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2012年2月11日 (土)

香里(1/6)

交差点の電信柱の脇に花束が置かれていた。
確か、数日前には無かったと記憶している。多分、その間に事故があったのだろう。
その花束はここで亡くなった人に捧げられたものに違いない。

「…あのぉ~」
微かな声に振り向くと、そこには今にも消えてしまいそうに影の薄い女の子が立っていた。
「…あたしの声、聞こえます?あたしの姿、見えますか?…」
と恨めしそうな目で俺を見ている。
(関わるな!!)
本能が告げていた。彼女は幽霊だ。多分、その花束が捧げられた当人に違いない。
…が、俺は彼女と目を合わせてしまった。

その途端、陽炎のように佇んでいた彼女の輪郭が、くっきりと現実帯びていた。
「良かった~♪あたしの事がわかる人に出会えて。あたし、工藤香里といいます。」
と恨めしそうな顔が、一瞬で満面の笑顔に変わっていた。
(カワイイ♪)と思わずときめいてしまった。
「あたし、気が付くとココにいて、それからどこへも行けなくなってしまったの。前を往く人に声を掛けても誰も知らんプリで、あたし、どうして良いかわからなくなってしまって…」
と泣きそうな顔になる。どうにも、彼女に黙ってこの場を離れる事はできそうになくなってしまった。
「あのぉ~、あたしの手を掴んで引っ張ってみてもらえませんか?」
と差し出された手を、思わず掴んでしまった。
ひんやりとした感触が伝わって来る。幽霊ではない、彼女の実体がそこにあるように感じられた。
「良いかい?」
と聞くと、彼女は大きく頷いた。

それほど力を入れた訳ではない。手を引くと彼女は一歩、俺に近づいた。
彼女の顔に笑顔が戻った。
「どこまで行けば良い?」
交差点から大分離れた所で彼女に聞いた。
「あっ、すみません。」と慌ててつないでいた手を離した。
「大丈夫みたいです。ありがとうございました。」
深々と頭を下げる。
「まあ、俺も大した事をした訳じゃない。じゃあな♪気を付けて帰るをだぞ。」
俺は彼女に手を振って背中を向けると、本来の目的地に向かって歩き始めた。

 

 

 

「…あのぉ~」

しばらくして、俺は再び彼女の声を聞いた。
振り向くと、いまだそこに彼女が立っていた。
「すみません。別に、後をついてきた訳じゃないんです。歩かなくても、貴方が動くと同じように動いてしまうんです。」
(あちゃーっ!!)
俺は心の中で叫んでいた。これって幽霊に憑かれたっていう状況ではないでしょうか!!
「ちなみに、俺はここに立っているから、俺から離れるように動いてみてくれないか?」
俺が言うと「あ、はい。」と素直に従おうとする。が、
「だめみたいです。さっきまでと同じようにどこにも行けません。」
と済まなそうに俺の顔を窺う。…仕方がないか…
「わかった。もう良いよ。こうなったからには、君が成仏できるよう協力してあげよう。」
「あのぉ、成仏って、あたしって死んじゃったんですか?」
「気づいてなかったのか?」
「あたしもオカシイとは思ってたんですけど。そうか、死んじゃったんだ…」
「何なら、お前ん家に行ってやろうか?線香の一本でもあげてあげるよ。」
「そんな…良いんですか?」
「まあ、暇だしね♪」

 

俺は彼女の住所を聞いた。

その家はひっそりとしていた。
工藤という表札。両親の名前に続いて香里の名前もあった。
チャイムを鳴らすと、廊下を歩いてくる気配がした。
ガチャリと扉が開く。
「どなた?」
と中年の女性が現れた。

「マ、ママ!!」
香里が叫ぶ。
が、その声は「俺」の口を突いて出た。
母親の顔が不審に歪む。
「あ、あたし…香里よ。」
俺の口からこぼれる声は「俺」のものではなかった。口調も声質も若い女の子そのものだった。
「ほ、本当に香里なの?」
そう言う母親の顔が、俺の目の前にある。確か、身長は俺の方が高い。先程まで彼女を見下ろしていた。
が、屈んでもいないのに、同じ高さに彼女の顔がある?!俺の背が一気に縮んだとでも言うのだろうか?
「とにかく、上がって頂戴。」と促され、玄関を上がる。
靴は何もしなくてもスッポリと抜け落ちた。服もぶかぶかになっている。動き辛い…と感じたそばからズボンの裾を踏み、バランスを崩す。
「キャッ!!」と叫んで俺は廊下に倒れてゆく…

 

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