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2012年3月 2日 (金)

ささやかな変化

(トシかなぁ…)

まだ老いるには早い年齢ではある。白髪も数える程だし、額の生え際の後退もない。が、
(なんで勃たないんだ?)
俺の股間のモノは萎えたまま、ピクリともしない。
(精神的なものもあると言うが、医者に行くのも面倒だ。)

最近、仕事の忙しさに追われ気にしていなかったが、俺のペニスが勃起しなくなっていたのだ。摩っても、叩いても何の反応もなかった。
慌ててエロ本を買ってきた。俺の意識は即にでも興奮するのだが、下半身には何の変化もなかった。
ペニスに刺激を与え続けるるのに腕が疲れたので、その晩は悶々とした気持ちのまま寝ることになってしまった。

意識すればする程、何でもない事がエロチックに見えてしまう。
通勤電車の中で近くに女性がいようものなら、痴漢行為をはたらいているかのように息を荒げ、顔を真っ赤にしていたに違いない。

それでも、俺の股間に反応はなかった。

 

 
仕事や普段の生活を行う上で支障がある訳ではない。
が、気にし始めるとなかなか収まりがつかないものである。そして、些細な事にも肉体が反応してしまう。
尿意が気になり、頻繁にトイレに向かうようになった。そして、その度もついついペニスの状態を確認してしまう。
気の所為かペニスが縮んでる?いや、実際にペニスは縮んでいた。

気にし始めた事が原因なのだろうか?
昼過ぎまでは普通に立ってできていたモノが、次第にズボンの中から引き出すのも難しくなっていった。
夕方近くになると、個室に座って用を足さざるを得なくなっていた。飛沫が太股を濡らす。
女の様に、小用だけでもペーパーを引き出さなければならないのが悲しくなった。

ペニスの委縮は留まることはなかった。
家に帰りトイレで確認すると、ペニスの痕跡さえ見当たらなくなっていた。
小水は俺の股間から直接奔っている。

夕食を終え、風呂に入る。
風呂場の鏡に自らの裸体を映してみた。見た目は「男」の肉体ではある。
が、股間はスッキリとしていた。それが「男」の股間であると言い切れる者はいないだろう。
湯船に入り、直接その場所に触れてみた。

そこには何もナイ…

俺の指はペニスのあるべき場所を通り越し、尻の穴に届く。
(?)
いや、それは尻の穴ではない。その手前にある穴に指が捕らわれていた。
俺が女であれば、それを「膣口」と呼んでいただろう。しかし、それは幾重にも襞に囲われたものではない。
単に「穴」が開いているとしか言いようがない。が、穴の中には指が入り込めた。
しっとりと濡れているような肉壁に挟まれる。体温の暖かさを感じる。
指を更に奥に進める…

「ぁん♪」
俺の口から女の喘ぎ声のようなものが発せられた。
それが「快感」から発せられたものであることに気が付いたが、それを認めることはなかなかできなかった。

 
風呂から上がり、火照った体を静める。
あれが「女」のオナニーと同じものであったことは間違いないだろう。確かに俺は「イッ」たようだ。その時、頭の中は「快感」で真っ白に塗り込められていた。

(俺の肉体はどうなってしまったのか?)
考えてどうにかなるものでもないと解っていた。
その日の俺は、パンツを穿き、パジャマを着て眠りに就くしかなかった。

 

なくなってしまったモノが再び生えてくる事もなければ、それ以上の肉体の変化もなかった。
一時はバストも膨れ、どんどん「女」に近づいてゆくのかと心配したが、それは危惧に終わった。
俺は何食わぬ顔で仕事を続けていた。
気にしなければどうという事もない。
満員電車の中でも変に興奮することもなければ、トイレの回数も普通通り…個室を使う関係から、ガマンせず早めに行くようにはしているが…になっていた。
違うといえば、女の快感に目覚めてしまい、毎晩のようにオナッてしまっていた。

