔を作り易いシチュエーションを作ってきた。しかし、これから先は君の自由意思を無視する事はできない。だから聞いているんだ。」
「シ、シチュエーション?」
「そう。この状況は誰が見てもデート中の恋人同士だし、君もそんな風に錯覚していただろう?」
振り返れば、僕は度々自分を本物の女の子だと錯覚していた。そして、その行動は和哉とデート中の恋人そのものだった。
「僕は…」
なかなか考えがまとまらない…

「俺としては、君にはこのまま俺の恋人として女の子になりきって欲しい。ゆくゆくは結婚して家庭を築きたい。」
「結婚?」
唐突な話ではあるが、和哉ならそれん現実のものとしてしまうだろう。
現に、今の僕はどこから見ても女の子だし、ブティックの店員も疑う素振りすらなかった。だから、僕が女の子としてお嫁さん…
(だから、ホテルで僕に花嫁を見せたのだろうか?)
「子供が欲しければ、君が産むことも可能にしてやるよ♪」

「か、和哉は話が飛び過ぎるんだ。」
僕は和哉の言葉を遮り、今一度冷静に考え直してみた。
(和哉は僕の親友だ。親友が恋人になったとて、その関係が無くなる事はない)
和哉は大人しく僕を見ていた。
(もし、僕が女の子になったら?…今のこの状態がずっと続くんだ。僕はこの状態に不快感を持っているか?)
目を閉じ、想い返す。
(僕は…あたしは、この状態が嫌じゃない。いえ、あたしは女の子でいた方が、より自分らしいと感じている♪あたしが女の子になった事で発生する様々なコトは皆和哉がなんとかしてくれる筈…)
あたしは和哉を見た。
(あたしは和哉と結婚する事になるのだろう。その時はちゃんと両親に祝福してもらえるよね♪)
「和哉…外に出て良い?」

あたしは和哉と外に出ていた。
あたしが目指したところ…一軒の花屋の前だった。
「和哉、あたしにバラの花を一本買ってくれる?」
「あ、ああ…」
花屋に消えた和哉が戻ってきた時、一本のバラが透明なフィルムに包まれ、赤いリボンが結ばれていた。
「これで良いか?」と和哉が差し出す。
「今年はね♪」とあたし…
「あたしが和哉の彼女でいる間は、毎年この日にバラを頂戴♪それも、毎年一本づつ増やしていってね?」
「それで良いのか?」
「それができるのなら、あたしは和哉の恋人にでも、お嫁さんにでもなってあげるわ♪」

 

 
3年後には、あたしは正式に和哉の妻となっていた。性転換パンツも胸を膨らませてくれた特殊パッドも、即にあたしの肉体と一体化していた。
今、和哉の手であたしのお腹に子宮が埋め込まれようとしていた。
「孫の顔が見たい」という親達の後押しもあったが、あたし自身、この人の子供を産みたいと切に願うようになっていたのだ。

「これで終わり。安定化するのに一年は掛かるが、これで君も赤ちゃんを産むことができるよ。」
と和哉
「それからコレ♪」

そう。今日はあたし達の記念日。
バラの花束があたしの胸に抱かれていた。

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