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2012年2月11日 (土)

香里(4/6)

朝になり、香里が起き上がる。
パジャマを脱ぐと、ブラジャーを着け、タンスから取り出した服を着てゆく。女の子らしいコーディネートだ。
「お早う、ママ♪」
と台所に声を掛けたところで、肉体の主導権が俺に渡された。
居間には既に父親が起きて座っていた。
「無理に香里のふりをしなくても良い。私達も香里が死んだ事を受け止める必要があるからね。君の事は一夜の夢として片付けておきたい。」
再び彼の向かい側に座らされた。
「死んだ筈の人間が、この家に居る事をどうご近所に説明すればよいか…それに、君には君の生活もある筈だ。できれば、昼前には出ていってもらいたい。」
俺の奥で香里が息を呑むのを感じた。(けれど、これは仕方のないことなんだよ)と言ってやる。
「勿論、君のその体だ。服など必要なものは香里のものを持って行けば良い。足りないものがあれば送ってあげよう。しかし、私達ができる事はそこまでだ。」
「解っています。それでも十分過ぎるくらいです。」
俺は立ち上がると香里の部屋に戻っていった。

 

「これ…」
と母親から紙袋が渡された。
「貴方が来た時に着ていた服や靴が入っているわ。」
「ありがとうございます。」
俺は香里のブーツを履き、ぎゅうぎゅうに着替えなどを詰めたキャリーバックを引いて、香里の家を後にした。

行き先は「俺」のアパートである。
元のズボンから取り出した鍵を鍵穴に入れる。カチャリと鍵が外れ、ドアを開けた。
ムアッ!!
異臭が鼻を突く。
「こんなに臭かったことはないんだけど…」
ブーツを脱ぎ捨て、部屋に上がると窓を開放した。玄関のドアも開けてあるので、風は通る筈だった。
(あまり効果はないかもね。)
と香里
(これって「男」の匂いよ。部屋に染み付いているから簡単には消えないわね♪)
「自分の臭いには気付かないってやつかぁ。我慢するしかないんだね。」
と開けた窓とドアを閉める。

他人が見たら、どう思うだろう。男の部屋に荷物をもった女の子が独りぽつりと佇んでいる…
誰がその女の子が住人の男=本人であると想像できるだろうか?
「取り敢えず、荷物を片付けさせてね♪しばらくはこのままなんだから、貴方のタンスを借りるわよ。」
香里は肉体の主導権を奪い取ると、タンスの引き出しの中のものを空いていたダンボールに詰め込んでいった。
そして、空いているスペースに彼女が持ち込んできたモノを詰めてゆく…
(まさか、俺のタンスの引き出しにブラジャーやパンティが入るとは思わなかったよ。)
「そもそも、女の子の体になっている事から考えられないわよね。でも、こうして着られる服が用意できたのは幸運じゃないの?」
(確かに…この体で俺の服しかなかったら、どうにもならなかったろうな。)
俺の服の詰まったダンボールが部屋の隅に積み上がった。その分、女物の服が俺の部屋を占拠したという事なのだろう。
「机の上も良いわね?」
と俺の机に鏡が立てられ、アクセサリーと化粧品がその脇に並べられた。
「貴方も覚えておいた方が良いから♪」
と机に座ると、化粧品の名前をひとつひとつ確認し、やりかたを説明しながら化粧を始めた。
「家では素面だけど、外に出る時、特に先輩の前では恥ずかしい姿を見せられないからね♪」

一通り化粧が終わると外に出てゆく。
(これから「先輩」の所に?)
「今は食料の買い出しよ。さっき見たら、冷蔵庫には何も入ってないじゃない。先輩に会うのは明日ね。」
(いつもホカ弁かコンビニだからなァ…まさかとは思うが、俺に料理を…)
「女の子の嗜みは、みんな覚えてもらうわよ♪」

 

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