そんな日々が数日続いた後、シクシクと下腹部が痛んだ。そして、パンツに血が付いているのを見つけた。
これが女であれば即に「生理」と結論付けられる。が、はたして「男」の俺に生理があるのだろうか?
医者に見せるのもためらわれたので、俺はコンビニでタンポンを買ってくると、女のように血の出てくる穴に詰めておいた。

 
出血は3日程で収まった。
それ以外はいつもの毎日が過ぎて行く…と思っていたが、生理(?)の前後で何かが変わっていた。それは、肉体的なものではなかった。
俺も他人に指摘されるまで気付く事がなかった。俺の所作が「女っぽい」のだ!!
言われてみれば、椅子に座る時は膝を揃えていた。
ガニ股で歩く事もなく、床に落ちた物を拾う際にも上体を倒すのではなく、上体は起こしたまま、膝を曲げて取る事を無意識のうちにやっていたのだ。
そもそも、こうやって床の上に座ってリラックスしているが、俺はあぐらではなく、膝を揃え両足先を広げる「女の子座り」をしていた。

女の子を見る目も変わってきていた。
性的な対象として見ることはなくなった。彼女等を見る時、真っ先に胸や尻に向かっていた視線は、服や小物に向かっていた。
(可愛い♪)(綺麗!)そんな感想がでてくる。
(あんな服なら着てみたいかな?)と、俺に女の服を着させようというような感想もある。
男が女の服を着ることは「女装」であり、特別視される行為であることは判っていた。が、俺が彼女達の服を着ることが「女装」でありとは即には結びつかなかった。
俺がその服を着ることが、ごく自然な行為であると思っていたのだった。

 

会社が休みの日。
「背広」を着なくても良いのだ。その日は一日中、自由な服が着れる♪

俺は朝早くに起き出すと、風呂に入り、全身のムダ毛を剃り落とす。薬用石鹸を流した後で乳液を全身に刷り込んでゆく。
風呂から上がり、ショーツを穿き、ブラジャーを付ける。ブラの中にはシリコンパットが貼られている。
別に「女装」しようとしているのではない。単に、これから着ようとしている服は胸にボリュームがあった方が綺麗に見えるし、下着のラインが気になるからだ。
キャミを着て鏡の前に座る。
服に合うように肌の色を整えるのだ。折角買った綺麗な服だ。綺麗に着てあげないと可哀そう♪
俺はウィッグを頭に乗せ地毛と馴染ませるようにブラッシングする。俺の髪もだいぶ伸びたが、この服のためにはもう少しボリュームがあった方が良いのだ。
この服を着て街中を颯爽と歩いて往くのは、どれ程気分が良いものだろう。
そんな理想の自分を想像し、少しでも近づけれるように準備をする。
ストッキングに脚を通す。服を着る。アクセサリーを付け、鏡の前に立つ。
理想の自分まであと少し。
真新しいパンプスを下ろした。
(玄関にも姿見が必要ね♪)
今日はこれで良しとして、玄関のドアを開けた。

 

街を歩いて往く。
人々の視線が気になるが、それもまた心地よい。ヒールがカツカツと音をたてると、気分もノッてくる。
女性より男性の視線が気になる。値踏みするような女性の視線はイタイが一瞬で離れてゆく。
男性の視線は、舐めるように俺の胸や尻をしつこい程からみ付かせてくる。
ナニを想像しているかは想像に難くない…が、残念だな♪俺は「男」だ。お前等と付き合う可能性は皆無なんだな。
と、視線の中を突っ切って行く快感に浸っていた。

 
(ジュ…)
と、俺の股間に染みでてくるものがあった。
それは「愛液」だった。俺の股間にはペニスはなく、代わりに女性の膣のようなモノが穿たれている。ご丁寧にも月に一度は生理のように血を流すのだ。
当然、性的快感に浸れば、そこは愛液で満たされる。それは、毎夜のように行うオナニーの時に経験済みだ。
が「男の視線」といった第三者からの刺激により、股間を濡らすような事は初めての経験だった。
更に、第三者の…というより「男の…」という所に若干の驚きがあった。
(俺が女のように「男」に感じている?)

