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2012年1月22日 (日)

羽衣伝説(2/6)

「お姉ちゃん!!」
彼女は家の中に駆け込んで行った。
鞄を人質に取られているので、仕方なく俺も彼女に続いて家の中に入っていった。

彼女の向かった先からはチャプチャプと水の音がした。どうやら風呂場に向かったようだ。
「お姉ちゃん。コレ!!」
彼女の声と伴に鞄が開かれる音がする。
「入っても良いわよ…いえ、入って頂戴。そして貴方の犯した過ちを見て!!」

俺が中を覗くと、彼女が湯舟の中にいる女性に羽衣を手渡していた。
彼女こそ「天女」だった。今朝、いまだ闇の中ではあったが、白い肢体と美しい面だちははっきりと覚えていた。
が、
彼女は「天女」ではなかった。
彼女には脚がなく、湯舟の中には魚類の尾ヒレがあった。
「人魚?」
彼女が羽衣を纏ってゆくと、真っ白だった肌に多少の赤みが入り、人間らしくなっていった。顔の造作も変わる。人間離れした天界の美しさが薄れ、人間らしくなる。…かといって美しさを損なうことはなかった。
劇的な変化は下半身。人魚たらしめる魚類のヒレが二本の脚に変わってゆく。瑞々しい太股に挟まれた股間には、女性独特の切れ込みが生まれ、淡い陰りが…
「それ以上は見ちゃダメよ!!」
と、俺の目の前に鞄の底が迫ってきた。
「ミドリ?!」
人魚だった女性の声が聞こえるのと、鞄の底が俺の顔面を捉えるのが、ほぼ同時だった。

クラクラと眩暈がして床に膝を着く。
「大丈夫ですか?」と女性の声
「お姉ちゃんを困らせたんだから当然の罰よ。」と女の娘
「な、何とか…」
と俺は立ち上がった。
「少しお話させてください。」
「姉」の方が俺を居間に誘った。
「お姉ちゃんは着替えてきた方が良いわよ。その格好は若い男性には目の毒だと思うわ。」
確かに、全裸にバスローブを巻いただけの姿は刺激的過ぎた。
俺は彼女と別れ妹のミドリと居間に入った。
「これでも飲んでて。」
と紅茶のカップが渡された。コーヒーばかり飲んでいるので、紅茶の良し悪しなど解る筈もないのだが、漂ってくる芳醇な香りからして、かなり上級の茶葉が使われていると思えた。

しばらくして着替えた姉がやってきた。
天女/人魚の時よりは見劣りするものの、美人には違いない。その美人姉妹が並んで座り、その向かい側に俺が座っていた。
「羽衣は、私たちにはなくてはならないものなのです。羽衣を身体に巻き付けることで、貴方に見せたように、人間の姿を保つことができるのです。」
彼女は優雅に紅茶のカップを手にした。「絵になる」とはこういう事を言うのだろう。彼女は話を続けた。
「それ以上に、羽衣がないと私達は地上で生きて行くことができないのです。元々が水の中での生活なので、肺での呼吸のみでは必要な酸素の量が確保できないのです。」
と彼女はその細い腕を俺の前に伸ばした。
「羽衣は私達の皮膚を被い、表面に触れている空気から酸素を吸収し、私達の皮膚を透過して直接血液に酸素を送り込んでくれるのです。」
「そんな事ができるの?」
しかし、全身を被って「人魚」から「ヒト」に変身させてしまう事を想えば、稚技にも等しいものなのであろう。
「しかし、そんな事…変身も含めて、俺に教えたり見せたりして問題ないのか?」
「あんたの所為でお姉ちゃんは死ぬかも知れなかったのよ。事の重大さをあなたも知っておいてもらいたかったの。」
「それ位にしてあげて、ミドリ。彼にはこれからの事を説明しなくちゃいけないんだから。」
「これからの事?」
と俺は聞き返した。

「そう。貴方は私達の秘密を知ってしまった。喋らないと誓ってもだめなの。貴方の記憶を消すこともできるんだけど、わざわざこうやって教えた意味がなくなるものネ♪」
ぐっと俺は息を呑んだ。
「あなたには二つの選択肢があるわ。一つは当然の事だけど、秘密を知った人には消えてもらうの。」
彼女の妖艶な微笑みに背筋がぞくりとする。
「もう一つは、貴方も私達の仲間になってもらうの。秘密を共有すると伴に、知られた場合に自らの命の危険が伴うようにするのよ♪」
「け…」俺の声は震えていた。
「結局、選択肢は無いのと同じじゃないか?」
「それは違うわ。貴方が私達の仲間になることを自ら望んだという事実が必要なのよ。」
「わ、解った。同意するよ。」
「同意ではダメ。貴方の言葉でそれを望まなくちゃ。」
「…お、俺をあんた達の仲間にしてくれ。」
「ク・ダ・サ・イ」
「仲間にして…ください。」
「それで良いわ。ミドリ、アレを持ってきて♪」
「ここにあるわ。」
妹が姉に手渡したのは、天女の羽衣と対を成すような、漆黒の生地だった。

 

 

俺は全裸にされた。
若い二人の女性の前に、自らの股間を…男性のシンボルを晒すのは躊躇われたが、彼女等の指示に逆らう事は許されなかった。

最初に脚に巻かれる。それは魚の尾ヒレに変わっていた。黒い羽衣は腰を被い、腕を被ってゆく。
腕は風呂場で見た彼女と同じように、人間のものではない白い肌に変わっていった。
それは色だけではない。脚が尾ヒレに変わった事に比べれば、大した事ではないが、腕の太さも彼女と同じくらに細くなり、同じような変化は指先にまで及んでいた。

羽衣は首から顔を被う。
急に息苦しくなる。
深呼吸を繰り返すが、一向に楽にはならない。
「その体は肺呼吸はお飾りに過ぎないのよ。お姉ちゃんの苦しさが解った?」
「あ、ああ。十分に、身をもって解ったよ。だから、どうにかしてくれ…」
息苦しさと伴に発した声は俺のものとは思えないくらい、甲高い声に変わっていた。
「そうね。お風呂場に連れていってあげましょうか♪」
と、俺はミドリに抱え上げられた。
「体重もずっと減ったからね。お風呂場には鏡もあるから、新しい姿を良く見てみれば良いわ。」

ザーッと頭からシャワーが浴びせられる。
水が髪の毛に染み渡ると、さっきまでの息苦しさが和らいでゆく。
「人魚は髪の毛で呼吸するのよ。湯舟に水が溜まれば、もっと楽になるわよ。」
ミドリが水に濡れた俺の髪を指ですいてゆく。その髪の長さは、俺のものとは思えないくらい長くなっていた。

「どう?人魚になった感想は♪」
そう言われ、俺は浴室内の鏡に自分を写してみた。
そこには「俺」の面影などカケラもない、人間離れした美貌を持った、先程目にした人魚姿の姉に酷似した…「女」の人魚の姿があった。
甲高い声、華奢な腕や指…なにより、大きく膨らんだ双つの胸…などから、想像はついていた。が…
「何で…女…なんだ?」
俺は何とか、それだけを言った。

 

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