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2012年3月31日 (土)

トライアングル

「今日わ~♪」
美佳が声を掛けてきた。
「お前はいつもお気楽そうで良いな~?」
満面の笑顔の美佳を見ると、ついついそう言いたくなる。
「その位の気持ちを持ってないとヤッていけないからね♪」
と笑顔の奥に哀しい目を覗かせる。
「悪い…」
その目を見て俺は罪悪感に駆られる。
「気にしないで。結局は自業自得なんだから…」

 

美佳は半年前まで男の子だった。
いや、正確に言えば美佳という女の子と、剛という男の子がいたのだ。俺達三人は仲の良い友達関係にあった。
生まれ月の早かった俺が兄貴格で、何かと言うと二人の相談相手になっていた。
俺は無条件で二人の事が好きだった。それが恋愛感情であったのかと聞かれると、否定できないものがあった。
二人への愛情は等しく、確かに美佳に向けられる愛情は恋愛感情と言ってもおかしくない。しかし、俺は剛に対しても美佳と同じ感情を抱いていた。
剛が女の子であれば、即にそれが恋愛感情であると答えていただろう。剛が男の子である事から、俺はそこに一線を引くようになっていた。

「あたし、剛の事が好きになっちゃったみたい。友達…って言うんじゃなくて、彼を一人の男性として愛してしまった自分に気がついたの。」
美佳からそんな事が告げられた。

「剛に告白して、もし断られたら、今までのあたし達の関係が崩れてしまうかも…って思うと、怖くなっちゃって…」
美佳が俺に「それ」を告げた時点で、俺達の関係は崩れてしまったのだと思う。
(俺の愛する二人が、互いに愛し合う?そうなれば、俺の居場所はどうなるのだろう?)
「お、俺の方からそれとなく剛に聞いてみるよ。」そう言うと
「ありがとう、和也♪」と満面の笑みを俺に見せたのだった。

 
「剛は特定の女の子と付き合おうとは思わないのか?」
どう話を持っていけば良いのかわからないまま、会話だけが進んでゆく。
「僕には和也や美佳がいてくれるからね♪」
「タイプの子っているのか?」
「皆には美佳を連想させるようにして答えてるけど、本当は……和也だから言うけど、本当は僕は女の子を好きになるって気持ちになれないんだ。」
「女性恐怖症ってやつか?」
「それはないよ。美佳と話すように、他の女の子達と話すのも苦になる事はないよ。どちらかというと彼女達とのお喋りは楽しそうだと憧れているくらいだ。」
「じゃあ、もし…もし、美佳がお前と付き合いたいと言ったらどうする?」
「そりゃあ美佳と一緒なのは楽しいよ。でも、改めてお付き合いするとなると考えてしまうな。たぶん、僕は美佳を恋愛対象として見ることはできないと思う。」
「じゃあ、美佳が俺と付き合いたいと言ったら?」
「…ィャ…」
俺が剛を見つめると、彼は俯いたまま何も言わなくなってしまった。

 

剛の事をどういう風に美佳に伝えるべきか悩んでいる間にも、美佳は何かと剛と一緒に行動するようになっていった。
それが美佳の一方的な思いでしかないのは端から見て良くわかった。剛は「仕方なく」といった風に美佳に接していた。

痺れを切らしたか、美佳は当て付けに俺にモーションを掛けてきた。
剛が見てる前で自分の胸を俺に触らせたり、さもキスをしているかのような構図を剛に見られるように細工したりしてきた。

「和也はやっぱり美佳のような女の子らしい女の子の方が良いよね?」
剛がぽろりとそんな事を言った。
「…僕が美佳だったら…」

 

「和也♪今日、暇?」
美佳が電話を掛けてきた。暇である事には間違いないし、美佳は電話も掛けずに押しかけてくるのが常だった。
わざわざ電話を掛けてきたのには何か訳があるのだろう。
「別に良いが、今日は剛、風邪で寝込んでるんだぜ?」
「剛君が関係ないと、あたしと付き合ってくれない訳?」
「そ、そんな事は無いよ…」