確かめる事はできるか?
俺が女性よりも男性に対して性的興奮を得ている…という事は、俺にとり、女性が性対象であり続けているか確認できれば良いのだ!!
先ずは女性が多くいる場所にいってみた。トイレ…駅前のショッピングモールの婦人服フロア…には短いが列ができていた。知らぬ顔で最後尾に並ぶ。
…何も言われない…
男子トイレより進み具合が遅いのが当然である事に改めて気付いた。俺の番になり、扉の開いている個室に入った。スカートを捲り、パンストとショーツを下ろす。
座って用を足す事には慣れていたが、周りが女性ばかりの空間にいるという経験はまだなかった。
他の個室で用を足している音が間近に聞こえる…が、そんな事では何の興奮も起きなかった。

無駄だとは思いつつも、ランジェリーコーナーに向かった。明るいフロアにはカラフルな下着が並んでいた。
エレガントな下着にうっとりする事はあっても、性的に興奮することはない。気がつくと気に入った下着を買っていた。

本屋で雑誌の立ち読みをした。グラビア誌には水着のアイドルがセクシーポーズを決めている…が、こんなものでいちいち興奮するのはガキしかいないだろう。
アダルトコーナーに向かう。いかにも…な男達がバラパラと見本誌をめくっている。
俺もそれを手にしてみた…そう綺麗でもない女が裸体を晒している。悪趣味としか思えない。
別の一角にレディースのコーナーがあった。

….….….

見入ってしまっていた。
俺の股間が反応していた。
ソコに描かれた世界に引きずり込まれる…

(あんな風に抱かれたい…)

俺の視点はいつしか「女」の側に偏ってしまっていた。
股間の潤みに気付き、慌てて本を置いた。
気分を落ち着けるために喫茶店に入る。いつもなら無条件でブレンドコーヒーをブラックで頼んでいたが、なぜかカフェオレを注文していた。
席に座り、両手でカップを持ち上げる。それが、両肘を絞めた女っぽい仕草であった事になかなか気付かなかった。

(俺は「女」になってしまったと言うのか?)
自問してみるが、否定できるものが何もなかった。
今は意識的に自分を「俺」と呼んでいるが、これが「あたし」になってしまえばもう「男」としての俺は存在しなくなるのだろう…

「ふぅ…」

タメイキをつく。
もう、どうにもならないのだろう。俺はこのまま流されて「女」になってしまうのだろうか?
いや、既にもう俺は「女」なのだ。女の服を着て、化粧をしている。そもそも、肉体からして「女」なのだ。
単にペニスがないだけではない。興奮すれば濡れ、月に一度は生理が来る。胸が貧弱なだけの「女」なのだ。
女らしい仕草の所為か、筋肉の付き方が女っぽくなっている。骨格も、骨盤が広がってきているのだろう。
最近、ズボンの腰周りをきつく感じるようになっていたのだ。
胸も「ナイ」とは言え、男の時よりは脂肪が付いてきている。
「男」であった俺は、それらを全て無視していたのだ。

髭を剃らなくなってどのくらい経っていたか?剃り落とした胸毛は生えてきたか?
伸ばし始めた髪の髪質はあきらかに違っているではないか!!

 

 
俺は…あたしは「女」なのだ。
決めた!!
あたしは男の「俺」から決別する。仕事も辞めてしまおう。「女」であれば定職はなくとも、アルバイトで食べてゆく事はできるだろう。
休みが明けたら「辞表」を持って会社に行こう。
勿論、背広なんか着て行かない。女なのだから、タイトスカートのスーツが良いよね♪
あたしは立ち上がると、新たな買い物に向かっていった。

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