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2012年1月22日 (日)

羽衣伝説(1/6)

その浜には天女が降りて来る…

ここは、そんな言い伝えのある浜辺だった。
気分転換に、海辺の旅館にやってきた。夏は海水浴客で賑わう浜辺も、今はひっそりとしていた。
浜辺には形の良い松の木が点在している。天女が降りてきては、その松の枝に羽衣を掛けて水浴びをすると言い伝えられてもおかしくはない風情があった。

都会の喧騒から離れたおかげで、昨夜は早々と眠りに就く事ができた。
目覚めたのは、まだ陽も上がっていない時間だった。ぐっすり眠れたので気分も爽快。二度寝するのも勿体ないと、旅館の下駄を借りて早朝の浜辺を歩いてみる事にした。
薄暗い砂浜は、24時間365日止まる事のない波の音に包まれている。波の音に紛れるように風の音…
それに重なるように、俺の履いた下駄が砂を踏む音がする。

…いや、それだけではない。「波」以外の水が跳ねる音がした。

海で何者かが水浴びをしている。
(まさか、天女か?!)
遠目にも白い肌が解る。そのシルエットは若い女性に他ならない。
見てはいけない!!と、松の影に身を隠すが、点在する松にそれだけの能力があるか疑問はあった。
背中を松に付け、息を潜める。水浴びの音に変化はないようだった。

ふ~う、と音に出ないように溜め息をつく。溜め息をついた事で心に余裕が生まれる。余裕が生まれた事でまわりのモノが見えてくる…

俺の目に布の端が映っていた。透明に近い白い布…追ってゆくと、それは松の枝に掛けられた、一枚の細長い布であった。
シンプルなものではあったが、この世のものとは思えない美しさがある。
(…天女の羽衣?)
そうとしか言いようがなかった…

気が付いた時には、既に俺は羽衣を手に旅館の部屋に舞い戻っていた。

 

 

 
遅めの朝ご飯の後、俺は浜辺に戻ってみた。早朝に見た幻想的な光景はそこにはなく、普通の砂浜がそこにあった。
羽衣の掛かっていた松に向かう。
確かに、この松だ。俺が背中を付け、羽衣を見た松だ。そしてそれを外した枝も、そのままの形でそこにあった。
振り返り、波打ち際を確認する。
天女が水浴びをしていたあたりだ…

「ご旅行ですか?」
不意に声を掛けられた。声から、若い女性であるとわかる。
振り向くと、そこにはおさげ髪でセーラー服を着た女子高生が立っていた。
天女のような美女ではないが、それなりに可愛い娘だ。
「天女には会えましたか?」
「それは伝説の話だろう?天女など存在しないよ。」
「まあ♪こんな季節外れの海に来る観光客は、皆一目天女を拝みたいっていう人ばかりだと思っていたわ。」
「天女を見たって言う人がいるのかい?」
「貴方の言う通り、噂にしか過ぎないわ。でも…」
と、彼女は厳しい顔を俺に見せた。
「貴方は彼女を見たのでしょう?あまつさえ、彼女の羽衣までも盗んでいった。」
「羽衣…って、あれは本物なのか?」
「返してっ!!お姉ちゃんには生きる為に必要なもなの!!」
「生きる為?…大げさ過ぎないか?」
「何処にあるの?っ!!」
俺は彼女の迫力に圧されてしまった。
「…宿の、俺の鞄の中に…」
「来てっ!!」
俺が答え終わるのも待たずに、彼女は俺の手を引いて歩きだした。

 

「この鞄だよ。」
部屋に入り、縁側の端に置いておいた鞄を指す。
「ダメよ、触らないで!!」
彼女は俺を押し退けるようにして縁側に向かうと、鞄の中身を確認した。
「あった…良かった♪」
と、彼女の表情が緩んだのは一瞬の事。
「貴方も来て!!」
と鞄を手に立ち上がった。

 

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