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2012年3月31日 (土)

着てっ♪

「俺にコレを着ろと?」
「全て君に任せるって言ったのは貴方でしょう?あたしだってタキシードを着てみたいんだもの♪」
「だからって、何で俺まで?」
「結婚式の主役二人が揃ってタキシードじゃサマにならないでしょ?任せると言ったのは貴方よ!!オ・ト・コに二言は無いんじゃなかったかしら?」

あたしは数日後には「旦那様」になる彼氏に、なんとかソレを着せようと考えていた。
(誰だって女の子なら一度は憧れをもってその服を眺めていた筈だものね♪)

 

 
それは、あたし達が中学三年の元旦だった。
高校受験の合格祈願も兼ねて近くの神社に初詣でに来ていた。
大きな神社ではないので、氏子が甘酒をふるまうテント一つがいつもとは違う景色で、参拝客もパラパラしか現れなかった。
が、偶然にも彼女も一人で正面の階段を上ってきていた。
彼女は佐伯恵子…中学の同級生だった。
「君も合格祈願?」
お参りを終えていた僕は、彼女の参拝が終わるのを待って声を掛けてみた。
「あら、冬木君だったの。明けましておめでとう♪」
「あ、ああ。おめでとう。甘酒飲む?」
彼女がうんと言ったのでテントで甘酒の入った紙コップを受けとると、社の裏手に回った。
「こうやってゆっくり話した事なんてなかったわね。」
「まあ、なかなか話すきっかけがなかったからなぁ…」
「中学三年間。一緒のクラスになって一年。何もできなかったって事かしらね?」
と意味深に笑い掛けてくる。(もしかして、僕が佐伯さんの事が好きだって事がバレてるのか?)
「さ、佐伯もやはり合格祈願?」
「冬木君みたいに受験勉強をがんばらなければ行けない学校じゃないけどね。受験日に病気や怪我で行く事ができなくならないように神様にお願いしたんだ。」
「それこそ神頼みの分野だね。僕なんか、元の出来が悪いから、その辺まで神様に頼まないと…」
「勉強のやり方に問題があるんじゃないの?男の子って雑念が多すぎるくらいだって聞いたことがあるわ。」
(はい、雑念で一杯です。いつも佐伯さんのコトばかり考えています)なんて口が裂けても言えないよな…
「そうだ、これから冬木君家で勉強を見てあげようか?」
「?!?!」(そんな夢のような事があって良い訳がない)「イイよ。君だって受験生だし…」
「あたしは結構ヒマしてるから大丈夫よ。さあ、行きましょう♪」
と佐伯さんが立ち上がった。
「ち、ちょっと!!」
と僕も立ち上がる…が…

慌てて立ち上がったので、バランスを崩してしまう。
その先には社の裏手の階段がある。
(マズイッ!!)
と思ってもどうする事もできない。

絡み合うようにして、二人は階段の下に転げ落ちた…

 

 

 

気が付いた時、二人の心と体が入れ替わっていた…

怪我がない事を確認した後、僕等は僕の…冬木の家に向かった。
「僕」の部屋でこれからの事を話し合った。「今」入れ替わりを知られて高校受験がややこしくなる事は避けたいと言うことで僕等の意見は一致した。
しばらくは僕が佐伯さんの佐伯さんが僕のフリをすることにしたのだった。

 

…それから十年近くが経つ…
あたしは女子校に受かり、彼はあたしが必死に頑張って入ろうとしていた高校に易々と合格した。
そのまま、それぞれの高校に進学…あたしは女子高生として三年間を過ごした。
次の四年間…大学は彼がランクを落としてくれたので、あたし達は一緒のキャンバスに通うことができた。
高校生の時から、二人はずっと付き合っていた。それは、単なる同じ秘密を共有するだけの関係で留まる筈もなく、気が付くとごく普通の男と女の関係になっていた。
大学に入ると、周りからも「それが当然」という感じで同棲もしていた。親も「彼」なら…と、黙認していた。

今は彼も就職し、あたしは専業主婦みたいに家事をこなしている。入籍していないだけで、あたし達は既に夫婦みたいなものだった。
(幸せだけど…)
このままの日々が続いて行くのかなぁ?と思っていたある日、
「恵子。結婚式をしよう。」
と彼が言ってきた。
「なんかズルズルとここまできたけど、俺も就職し男として自立する時期だと思う。だから、恵子を正式に僕の妻としたいんだ。」
「それは良いんだけど、結婚式って結構費用が掛かるのよ。大丈夫なの?」
「親族だけなら、そうは掛からないだろ?」
「貴方も社会人なんだから、会社の方とかも必要でしょ?費用の事ならコツコツ貯めてきたものがあるから大丈夫よ♪」
「そ、そうか?」
「貴方も毎日、お仕事で忙しいでしょ?式場との連絡とか色々あるから、あたしに任せておいて♪」
「ああ、君に任せるよ。」

 

 
って、計画は進んだのだけど、やはり「男」の体にウェディングドレスをまとった姿を他人には見せたくない!!と言う事だったが、写真だけは撮らせてもらった。

これが「僕」と「佐伯さん」の結婚記念の写真だ。
病院から戻ったあたしは久しぶりに「写真」を開いたのだった。
(昔を想い出すのも最期にしないとね…)
あたしは写真を閉じると、しっかりと封をして机の奥に仕舞い台所に戻る。
(旦那様はお赤飯だけで解ってくれるかしら?)
あたしはお腹に掌を充てると、今日病院で確認できた新しい命にそう話し掛けていた。

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