こうして誘われた先は、ごくありきたりのデートコースだった。その日の美佳は、いつも以上に自ら純粋に楽しんでいるようだった。
そんな美佳が無性に可愛く見え、帰りの別れ際に、思わずキスしてしまった。
「和也はあたしとならキスしてくれるのね?」
美佳はそう言って去っていった。

(何なんだろう?この違和感は…)
その夜、俺はなかなか寝付けなかった。

 

 

「お早う、和也…」
浮かない顔で美佳が現れた。
「どうかしたのか?」
「昨日さあ…」
美佳は言葉を切った。
「あたしって、あんたとどこかに出かけてた?何か記憶があやふやなんだ…」
「昨日、誘ってきたのは美佳の方だろ?」
「何か、良く覚えてないの…。良かったら、昨日と同じ所に連れて行ってくれない?」
「って、お前が行きたいって俺を連れまわしたんじゃないか?」
「だから、記憶があやふやなのよ!!それを確かめるためにも…お願い♪」

 
結局、昨日と同じ事をして過ごす事になった。
そして判ったことは、昨日の美佳は「別人」であったと言う事だ。
今日の美佳は不安に駆られてはいるが、いつもの彼女だった。愛しくは思うものの、抱き締めてキスをしたくなる程ではない。
だが昨日の彼女は…

 

トントンとドアが叩かれた。
開けるとそこにいたのは「美佳」だった。
「どうした?帰ったんじゃないのか?」
「か…和也とは離れたくない…ずっと、このまま…」
そこに居たのは「昨日の美佳」だった。
俺は躊躇わずに彼女を抱き締めていた。

「もう気付いているんでしょ?あたしが本物の美佳ではない事…」
俺の腕の中で俺を見上げ、俺を見つめて彼女は言った。
「ああ…、だが、お前は何者なんだ?」
「薄々は気付いているんでしょ?あたしの正体♪でも、それを明かすのはもう少し待って欲しいの。」
「?」
「あたしの正体を明かす前に…あたしを抱いて…」
「今も抱いているが?」
「そう言う意味じゃないわ。あたしを女として抱いて欲しいの。…あたしとSEXしてっ♪」

 
気が付くと、俺はベッドの上で彼女を組み敷いていた。二人とも全裸であった。
「来てっ♪」
美佳に誘われるように、俺は彼女の女陰に自らを没していった。
「あん、ああん…」
と彼女は艶めかしい声をあげる。
俺は夢中になって腰を突き動かしていた…

「あ、あっ、ああーーっ!!」
と彼女が嬌声をあげる。イッたのだろう。
快感の余韻に浸る彼女を、俺は飽きもせずに眺め続けていた。

 
「和也?」
「ん?」
彼女はゆっくりと瞼を開けた。
「あたしが…僕が剛だって気付いていたんでしょ?」
「薄々はな♪だけど見た目には美佳だし、今も女性としてSEXできていたよな?」
「この肉体は美佳そのものだからね。今の僕は美佳の体を借りているようなものなんだ。もちろん美佳には無断だけどね♪」
「悪い事は言わない。こんな悪戯はこれっ限りにしておけ!!」
「わかってるょ…。でも、僕にとってコレは悪戯なんかじゃない!!これが僕の本当の気持ちなんだ。」
「…俺に抱かれたかったと言う事か?」
「うん…女の子としてね。」

俺は何と言ったら良いかわからなかった。
俺の言葉は多分、俺の本心そのものだったのだろう…
「俺も剛の事は好きだ。剛が女の子だったら何の躊躇いもなく好きだと言っていたろう。しかし、愛する気持ちに男も女もないことが判った。」
見ると剛=美佳の目から涙が落ちていた。
「だが、それは他人を犠牲にしては成り立つものではない。美佳は解放してやれ。俺はお前自身を抱いてやるよ。」
「和也…」
剛=美佳はそのまま泣き疲れ、眠ってしまった。

 

 
電話の音に目覚めさせられた。
「つ、剛が…」
剛のお母さんだった。
「剛が死んじゃう…」と彼女は言っていた。
「剛は夕べ俺と…」と言いかけ、思い止まる。
夕べ俺が抱いたのは剛であって剛ではないのだ。
俺の隣で寝ているのは「美佳」なのだ。
「…とにかく、即にそちらに行きます。」
と搬入先の救急病院を聞いて電話を切った。

「おい、起きろよ!!」
と美佳の体を揺り動かす。
「…んん、和也?お早う♪」
「で、お前はまだ剛なのか?」
「え?…うん、そうだけど?」
「緊急事態だ。後の事は良いから、即にお前の肉体に帰れ!!大変な事になっているぞ。」
「大変…て?」
「説明は後でゆっくりしてやる。今は一刻も早く、お前の肉体に戻るんだ!!」
俺は出かける支度をしながら、剛=美佳の様子を窺った。
最初は精神を統一するように座禅し、瞼を閉じ、深い呼吸を繰り返していた。
…その顔に歪みが生まれる。
焦りの色が濃くなり、最後には「お゛ーーっ!!」と叫び声をあげた。

「和也…戻れない?!」と剛が俺を見る。
「そうか…」と呟く。
そして、俺は状況を説明してやった。
「今は美佳として、一旦美佳の家に戻るんだ。可能な限り状況を連絡してやる。」
そう言って、剛に美佳の服を着させて送り出した。

 

現状は動かしようがなかった。俺が病院に着いた時には、剛の肉体は霊安室に移されていた。
数日後には、葬式が始まり剛の肉体は荼毘に伏されていった。
剛は美佳の肉体に黒いワンピースをまとい、俺のとなりで自らの葬送の儀式に参列していた。
「僕が美佳の人生を奪ってしまったんだ。」そう言って剛は自らを責める。
「美佳の存在は失われてしまった訳ではないのだろう?お前が幸せに生きていれば、いつ美佳が復活しても恨まれる事はないよ♪」
としか俺は励ます事ができなかった。

 

あれから半年。
美佳となった剛は「美佳」としてなんとかやっていた。
多少は雰囲気が違うのも、親友を亡くしたショックと、その後の展開…俺と正式に恋人同士になったこと…に起因していると周囲の人々が暖かく見守ってくれていた。
今の剛は「生まれた時から美佳であった」ように見える。
「たぶん、美佳の意識があたしに融合してきているんだと思う。あたしが知る筈のない昔の…小さな女の子だった頃の事をふと思い出す事があるのよ。」と剛…美佳が言う。

 

 

 

 

 

(理想通りだ♪)
一番の「悪者」は「俺」なのだろう。
剛を愛していることを自覚した俺にとり、剛が「男」である事が最大の障壁であった。そこに「美佳」という恋のライバルが現れたのだ。
俺は躊躇することなく、美佳の存在を消し去り、俺の願望を満たす手筈を整えていった。
「憑依」を実践しているサイトを巡りあるき、俺の野望を満たすのに十分な術式を見極めた。そして、それとなく剛をそのサイトに誘導する。
はたして、剛は美佳に憑依して俺の前に現れた。
あとは、いかにその状態で固定化させるかであった。

その術式では長時間の憑依を行うと、本来肉体が仮死状態に移行するようになっていた。
仮死状態が「死亡」と判定され、戻る肉体を失わせる…
俺は剛に軽い暗示を掛け、一時的に憑依を解くことができないようにした。
そして仮死状態の剛が家族に発見される…

こうして、俺は邪魔な美佳を排除すると同時に、「女」の剛を手に入れたのだった。

 

 
「美佳」が俺を誘う。
俺は流れに身を任せる。
「今」が良ければ、それで良いのだ…

「何も気にするな♪」
と耳元で囁く…が、彼女には聞こえていないようだ。

俺の腕の中で「剛」が愛らしく喘いでいた…

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